職人を守るため処遇改善へ|山口県鉄筋工業協同組合、サンティー

山口県鉄筋工業協同組合  副理事長
サンティー(株) 代表取締役
手島健一 氏

山口県鉄筋工業協同組合  副理事長 サンティー(株) 代表取締役 手島健一 氏

 建設業界では人手不足が深刻化しており、なかでも専門工事業では担い手確保と処遇改善が急務となっている。社会インフラを支える鉄筋工事も、職人の高齢化と若年層の入職減少に直面している。山口県鉄筋工業協同組合副理事長を務める手島健一氏(サンティー(株)・代表取締役)に、組合の役割や業界の現状、職人不足への対応など話を聞いた。

技術と地位の向上が組合の使命

 ──まず、山口県鉄筋工業協同組合の役割について教えてください。

 手島 組合の大きな役割は、鉄筋工事業の技術および社会的地位の向上です。1992年に山口県鉄筋工業組合として発足し、5年後に山口県鉄筋工業「協同」組合になりました。協同組合としては29年、前身から合計すると34年の歴史があります。現在の正会員数は11社、賛助会員は5社です。以前は、同業者同士の情報交換や応援が中心でしたが、近年は役割が広がっています。とくに重要になっているのが、建設業界の魅力発信です。行政とも連携しながら、中学生や高校生に対して「建設業とはどんな仕事か」「鉄筋工事が社会の安全をどう支えているか」を伝える機会が増えています。

 鉄筋は、建物完成後にはコンクリートのなかに隠れてしまいます。しかし、地震に耐えられる建物や橋を支えているのは、鉄筋です。社会に欠かせない仕事であることを、若い世代に知ってもらうことが重要だと思っています。

 ──具体的には、どのような活動を行っているのでしょうか。

 手島 山口県では、建設業界全体で中高生向けの職業体験イベントに取り組んでいます。代表的なのが「やまぐち建設フェス!」です。県内の建設関連企業や団体が集まり、仕事体験や業界紹介を行っています。また、私が代表を務めるサンティー(株)でも、下関市が開催する「しものせき未来創造jobフェア」に参加していますが、中学生や高校生の段階で、地元にどんな企業があり、どんな仕事があるのかを知ってもらわなければ、就職先の候補にも入りません。

 山口県は人口流出が大きい地域です。進学や就職を機に県外へ出ていく若者も多い。そのなかで、地元企業の存在を知ってもらうことは非常に大切です。建設業に限らず、地域産業全体の課題でもあります。

職人不足の本質は処遇の問題

 ──やはり職人不足は深刻ですか。

 手島 非常に深刻です。魅力発信は必要ですが、それだけでは人は集まりません。結局は、賃金と休日の問題に行き着きます。どれだけ「やりがいがあります」「社会に必要な仕事です」と説明しても、他産業と比べて給与が低く、休日も少なければ、若い人は来ません。人を集めるためには、まず働く環境を改善しなければなりません。

 ──処遇改善に向けて、山口県鉄筋工業協同組合ではどのような取り組みが進んでいますか。

 手島 私たちは、全国組織である(公社)全国鉄筋工事業協会の一員でもあります。そこで一貫して言われているのが、適正な受注単価の確保です。

 最近は法改正も進み、ダンピング防止が以前より明確になってきました。そのなかで重要なのが、国土交通省の標準労務単価や標準見積書の活用です。鉄筋工事は、しばしば「1tいくら」で語られます。しかし本来は、現場で働く職人の人件費、加工場での人件費、運搬費や管理費など、それぞれを分けて考えるべきです。標準見積書を使えば、それらを明確に示すことができます。当社(サンティー)では、数年前から標準見積書を元請企業に提出しており、ようやく納得していただける企業が増えてきました。まだ業界全体に浸透しているとはいえませんが、ここを改善しなければ処遇改善も進みません。

現場での作業風景
現場での作業風景

    ──実際の現場では、価格競争も続いているのでしょうか。

 手島 理想としては適正な単価で受注することですが、現実には「そんなことを言っていたら仕事が取れない」という声も、業界内、さらには組合内にもあります。これは山口県だけの話ではありません。

 ただ、最近は少しずつ意識が変わってきました。職人不足が深刻化するなかで、下請企業ばかりを締めつけていては、業界そのものが立ち行かなくなるということがみえてきたからです。安い仕事を取り続けることが経営努力だという時代では、なくなりました。適正な利益を確保し、その利益を人材育成や賃金改善に回すことが必要です。そうしなければ、業界は生き残れません。

地方特有の課題と外国人材活用

 ──山口県ならではの課題はありますか。

 手島 都市部と比べると建設需要そのものは少ない。ただし、案件が少ないからといって人が余っているわけではありません。むしろ逆で、人も少ないのです。少し大きな案件が重なるだけで、対応できる職人が足りなくなることがあります。

 ──外国人材の存在も重要になっていますね。

 手島 現在の建設業界では、外国人材なしでは成り立たない部分があります。地方ほどその傾向は強いと思います。日本人の若手がなかなか入ってこないなかで、技能実習生や特定技能人材の活用は不可欠です。

 ただ、私は外国人材を単なる人手不足対策として考えていません。きちんと教育し、技術を身につけてもらい、長く働ける環境をつくることが大事だと思っています。今後は技能実習から特定技能へ、さらにその先まで見据えた育成が必要になるでしょう。

