2024年04月23日( 火 )

元「鉄人」衣笠祥雄氏が斬る!~前田投手、憧れのメジャーへ

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 前田健太投手が、憧れのメジャー・リーグに移籍することができた。多くの仲間が経験したメジャー・リーグ。そして、同じ大阪出身のダルビッシュ投手や田中投手もいるだけに、本人も内心ホッとしていることだろう。そして生活の場所が西海岸、ロサンゼルスということで、昔から日本人が多く親しみのある街だけに、家族を連れて行く場所としては安心だろう。一番喜んでいるのは、奥さんかもしれない。黒田投手の家族も、現在、同じ場所にいることだし、いろいろと教えてもらえることだろう。
 なぜ、こうして場所のことから書き出したかと言うと、人には時々「方角」で、合う、合わない、ということを感じることがあるからだ。彼は大阪で生まれて18年、広島に来て9年と、ここまでは順調に過ごしてきたと思う。小さいときから野球に出会い、一生懸命頑張ってプロ野球の選手になり、広島東洋カープに入団して9年、順調にきているということは、「方角」があっていたと言えるだろう。
 そこで今度は、海を渡り海外の方向を目指すだけに、どうだろうか。少し気になるが、本人の頑張り次第で変わることもあるのだろう。

baseball 本題に入ろう。前田投手は2007年にカープに入団。その年はさすがに1軍での出場はなく、プロ野球というものを見聞きしての1年だったのではないだろうか、カープの投手陣では、黒田博樹投手の頑張りをじっと見ていての年だったことだろう。だが結局、この黒田投手と一緒にグランドに立つことはなく、08年に黒田投手はアメリカに行った。直接教えてもらうことはできなかったが、前田投手は、黒田投手からいろいろと教えを受けていた大竹投手をしっかりマークしていたように見えた。この08年、黒田投手が抜けたことにより前田投手の出番が多くなり、この年19試合に出場9勝2敗という素晴らしい勝率を記録。109.2イニング、防御率3.20でシーズンを終えた。
 「勝負事をしている者が『運』ということを言うな」――という人もいるが、私は「運」というものはあると思う。この年、もし黒田投手がアメリカに行かなければ、広島の投手陣のローテーションに前田投手は入れたか? ここに、前田投手の強運があると思う。もちろん、このチャンスにしっかりと成績を残して自分の場所をつくった前田投手の力は認めるが、「運」もあったことは事実だろう。
 もう1つ私が感じていることは、今アメリカに帰ってレンジャースに入団して頑張っているルイス投手が、08年にカープに入団したが、このルイス投手からチェンジアップを直接教えてもらえたことが、前田投手の投球の幅を今まで以上に広くしたと思う。
 翌09年、前年作った実績をしっかりと周りに見せるように29試合に登板し、勝ち星は8勝止まりだが、193イニングの投球回数を記録。3.36の防御率で存在感をアピールした年だったと思う。

 私は、よく若い選手が出てきたときに「1年だけ成績を残しても誰も信用してくれないよ」「3年続けて成績を残して初めて周りの人が信用してくれるのだよ」――と言うのだが、3年間続けて自分の力を発揮できる気力、体力、技術を持たないと、この世界では長年生き残ることはできない。おそらくそんな意味のことを、多くの先輩はこうした言葉に込めて伝えてくれていると思う。私もその言葉を信じて頑張ってきた1人だが、前田投手はこの勝負の3年目に素晴らしい成績を残している。
 2010年の成績は28試合に登板し、15勝8敗、215.2イニング、2.21の防御率1位のタイトルを獲得、しっかりとカープの中心投手としての力をつけてきた。この年から3年続けて200イニング登板を果たし、セ・リーグを代表する投手というところまで駆け上がってきた。
 10年、15年最多勝、10年、12年、13年最優秀防御率、10年、11年最多奪三振、と多くの賞を獲得し、セ・リーグ投手の顔としての地位を確立してきた。年間試合数は31試合から、少ない年でも26試合登板と安定しており、体調管理も問題なく過ごしてきての、今回のポスティングによるドジャース移籍である。

 契約にあたり、かなり厳しい身体検査を受けたという情報があり、多くの医者が検査に立ち会ったという。本人も以前に少し「肘」が痛かったことがあるという自己申告をしたとあって、契約額はかなり抑えられた感がするが、これは8年契約という長期契約で、もし肘が故障したときには2年間ぐらいの時間が必要ではないか、というところでの処置ではないかと考えられる。年間報酬が日本時代とあまり変わらない300万ドルぐらいというのも、そのことを含んでのことではないだろうか?
 その代わり、故障なくプレーできたときには、当然、到達できる多くの出来高契約でカバーしているのが、今回の特徴だろう。前田投手ほどの実績を残してきた投手にしては少し変な契約だが、最近、日本からアメリカに渡った投手の多くが、故障によりチームが満足できる成績を残せていないという点が、今回のこのようなドジャースの契約に現れているのだろう。

 では次に、「(前田投手はメジャーで)通用しますか」という心配をされているファンもおられるが、前田投手は先日行われたプレミア12の大会でも、前回のWBCの大会でも、実績は残してきていると思う。投げるストレート・ボールのスピードが147~153キロ、スライダー、ツーシーム、チェンジアップ、フォーク、そして相手打者を観察する経験、すべてにおいて十分なものは持っていると思う。

 心配があるとすれば、まずアメリカの「湿度」。これは、ボールが滑ることに関係する。次に、日本時代と違う中4日の登板日程には、移動を含めて慣れることが必要だろうし、マウンドの高さや硬さは、下半身の疲れに響くだろう。
 そして何より、相手打者のパワー。これは、日本の打者では感じられない身体の大きさ、腕の太さ、バットのスピードなど、十分に注意が必要だろう。とくに下位の打者は、不器用だが力はある、当たれば飛ぶ。ただし、簡単にカウントを取りに行かないよう用心すれば、難しい打者は少ないと思う。

 いずれにしても、同じ野球をするにしても、初めて経験することも多く出てくると思う。そんなときには自分1人で考え込まずに、大阪人らしく周りの人に遠慮なく聞くことが解決の近道になるだろう。それが成功への鍵かもしれない。

 

関連記事