福岡市政に10の提言(8)立花高等学校が実践し続ける“不登校に寄り添う教育”のかたち

(学)立花学園 理事長 水落清十郎 氏
立花高等学校 校 長  齋藤眞人 氏

 不登校を経験した生徒を積極的に受け入れ、独自のカリキュラムと校風を強みに、地域でたしかな存在感を築いている立花高等学校。校長・齋藤眞人氏と、同校を運営する(学)立花学園の理事長・水落清十郎氏に、“立花イズム”の核心と、その教育が目指す次なる構想について話をうかがった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

不登校支援の先駆けとして
独自の校風を磨く立花高等学校

    ──校長として立花高等学校に赴任した経緯を聞かせてください。

校長・齋藤眞人氏
校長・齋藤眞人氏

    齋藤眞人氏(以下、齋藤) 公募に応募し、教頭として赴任したのが36歳のときです。ところが、赴任して3カ月で当時の校長が辞められ、担うべき役割が一気に重くなりました。そこから先生方とともにさまざまな課題に一つひとつ必死に向き合い、気がつけば22年。校長としての20年も、あっという間でした。

 ──経営上の手応えは、いつごろから感じられましたか。

理事長・水落清十郎氏
理事長・水落清十郎氏

    水落清十郎氏(以下、水落) 以前は長く定員割れが続いていましたが、2014年ごろを境に定員充足についての不安はほぼなくなり、先を見据えた経営判断ができるようになりました。現在は全日制課程の普通科に509名が在籍しています。

 ──立花高等学校は、不登校が社会問題として大きく取り上げられるようになる以前から、不登校を経験した生徒を積極的に受け入れてきました。

 齋藤 取り組みを続けてきたことで、不登校の子を持つ保護者の方々の間で、1つのブランドとして認知されるようになったと感じています。実際にきていただければよく分かりますが、とても自由な学校です。服装や髪形に制限はなく、授業中にスマホを扱っている生徒もいます。秩序や規律を重んじる従来型の学校を好む方々には、あまり合わない校風かもしれません。

 ただ、「この学校なら、うちの子も楽しく通えるかもしれない」と思って来られる方々にとって、当校は希望の場所になります。そうした生徒を「止まり木」のように受け入れられる学校でありたいと、方針を振り切って運営してきました。

家庭の課題を受け止める
理念が根づく教育現場

 ──不登校の背景はさまざまで、いじめだけに限られるものではありません。そのうえで、教育現場では今も、子どもを不登校に追い込むようないじめはあるのでしょうか。

 齋藤 当然ながらあります。ただ、率直に申し上げると、今は学校が子どもを不登校に追い込んでいる側面もあると感じます。本来であれば教員は生徒の前で膝を折り、話を聞き、気持ちを受け止めなければいけない。ところが、教員が生徒を上から指導する意識のまま、不必要に子どもを押さえつけすぎているケースが見受けられるのです。

 3年前の文科省の調査が象徴的です。「教員が原因で不登校になった」とする割合は、教員側に聞くとわずか1.2%でした。ところが、当事者である子どもたちや保護者の方々に聞くと約30%に跳ね上がる。この乖離を私たち教員がもう少し意識する必要があると思います。

 もちろん、真剣に生徒と向き合っている教員方が大半であることは間違いありません。子どもたちの本質も、昔も今も変わっていない。ただ、教員側の意識の変化が追いつかず、教育の質を保つことが難しくなってきているとも感じています。

 ──生徒たちと関わるうえで、大切にしていることを教えてください。

 齋藤 「よかよか」という共感的理解の姿勢につきます。生徒さんの手を引っ張り上げる「介入型支援」より、生徒さんが立ち上がりたいと思ったときに掴める手がそばにあるかどうかが問われる「伴走型支援」を心がけています。

 ──子どもと関わる大人が少なくなるなかで、学校や教員がはたす役割は以前にも増して大きくなっているように感じます。そのなかで立花高等学校が生徒や保護者から選ばれているのは、生徒一人ひとりの背景に目を向け、受け止めようとする考え方が教員に根づいているからではないでしょうか。

 水落 教職員の間には、自然と醸成されてきた空気感があります。それは、校長が一貫した理念をもち、朝礼など日々の業務のなかで、その考えを教員に伝え続けているからです。新しく来た先生は、最初は他校との違いに驚くと思いますが、少しずつ慣れ、立花らしさになじんでいきます。

 齋藤 67人いれば、さまざまなキャラクターの先生がいます。その多様さ自体に価値がある。一色に染まらない方がいいんです。大人が思想的に統一されてしまうのはある意味危険ですよね?異議を唱える人の存在はとても大切です。同じ評価軸だけになってしまうと、同じような先生ばかりになってしまうからです。

