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2016年01月21日 07:03

TPP批准は止められる~山田正彦元農相に聞く(2)

 TPP(環太平洋連携協定)協定をめぐって、開会中の通常国会で審議が本格化する。元農水大臣で、弁護士の山田正彦氏(TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会幹事長)に、TPP協定案の問題点や、加盟12カ国の批准の見通しなどについて話をうかがった。

(聞き手・山本 弘之)

聖域は守られなかった

 ――農業分野では、聖域だとした国会決議が反故にされました。

 山田 日本政府は「関税は守られた、聖域は守られた」と言っているけれども、農業分野では、国会決議で「聖域」だとされた重要5品目の3割で関税が撤廃される。農家は、15年後に関税は牛肉9%、豚肉50円となっていて、あとは政府が補填してくれるから大丈夫だと宣伝され、それを信じている。また、米の77万トンミニマムアクセスの枠に加えて増えた7.84万トンを、政府が買い上げて飼料用に回すと言っているから大丈夫だと思っている。関税撤廃が大問題だが、財源も問題だ。7.84万トンの買い上げと、保管する倉庫料だけで、数百億か1,000億円という大変な財源が必要になる。政府は、財源についてまったく説明していない。

関税は「段階的に撤廃」「7年後再協議」

 ――1,885品目もの関税撤廃でも、日本政府は「他国よりもましだ」と言っていますが…。

pen 山田 なにより恐ろしいのは、それで終わらないことだ。
 TPPの英文の協定案の第2章の4「関税撤廃(Elimination of Customs Duties)」に、「段階的に(漸進的に)関税を撤廃する(progressively eliminate)」と明記されている。付属書には、7年後には農産物輸出国の要請に応じて再協議をしなければいけないと定められている。

 付属書には「オーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランド、米国からの要請に応じて、日本と要請国は、本協定が日本に対して効力が発生してから7年が経ったのち、日本の譲許表で規定される関税、関税割当、セーフガードの適用に関する原産品の取扱いに関して、市場アクセス向上を目的に、日本による要請国への約束を検討するため協議をしなければならない」とある。

 私が米国に行って、USTR代表をはじめ関係者と何回も会って話をしてきたなかで、2回お会いした米自動車業界の会長は「米の関税を撤廃しなければ自動車の関税を撤廃しない」と述べてきた。ところが今回、米国のUSTRが発表したものをみると、自動車関税撤廃は25年と30年だ。ということは、米と自動車の関税が連動して、日本側の米の関税が撤廃されるのは30年だろうと見ている。
 大筋合意前、長崎新聞に掲載された共同通信配信の記事(2015年10月8日「最長30年 関税撤廃検討」)とも符合する。

 また、関税撤廃時期の繰上げを検討するため協議が義務付けられ、そのための小委員会も設置される。
 TPPは秘密交渉で、4年間の秘密保護義務があるのを忘れてはいけない。コメですら守らなかった日本政府は、TPP交渉でどこまで譲ったのか、明らかにしていかないといけない。

食料安全保障を捨てた日本

 ――このままでは、日本農業は滅ぶことになる。

 山田 そのとおりだ。TPPでいったん農産品の自由化されたら、どうなるのか、韓国の例がわかりやすい。米国は、農業を、食料を軍事力と同じように外交上の武器にしている。私が会った米国USTRの当時のマランティス代表らは「(TPPで日本に)米韓FTA(自由貿易協定)以上のものを求める」と判を押したように同じことを語っていた。

 米韓FTAを結んで2年、韓国では畜産業の7割は廃業になった。「守られた」と報道されていたコメも、今年から関税にして撤廃に向けて動きだす。現在、韓国では地産地消の学校給食がFTAの公平な市場競争に反するとして、廃止されようとしている。

 米韓FTAで、「守られた」と言われたコメについて、私は“2015年から関税制になって、2020年で関税撤廃になるだろう”と2013年に『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)に書いた。今、その通りになって、昨年から関税化になった。513%くらいの高い関税だが、来年から徐々に減らされる。これもTPPの「段階的に関税撤廃」と符合する。韓国が、米韓FTAによって農業が壊滅していったのと同じ道を日本もたどる。日本は、独立国として必要な食料安全保障を捨てた。

 関税が撤廃されるということは、日本政府が発表した概要書のなかにも「漸進的に関税を撤廃する旨規定」とはっきり書いてある。軽減ではない。2段階撤廃や7年後の交渉とは、概要書には書いていないが、先ほど話したように付属書には、7年後再協議と書いている。それを、日本政府は、農民にも、国民、消費者にも知らせていない。ただ牛肉や豚肉が安くなると言っている。
 食料品が安く輸入されて、私たちの暮らしが楽になると言われているが本当だろうか。かつてレモンの輸入が自由化された時、広島県を中心に国産が1個50円で生産、販売されていたが、サンキストレモンが、米国から1個10円で入って来た。日本国内のレモン生産者は、採算が取れなくなって、やめてしまったら、サンキストレモンは1個100円で販売されることになった。

 同じようなことは、メキシコでも起きている。メキシコ人の主食はトウモロコシの粉を焼いたトルチーヤだ。自由化すれば、米国から安いトウモロコシが入って来て、トルチーヤが5分の1の値段で食べられるようになると宣伝された。しかし、メキシコでは自由化されたら、確かに当初こそ遺伝子組み換えのコーンがどっと入って来て、安く食べられたが、またたくうちに、マクドナルドみたいな大手資本が市場を席巻すると、8倍の価格になってしまった。
 日本の農業が滅びれば、日本の食料の確保、食の安全にとって、非常に大事な問題だ。

(つづく)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会
・TPP大筋合意アトランタ現地報告~山田正彦元農水相

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
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