人を抱え人を育てる会社へ

 ──サンティーとして取り組んでいることを教えてください。

 手島 当社が力を入れているのは、人材育成と省力化です。以前は、一人親方や下請として働いていた職人を社員として採用し、社会保険に加入するなど、雇用環境の整備を進めてきました。

 鉄筋工事は、典型的な労働集約型産業です。人がいなければ仕事になりません。だからこそ会社として人を抱え、人を育てる方向に変えていかなければならないと考えています。

 「職人は独立するもの」という考え方もありました。しかし今は違います。会社として教育し、技術を継承し、安定した生活基盤を提供することが必要です。受け入れて終わりではなく、戦力化するところまで責任をもたなければなりません。日本人も外国人も、同じ職場で成長できる環境づくりが重要だと思っています。

サンティー工場全景
サンティー工場全景

 ──省力化やDXについては、いかがでしょうか。

 手島 鉄筋工事は腰への負担が大きく、体力を使う仕事です。そのため、省力化は単なる効率化ではなく、労働環境改善そのものだと考えています。たとえば鉄筋結束ロボット「トモロボ」を導入しています。これまでは人の手で1本ずつ結束していた作業を、機械で補助できます。また、長尺資材の人手運搬を省力化し、生産性を高めるための特殊台車「ドマコロ」なども活用しています。人手不足が進むなかで、1人あたりの生産性を上げることは避けて通れません。

 さらに、DXにも力を入れています。職長は現場管理だけでなく、施工計画書や作業手順書など多くの書類を作成しなければなりません。以前は手書きや個人の経験に頼る部分も多かったのですが、今はAIや各種ソフトを活用しています。積算・施工図作成では「鉄之助Pro」、拾い落とし防止や現場作業用には「現場之介」、加工・出荷・在庫の管理では「入出庫之助NET」などのソフトを導入しています。また、現在は「DINCAD」を試験的に導入し、壁やスラブの拾い出しに活用しています。若手社員が配筋を理解できるため、教育ツールとしても有効だと考えています。当社では、手書きの加工指示はほとんどありません。出荷もコード管理です。さらに、配筋検査システム「HISYS」も導入し、現場の検査業務の効率化を進めています。これは単に効率化だけでなく、職長の負担軽減にもつながります。若い世代にとっても、こうしたデジタル環境は働きやすさにつながると思います。

 ──特殊な工法にも取り組んでいるそうですね。

 手島 ジャバラユニット工法です。これは鉄筋を現場で一から組むのではなく、工場で7割程度まで組み立て、畳んだ状態で現場へ運び、現場で広げて設置する工法です。現場作業が大幅に減るので、省人化や工期短縮につながります。ジャバラユニット工法は、(有)柳井通商(福岡市中央区)が開発した工法です。従来は「特約店制度」により展開されていましたが、建設業界の人手不足を背景に、工法のさらなる普及と技術継承を目的として、現在はジャバラユニット協会が運営を担っています。同協会は柳井通商からライセンスの使用許諾を受け、会員企業への技術指導や活用促進に取り組んでいます。当社も協会の会員企業として、この工法の活用と普及に力を入れています。私はこれを「鉄筋工事の工業化」を実現する有効な工法の1つだと考えています。従来は、現場で組むことが当たり前でしたが、職人不足が進むなかでは限界があります。加工場でできることは加工場で行い、現場作業を減らす。そうした発想が必要になっています。今後は、こうした工法への関心がさらに高まると思います。

業界を次世代へ残すために

 ──将来に向けた備えについて、会社ごとの姿勢の違いを感じますか。

 手島 鉄筋工事業界は、職人の高齢化や人手不足が進み、大きな転換期を迎えています。私は今後10年で、業界全体がこれまで以上に変化していくと考えています。これからの時代は人材育成や設備投資、業務改善に継続して取り組むことが重要になると思います。

 だからこそ、当社では24年12月に「鉄筋職人育成センター」を開設し、新入社員や在職者が技能を学べる環境を整えました。人材育成や設備投資には費用がかかりますが、短期的な負担ではなく、将来の担い手を育てるための投資と考えています。

鉄筋職人 育成センター    また、省力化機器の導入やDXの推進、新しい工法への取り組みなども進めています。職人が安心して長く働ける環境を整えるとともに、生産性や品質の向上にもつなげていきたいと考えています。これからも人への投資を続けながら、持続可能な鉄筋工事業を目指していきます。

 ──最後に、鉄筋工事業界の未来についてお聞かせください。

 手島 鉄筋工事業は、なくなってはいけない仕事です。日本は地震大国です。災害が起きれば復興しなければなりませんが、そのとき建設業がなければ、国は成り立ちません。鉄筋工事は、建物やインフラの安全性を支える重要な仕事です。

 だからこそ、人を育てること、処遇を改善すること、技術を継承することが必要です。私は、この業界はまだ変われると思っています。変わるために必要なのは、根性論ではありません。適正な対価を得て、人を育て、現場を改善することです。1つひとつ積み重ねていくしかありません。鉄筋工事業界がこれからも社会に必要とされるために、私たちは変化を恐れず、次の世代へ技術と仕事を引き継いでいかなければならないと思っています。

【内山義之】


<プロフィール>
手島健一
(てしま・けんいち)
1974年12月生まれ、山口県下関市出身。93年、山口県立下関中央工業高等学校を卒業後、デグチ工業(株)に入社。2012年4月に代表取締役に就任した。25年4月にサンティー(株)に社名変更。山口県鉄筋工業協同組合副理事長のほか、山口県鉄筋技能士会会長、下関北ロータリークラブ会員。趣味は模型製作・バイク・サウナ。

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