3両編成案か?
増結・分離案か?
そうした状況下で、これまで直通化に際しては、大きく2つの案での検討がなされてきた。①「3両編成車両が西鉄新宮駅から地下鉄天神駅まで直通運転する案」と、②「貝塚駅で地下鉄と西鉄の車両を増結・分離する案」の2つだ。
まず、3両編成案は、地下鉄空港線の天神駅から西鉄貝塚線の全線において運行する列車を、すべて3両編成で統一するというものである。利点としては、地下鉄箱崎線および西鉄貝塚線の全列車が天神駅まで乗り入れるため、乗車区間が天神を越えない場合は、利便性の向上が見込まれる。また、現在の西鉄貝塚線のホーム長は、2両編成車両の長さに合わせてあるため、一部ではホームの延伸が必要となると思われるが、もともと西鉄貝塚線でも過去には3両編成の車両を運行していたことから、この点の回収費用は比較的安価で済む。一方でこの案の欠点としては、まず乗車区間が天神駅を越える場合は、必ず天神駅もしくは中洲川端駅での乗り継ぎが生じるため、地下鉄箱崎線からの乗車は現状よりも利便性が低下してしまう点が挙げられる。また、地下鉄箱崎線の運行列車が現状の6両編成から3両編成へと減ってしまうことで、輸送力が約半分に低下。さらには、天神駅では折り返し施設などを新たに整備する必要があるため、多額の事業費が必要になる点もネックだ。
もう1つの増結・分離案は、貝塚駅で車両の増結・分離を行うことで、西鉄貝塚線の区間は2両編成で運行し、地下鉄箱崎線の区間では6両編成で運行するというものだ。この案は、3両編成案に比べると、天神駅での折り返し施設の整備などが不要となるため、施設整備費を縮減できるほか、車両の購入を地下鉄車両の更新に合わせることで車両費を縮減できるという利点が見込まれる。また、現状と同様に地下鉄箱崎線から地下鉄空港線(姪浜方面)へ乗り入れる列車を運行することができるため、利便性を確保できる点もメリットだ。しかし一方で、貝塚駅での増結・分離に時間を要するため、そもそもの直通化による時間短縮効果があまり見込めない点が最大のネックとなる。
こうしてこれまでは、この2案での検討が中心となってきた。だが、どちらの案も直通化のメリットよりもデメリットのほうが大きいうえ、費用対効果および収支採算性で国庫補助採択基準を満たすことはできず、これまで実現化への道が難航していたわけだ。
福岡市長と西鉄社長が会談
新たに6両編成案が急浮上
そうしたなか、ここにきて新たに浮上しているのが、地下鉄箱崎線の6両編成の車両を、そのまま西鉄貝塚線まで直通運転させようという案だ。
前述した7月2日に行われた髙島市長と西鉄・林田社長との“トップ会談”では、この6両編成案を中心とした意見交換が行われたとされ、「地域の皆さんも望んでいるし、実現していければ」(髙島市長)、「直通運転になればスムーズに行ったり来たりできるので地元の期待は大きいと思うし、沿線地域の活性化に大きく寄与すると思う」(西鉄・林田社長)と、いずれも前向きに検討する姿勢を見せたという。
ただし、6両編成案による直通化も、実現に向けてはもちろん一筋縄ではいかない。前述したように西鉄の駅ホーム長は、地下鉄駅に比べるとかなり短く、6両編成の車両を受け入れるためには、大幅な駅ホームの延伸や施設改修などが必要になるからだ。このホーム延伸を行ううえで、ネックとなるのが「香椎駅」「香椎宮前駅」「千早駅」の3駅。これらは香椎・千早エリアでの大規模な区画整理事業にともなって線路が高架化されたことで、いずれも高架駅となっており、延伸のための用地確保が非常に難しい。場合によっては、高架部分の拡幅が必要になる可能性もあるだろう。もちろん他の7駅についても、地上駅ではあるものの、駅周辺の余剰地等の関係で延伸は容易ではない。いずれにしても、6両編成車両を受け入れるための西鉄貝塚線のホーム延伸や施設整備費は、莫大なものとなるだろう。
また、朝の通勤・通学時間帯こそ、全国トップクラスの混雑率となっている西鉄貝塚線だが、平日昼間の時間帯の利用者はそれほど多いわけではない。現状の2両編成車両での運行でも、区間や時間帯によっては空席が目立つ状態だ。そのため、6両編成車両によって直通化を行った場合、たしかに朝の混雑率解消にはつながるだろうが、一方で日中には輸送力が過剰となってしまう。また、西鉄としては、鉄道と並行して走るバス路線の再編の必要も出てくる。この点、いかにして費用対効果や収支採算性のバランスを取るかが、非常に難しい課題となってくると思われる。
とはいえ、福岡市長と西鉄社長とのトップ会談で6両編成案での検討を行うと決まった以上、今後は6両編成案を基本に、直通化が可能かどうかの検討および実現化に向けた調整などがなされていくのだろう。
閉園からまもなく5年の
かしいかえん跡地は?
