為替協調介入二点の重要事項

政治経済学者 植草一秀

 7月31日のNY外国為替市場で日米政策当局が円買い=ドル売りの協調為替介入を実施したと報じられた。1ドル=164円台まで進行したドルが急落。一時、1ドル=157円台をつけた。日本円暴落が進行してきたが転機に差し掛かりつつあると判断される。

 8月3日に『日本経済の終宴 絶頂株価後の最強投資戦略』(ビジネス社) 

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を上梓する。新著は月2回発行の会員制レポート『金利・為替・株価特報』https://uekusa-tri.co.jp/report-guide/の年次版。内外の政治経済金融情勢についての考察を取りまとめると同時に、最強投資戦略を提示するもの。

 2026年版では
1.日本株価が絶頂を極めて陰転する=宴がお開きになる可能性
2.日本円暴落に対して米国がこれを是正する取り組みを示す可能性
に焦点を置いて考察している。

 同時に日本政治についての詳細な考察を提示している。高市内閣支持率がなぜ高水準発射になったのか。そこにはカラクリがある。高市首相は「我が世の春」を味わったと思われるが、沙羅双樹の花の色、城者必衰の理(ことわり)をあらはす。株価も高市内閣も重大な転機にさしかかっている。

 『金利・為替・株価特報』では、2026年のキーワードを「陽極まれば陰に転ず」とした。株式市場ではAI半導体が株価暴騰を演じたが、株価が永遠に暴騰を続けることはない。『金利・為替・株価特報』では半導体株価の推移を象徴するフィラデルフィア半導体株指数=SOX指数のチャート形状がドル表示金価格推移のチャート形状と酷似していることについての警告を発してきた。

 日本の株式市場は「AI半導体市場」と「その他市場」に分断=デカップリングされており、年初来の日経平均暴騰がAI半導体株価急騰に牽引されてきたものであることを示してきた。「AI半導体市場」と「その他市場」が「光と影」の関係を示していることも強調してきた。

 米国が日本円暴落に対して、これを是正するスタンスを示し始めたのはなぜなのか。米国のベッセント財務長官は2026年3月以降、これまでとは異なる言動を示し始めた。1985年9月のプラザ合意、1987年2月のルーブル合意を契機に米国の為替政策は根本的な変質を示した。「自由変動相場制」から「管理変動相場制」に移行したと言ってもよい。

 変動為替相場制を採用した当初、米国の基本方針は「レッセ・フェール」だった。市場の変動は市場に委ねる。これを基本に置いた。レーガン政権は金融変動においても「自由放任」を基本に置いた。ところが、レーガノミクスの影響によって経常収支赤字拡大に苦しむ米国で米ドル突飛高が生じた。その結果、「自由主義」を標榜する米国で「保護主義」圧力が拡大した。

 こんな事情もあって米国の為替政策スタンスが根本的な変質を示した。変動相場制の下で為替レート変動を「管理する」方針に転じたのである。現在はその「管理変動相場制」の状況にある。この枠組みのなかで米国の為替政策スタンスが重要な変化の兆候を示している。

 ドル円に関する為替政策スタンスを考察する際に二点の重要事項を踏まえることが重要だ。第一は政策当局の為替政策スタンスが為替レート変動に重要な影響を与えるが、ドル円で主要な権限を握っているのが米国政府であること。米国の為替政策スタンスが圧倒的に強い影響を持つ。日本政府は米国の政策スタンスに基本的に隷従する。

 第二は米国政府が、日本政府が購入した米国国債の自由な売却を認めないこと。日本政府が米国国債を購入することは、日本政府が米国政府に資金を融通する=日本政府が米国政府にお金を貸すことを意味する。日本政府が米国国債を売却することは、日本政府が米国政府に貸したお金を回収することを意味する。

 ところが、米国政府は日本政府が保有する米国国債の自由な売却を認めない。これは、日本政府が米国政府に貸したお金を返してもらえないことを意味する。米国政府は日本政府からお金を「借りた」と認識していない。米国政府は日本政府からお金を「もらった」と考えている。このお金について米国政府は「みかじめ料」と認識している。他方、日本政府も「みかじめ料」であることを認めているから、米国政府に「売るな」と言われると逆らえないのである。

 日本政府が米国国債購入のかたちで米国に貸したお金は約1兆ドル。ドルが安いときにドル安進行を止めるために購入した米国国債なので、米国国債を購入した時点の米ドルが安い。平均1ドル=100円程度で米国国債を購入していると見られる。したがって日本政府が保有する米国国債の購入費用は日本円換算で約100兆円ということになる。

 だが、日本円が1ドル=164円にまで暴落した。1ドル=160円以上のドル高水準で、日本政府が保有する米国国債を全額売却すると160兆円以上になる。60兆円以上の為替差益が実現する。この60兆円があれば消費税の税率を5年間5%に引き下げることも可能。

 食料品消費税率ゼロを2年間実施して、国と地方合わせて10兆円の税収減が生じることを財務省一派とメディアが騒ぎ立てている。そんな財源など、日本政府が保有する米国国債を5分の1だけ売却すれば捻出できる。財務省が総力を挙げて展開する「消費税減税阻止大キャンペーン」に騙されてはいけない。

 日本政府は保有する1兆ドルの米国国債を全額売却して、60兆円の為替差益を確保するべきだ。しかし、これを米国政府が許さない。米国政府が日本政府による米国国債の自由な売却を認めないのだ。ここに今回の「協調」介入の背景がある。

 日本政府が米国国債を売却するのではなく、米国政府が暴落している日本円を購入するのだ。円が上昇すれば米国政府は利益を獲得できる。円が上昇した暁には米国政府は「自由に」保有円資産を売却することになるだろう。

 新著の『日本経済の終宴』アマゾンでの紹介文から一部を引用する。

「サナエノミクスはデタラメノミクス?株価だけが熱狂し、生活がよくならないのはなぜか?株価7万円絶頂示現後の投資戦略を大公開!【注目銘柄21!】

 日本経済は落日の宴の真っ最中!円安・インフレ誘導の罠を抜ける方策?世界的な株価の上昇を読む最強・常勝の投資の極意。日本株の割安がついに消滅した!大暴騰相場終宴後に必要な投資戦略転換とは?

「本書は日本と世界の政治・経済・金融情勢を丸わかりするための包括的な解説書であると同時に、資金運用で確実に利益を確保したいと考える国民投資家のための指南書である。(中略)
事態を打開するには、まず真実を知るところから始めることが必要だ。内外の政治経済の真実を網羅的にわかりやすく解説しているので、ぜひ現実を理解する一助にしていただきたいと思う。私たちが株式投資での利益獲得を目指すべきである最大の理由は、現代社会の分配構造に重大な歪みがあるからだ。資本による搾取、収奪の一部を労働者が取り戻すために株式投資を活用することが求められる。」──「はじめに」より

〈目次〉
第1章 高市持率(こうしじりつ)工作
第2章 デタラメノミクス
第3章 黄昏の米国
第4章 絶頂株価のゆくえ
第5章 絶頂後の最強投資戦略

 ぜひご高覧賜りたい。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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