 面白い例では、県外の私立で「教員らしくない」と言われ続け、心を折られた若手教員が、当学を紹介する記事を読んでわざわざ応募してくれました。金髪にピアスを付けた異色の教員ですが、生徒に慕われ、生き生きと働いています。このように、「立花高校で子どもたちと向き合いたい」と理念に共感して志望してくれる教員は、確実に増えています。

自由がつくる自律心
子どもたちの笑顔を支え続ける

 ──立花高等学校の目指している学校のかたちはありますか

 齋藤 足湯のような学校にしたいです。風呂に入るほど熱くなくていい。せめて足先だけでも温かい――そう感じてもらえる場所です。熱湯のような環境では、子どもはすぐに出ていってしまう。ここはちょうど良い温かさだからこそ、踏みとどまれるんです。

 普通の学校は「きちんと、しっかり、ちゃんと」を求めます。うちはその真逆で、「のんびり、まったり、ゆっくり」です。技能や知識を教えること以上に、自他の違いに気付き受容しあえる感覚を身につけてもらう場所になりたいと思っています。

 ──自由な校風は、生徒にとって安心できる居場所になる一方で、甘さと受け止められることもあるかもしれません。そうした環境のなかで、生徒たちはどのような力を身につけて卒業していくのでしょうか。

 齋藤 はっきりいえるのは、大人の指示ではなく、自分で考え、自分で決められるようになるということです。私たちは、授業に出ない生徒さんに「出ろ」とは言いません。それを甘いという人もいますが、私は違うと思います。自分で出ないと決めた以上、そこから生じるリスクはすべてその生徒が背負う。見方を変えれば、人のせいにできない厳しい学校ともいえます。

 水落 自分で判断すれば、時に間違いを犯すこともあります。でも、自律心や自己判断力は、そうした経験のなかから生まれてきます。だからこそ、間違いを恐れず行動してほしい。そんな経験を積んでいけば、生徒さんたちは「本当に不登校経験者なのか」と思うほど、前に立ち、率先して活動する力を開花させていきます。

学校内の様子
学校内の様子

 ──最後に、今後の構想を聞かせてください。

 水落 独自の悩みもあります。現在、30代の教員が約6割を占めており、20年後には人件費負担が確実に重くなります。これを緩和するには、年齢構成の分散化が必要です。フリースクールの拡張や保育所の併設など、新しい施設をもつことで構造を整えていく。まだ構想段階ですが、教育も事業ですから、投資していかなければなりません。

 私たちが取り組み始めたころと違い、今は他校でも不登校対応クラスを設ける学校が増えてきました。子どもたちが選べる時代になってきたわけですから、喜ばしいことです。そのなかで当校としては、学校単体で完結するのではなく、子どもたちを長く支えられる仕組みを広げていきたい。

 齋藤 高校を卒業したら関係が切れてしまうのではなく、入学前も卒業後も、必要なときに支えられる場所でありたいと考えています。高校生として在籍するのは、大半が15歳から18歳までの3年間だけです。しかし、卒業はできたけれど社会に出られない子たちもいます。そうした子たちを受け入れるため、21年に併設するカフェで就労継続支援A型事業所を開設しました。

 今後は、こうした取り組みをさらに広げ、学校という枠にとどまらず、子どもや若者、家庭を継続的に支える事業を展開していきたい。その先には、いつか教育と福祉の境目をなくしたいという思いが強くあります。

 経営も大事ですが、それを最優先にしてはいけません。「子どもが笑顔でいることが一番」と言い続けている限り、立花高等学校はこれからも必要とされる学校であり続けるはずです。その原点を忘れず、これからも子どもたちと向き合い続けていきたいと思っています。

【文・構成:岩本願】


<COMPANY INFORMATION>
(学)立花学園

理事長:水落清十郎
所在地:福岡市東区和白丘2-24-43
設立:2015年10月


<プロフィール>
齋藤眞人
(さいとう・まさと)
1967年生まれ。宮崎大学教育学部(現・教育文化学部)卒。公立中学校の音楽教員を経て、2004年(学)立花学園立花高等学校(福岡市東区)教頭として赴任。06年から校長。同校は、一人ひとりの人格を尊重した自立支援教育が特色である。その教育現場での活動を題材にした─「いいんだよ」は魔法の言葉─とする齋藤校長の講演会は、小中高PTA、地域自治会や各教育関係のみならず企業経営やマネジメントの立場からの依頼も多数寄せられ、全国各地で開催されている。福岡県私学協会生徒募集委員長。トロンボーン奏者でもある。

水落清十郎(みずおち・せいじゅうろう)
1952年生まれ。福岡大学商学部を卒業後、(株)福岡玉屋入社、24年間勤務の後に自ら人材派遣会社を起業。その後2010年に(学)立花学園監事に就任。12年に理事、16年より理事長。現在福岡県私学経営者協議会の副会長を務める。

< 前の記事
(7)補足

関連キーワード

関連記事