全国の河川施設の維持管理には、老朽化や人材の高齢化、次世代を担う若手人材の不足という共通の課題がある。国土交通省は「重要河川施設の機能喪失回避のための施設マネジメント検討会」(座長=田中規夫・埼玉大教授)を設置。現状と課題の整理、現場のヒアリングなどを行い、6月中に報告書案を議論して、とりまとめる方針だ。河川施設の機能喪失に陥るリスクを低減するための対応策案として、メリハリをつけた更新・改築・増強の明確化、維持管理の担い手不足への対応、施設マネジメントの構築などを提示する予定だ。

国土交通省内で開かれた検討会の様子
現場から意見聴取
検討会は4月21日に第1回会合を開催した。そこでは、「急所」となる河川施設の考え方、計画的な更新・改築・増強の考え方、更新・改築・増強にあたって考慮する観点、施設管理の担い手不足を踏まえた省人化方策の4つについて議論。とくに、「急所」となる施設の考え方では、目的や機能の違いによる区分の必要性に加え、被害の規模と復旧に要する期間・復旧の難易度を含めての評価などが指摘されていた。
5月21日の第2回会合においては、関連団体から現場の意見などをヒアリングし、「急所」となる施設の考え方について評価や対応決定手順について素案を整理した。田中座長は、「持続可能な更新の仕組みをどう構築するかが問われている。予防保全で維持するものの、ここまで劣化したら確実に更新するという明確なルール付けを行い、サイクルをしっかりと回せるようにしなければならない。関係団体の皆さまの生の声をお聞きし、現状をしっかりと把握したうえで、今後の更新に向けた考え方を整理していきたい」とし、現場の声を直接聞くことの意義を強調した。
現場の意見を表明したのは、(一社)河川ポンプ施設技術協会、(一社)ダム・堰施設技術協会、(一社)東北河川管理技術研究会、(一社)東北建設業協会連合会・山形県建設業協会の4団体だった。
抜本的転換を訴え
各団体の意見で共通していたのは、高齢化、属人化、後継の担い手確保となっている。河川ポンプ施設技術協会は、国土交通省がこれまで目安として示してきた更新時期である設置後40年以上が経過しているものが、全体の約4割だと報告。従来の事後保全中心のメンテナンスから、計画的更新への抜本的な転換が必要だと主張した。
ダム・堰施設技術協会は、近年の水門設備に関する最も大きな影響として、予算の縮小などによる発注量の減少だと分析。維持管理における部品調達の困難さ(長納期化・供給終了)も深刻度を増しているとした。また、過去の不具合事例や故障データを業界内で適切に開示・共有することで、各メーカーの技術力アップや、設計・施工ミスを防ぐ再発防止策になるため、早急な情報共有基盤の整備を要求した。
最後に、東北河川管理技術研究会と東北建設業協会連合会・山形県建設業協会は、点検技術者としての観点から、補修のタイミングを逃すと急速に悪化する可能性が高まるため、早期発見および早期対応の重要性を強く感じていると主張。実際の工事写真と状況を説明したうえで、老朽化の進行に対して補修が追いついていない状況だとした。また、維持工事は河川施設の維持管理や補修、河川巡視点検、堤防の除草、出水時の対応、緊急排水と多岐に渡り、経験による臨機応変な対応が必要である点を指摘。一方で、現場職員の高齢化と担い手不足が懸念されており、予防保全を前提とした維持管理、現場対応力の維持、地域での維持管理体制が重要だと主張した。
急所区分をランク付け
事務局が示した急所となる河川施設の定義案としては、背後地や氾濫域などの被害ポテンシャル、施設の機能回復性、代替性・冗長性(リダンダンシー)を河川の急所として洗い出すことを検討。急所への対応を決める評価観点案では、優先度付けとして縦軸に老朽化度合い、横軸に施設の重要度(河川の急所)を設定し、どこにプロットされるのかというところで、施設の対応を決めていくとした。さらに横軸については、新たに3つの観点を提示。1つ目は、機能喪失による被害の範囲や、地域への影響の程度。たとえば氾濫域が広がる場所なのか、デルタ地帯・湿地帯なのか、背後地にどれだけの人口や資産を抱えているのかなどの観点「社会的影響」を示した。2つ目は、回復にどれだけ時間がかかるのかという観点「レジリエンス(機能回復性)」を、3つ目は複数のゲートやポンプでその施設が構成されている場合においては、単一の施設よりもリダンダンシーが確保されていることから観点「リダンダンシー」を挙げた。
縦軸と横軸による簡易スクリーニングを行い、対策優先度の高い急所箇所を段階的に抽出する方法を提案した。簡易スクリーニング後に急所区分をランク付けして、ランクに基づく診断・詳細評価に基づいて、対策メニューを判断・実施する。ただし、評価の際には、治水施設、利水施設、内水施設、外水施設といった、施設の役割を考慮した分類を行う必要性も指摘した。
国土交通省は第2回の議論を踏まえて、委員会からの意見を集約し、報告書に記載する内容へ反映。維持管理にメリハリをつけ、担い手が大きく減っていくことが見込まれていることから、これらの視点を踏まえて、施設マネジメントをどう構築していくのかなどを対応方策として盛り込んでいく考えを示した。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)
ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)