なお、こうして西鉄が直通化の検討を本格化させている背景には、今後控えている「かしいかえん」の跡地再開発もあると考えられる。
21年12月に閉園となった「かしいかえん シルバニアガーデン」は、西鉄が運営を行っていた遊園地だ。もともとは香椎チューリップ園として開園し、戦時中の農地利用などを経て、1956年4月に「西鉄香椎花園」として改めて開園した。同園の目の前に立地する西鉄貝塚線の駅も「香椎花園前駅」だ。ジェットコースターや大観覧車など、遊園地としての遊具・設備が充実していくのにともない、香椎花園の入園者数も増加。ジェットコースターや大観覧車などの大型遊戯施設の前には長蛇の列ができ、四季折々の花の季節には園内が大混雑するほどの盛況ぶりを見せていた。83年7月にはレジャープールが新設され、ピークとなる86年には年間約57万人の入場者数を記録した。
しかし、その後はレジャー需要の多様化や少子化により、来園者数は減少傾向で推移。経営改善策として、09年3月には「かしいかえん シルバニアガーデン」と改称し、西日本初となるシルバニアファミリーの世界をテーマにした遊園地への大型リニューアルや、17年3月のパークゴルフ場・遊具の新設などのテコ入れを行ってきたが、抜本的な改善には至らなかった。そして西鉄は21年3月、施設の老朽化による今後の設備維持更新や、コロナ禍によるさらなる利用者の減少などを理由として、21年末をもって閉園する旨を発表。こうして、市民をはじめ多くの人々から愛された福岡市内唯一の遊園地・かしいかえんは、惜しまれつつ閉園を迎えた。
閉園後、かしいかえんの跡地は一時的に計39区画のキャンプサイトなどを備えた複合アウトドア施設「かしいのはまビレッジ」(22年4月開業~24年末に閉鎖)として活用されたほか、福岡市民病院の移転候補地として名前が挙がったこともある。だが、現時点では、西鉄からその後の具体的な跡地活用策は示されていない。
約12haにおよぶ広大な土地を生かし、大規模商業施設が開発される可能性も考えられなくはないが、近隣には「イオンモール香椎浜」や「香椎いーなテラス」「ガーデンズ千早」「ブランチ 福岡下原」などの商業施設が複数存在。また、現状のかしいかえん跡地の周囲を取り巻く道路は片側1車線しかなく、自動車アクセスにも課題がある。西鉄駅前という立地上の優位性はあるが、それだけでは心もとなく、開業後の集客や採算性から考えても、この場所にあえて大型商業施設をつくる必要性は乏しいと見られる。
やはり西鉄としては、駅前立地かつ香椎海岸を臨むロケーションを生かしたかたちで、大規模な住宅地(マンション・戸建)の開発をメインに行っていきたいところだろう。その場合、やはり駅至近という交通利便性の高さを謳い文句としたいところだが、そうなると看過できないのが、これまでも触れてきた西鉄貝塚線の混雑率の高さだ。しかも、住宅地を開発して新たな住民が増えれば、混雑率はさらに高まることが予想される。かしいかえん跡地の大規模開発を進めていくうえでも、西鉄は地下鉄との直通化の検討には前向きにならざるを得ないものと推察される。
新駅・JR貝塚駅の整備や
周辺では区画整理も進行中
地下鉄箱崎線の貝塚駅~箱崎九大前駅の区間では現在、住友商事(株)(東京都千代田区)を代表とし、九州旅客鉄道(株)(JR九州)や西鉄、西部瓦斯(株)(西部ガス)らで構成される企業グループによって、九大・箱崎キャンパス跡地のうち北側エリア約28.5haの再開発が進行。また、貝塚駅のすぐ近くのJR鹿児島本線の線路上では、新駅となる「JR貝塚」駅の設置工事が進んでいる。新駅の東西を歩行者などが行き来できるよう市が自由通路を整備する方針で、新駅の開業時期は27年を予定している。
一方で、それ以外の北側エリア約20haについては今後、福岡市立箱崎中学校の移転を含めた公共施設の再配置および移転跡地の活用などが、福岡市が主体となって行われる予定だ。現在、「貝塚駅周辺土地区画整理事業」として、JR新駅および貝塚駅(地下鉄/西鉄)の駅前広場のほか、エリア内の道路・公園・緑地などの再配置を行っていく方針で、事業施行期間は29年3月末(清算期間を除く)までの予定となっている。
福岡市長と西鉄社長とのトップ会談で決まった6両編成案での検討を進める以上、西鉄側の駅ホームの延伸工事など、実現化に向けては、相応の整備費や工期がかかってくることは間違いない。だが、貝塚駅周辺での再開発および区画整理がこれから本格化し、周辺で新たな“まち”が誕生しようとしている現在、地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通化という交通インフラの再整備を行うには、またとない好機といえる。これからの福岡市のさらなる発展を考えた場合、市内で最多の人口を抱える東部エリアと都心部とを結ぶ鉄道路線の強化というのは、そう悪くはない一手のはずだ。これまで何度も検討されては立ち消えてきた地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通化だが、今回ばかりは、その実現を大いに期待したい。
(了)
【坂田憲治】

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