「スーパーワンルーム」という言葉をご存じだろうか?空間を仕切っているのはドアや壁ではなく、家具や配色や観葉植物、簡易的、意識的な仕掛けで、空間を緩やかにエリア分けしていく空間手法だ。ワンルームなのでドアで閉鎖される部屋がなく、基本的に大きな1部屋ということ。エアコンを1台で回すといった感覚に近い(正確には大きな馬力のエアコンが必要)。現在、リノベーションの世界で、一部の人たちのなかで静かな人気を博している「スーパーワンルーム」。我が家では、家族5人がこの手法で暮らしている。
“個室”の良し悪し
私は5人家族のマンション暮らしである。福岡での暮らしは賃貸なので、既存の間取りを使って暮らしている。なかなか自由の利かない間取りではあるが、でもそこに多くの工夫を凝らして仕事や暮らし、同時に子育てに向かっている。
個室に関しては、長らく賛否があり、子育て界隈にとっても、私自身にとっても、そして仕事柄そこに悩まれる夫婦と対峙することも多くある。個室は、子どもの自立を助ける働きがありつつも、しかし場合によっては子どもの自活を削いでしまうこともある。良薬にもなり、劇薬にもなる個室という存在は、はじめは子どもの心をときめかせるが、時が経つにつれ空気のように当然の環境になり、やがて心を蝕む悪習になることもある。それでも普通、そこに疑問を抱かれることは少ない(詳しくは本誌63号/2023年8月末発刊_「間取り」の効能と危険性を参照されたい)。子どもの性格を見極めながら、また家族の価値観やライフスタイルを反映させながら、慎重な実施に至ってほしい。我が家では、子どもの性格上と親の教育道、そして私の価値観から次の3つに集約される。「個室は設けない」「ドアは閉めない」「旨いものを囲んで食べる」。とくに公言してきているわけではないが、後ほど中身を探ってみたい。
どう住んでいるのか?
私は基本「個室はとらない派」──正確には「嫌い」である。しかしその分、親は大変である。子どもにも、表面上は不便さを感じさせるかもしれない。いったい何のためにこんなことを?…誰が得する?…それを今は子どもたちに打ち明けていない。でもはっきり言ってしまえば、“個室”とは、親が楽をするための装置なのである。
私が幼少期に過ごした実家は、地方の一軒家の「半個室」だった。個室という体は成していたが、正確には奥の部屋に出入りするために、この部屋を通過していかなければならない間取りになっていた。昔ながらの田の字型レイアウトの名残であった。「通路を兼務する半個室」となるため、幼少期はどれほど個室に憧れたか…。それが嫌でしょうがなく、カーテンで目隠ししてみたり大型家具で仕切ってみたり、模索は途切れることなく続いた。6畳程度の半個室の数少ない家具だったが、バリエーションを求めて月に一度は模様替えをして最適解を探す日常。そのせいもあって、空間に対する探究心が芽生え、ある意味コンプレックスが自分の進む道を決めたといえる。そこで見識を積んでいくにつれ、個室の子どもへの影響に疑問を抱かずにはいられなくなっていくのだ。
今の我が家は、玄関が東側に設けられたマンションの角部屋。南北にバルコニーがあり、窓を開けると海からの風が南や西へ抜けていく、総長15mほどの横長い空間は、いつもどこかで話し声が…、端の部屋にいても遠くのほうから声が響いてきて、笑い声が重なってくれば自然と家族が集結している。80m2ほどの広さに、家族5人が肩を寄せ合うほどの距離感で暮らしている。
うちは家具やものが多いので、収納はかなり考えて組み立てている。壁際のスキマや空間上下の溜まりを効率良く使い、無駄のない(ただ雑多にならないようには気を配る)使い方を図面上で探る。そして賃貸という自由の利かない空間の設えのなかでも、それなりに破綻せずにきているのも、この仕事のなかで育ててもらったゆえの恩恵だと思う。
家のなかでは本当に、すれ違いざまに肩が触れ合うほどの距離感。でもその距離が、子どもの心情をつぶさに感じ取れるセンサーの働きになる。多感な年頃の子どもたちにかけてあげたい言葉、役立つ知恵があれば惜しみなく授け、必要な情報があれば余すことなく吸い取る。今は話しかけないほうがいいような緊迫したときには、その些細な機微を感じ取れる距離にいることで、ブレーキを掛けられる。この距離感、「スーパーワンルーム」形式が子育ての一助になっているのは間違いない。
エリアを分ける
もし、個室的な要素が必要な場合は、時間をずらす/タイミングをかわすなどしている。だって誰もいないときに1人そこに残れば、そこは歴然たるその人にとっての個室ではないか!
ちなみに最低限の塊として、自宅内にエリア分けはしている。「キッチンエリア」「食卓エリア」「テレビ+ソファエリア」「ソファエリア裏側のスマホ充電エリア(子どもの溜まり場)」と「畳エリア(夜は夫婦の寝室)」「洗面エリア」「勉強や仕事に向かうスタディルーム」「子どもの収納を兼ねたベッドルーム」…くらいか(詳しくは「本誌59号/23年4月末発刊 “新・家族主義”のかたち~脱・LDK化による日本家族の再編~」を参照されたい)。
“シーツに小穴が空いてる!”ある朝の私の驚嘆に、朝食の目玉焼きをダイニングテーブルに並べようとしていた妻は、驚いてフライパンをもったままこちらに顔を覗かせる。食卓エリアと畳エリアとの距離は歩数にして3~4歩。ひょいと顔を覗かせられるこの横移動の手軽さが、情報共有を強固にし、関係性を濃くさせる。
集中したいときは…
上の子が受験勉強に向かうときは、スタディルームの電気が夜遅くまで灯っていた。下の子はそんな時間まで机に向かうことはないし、勉強の好きな真ん中の子は塾で居ない。私も夜は、ノートパソコンを使ってリビングで軽い流し目仕事…だからスタディルームを一時的に占有する長男は、結果的に個室空間で勉強をしていることになる。第一に、この子は個室に籠ると集中力が途切れてダメなタイプ。適度に人の視線を浴びるほうが、緊張感が保てるのだ。だから付いている部屋のドアは閉めない(ちなみに長男は勉強が嫌いで向いていない体質だ。学校の成績も中の下くらい。机に向かう時間は長くても1時間程度が限界か…。それでも高3の春には大学に行きたいと決起奮闘し、今年の春、地元の国立大学へ合格して見せた)。
私が仕事でデスクに向かっているときに、下の子が集中したいとわざと時間を合わせてきたりする。机を覗くと、“くもんの算数”を解いている。スタディルームは仕事や勉強がはかどる空気を醸し出している。それが嫌なときは、そのエリアを出ればいい。
仮に個室が与えられた子ども部屋には、ベッドやデスク、クッションや絨毯も装備されるだろう。漫画もスマホもパソコンも、お菓子やジュースだって持ち込める。それはつまり、戦闘モードもリラックスモードもチルモードも、すべて同じ空間に収まっていくということ。人間強い意志がなければ、そのモードを1人で切り替えるのは高度な技術がいる。まして同じ空間でそれを使い分けるのは、大人にだって難しくないだろうか?少なくとも“スーパーワンルーム方式のエリア分け”では、体を移動させればその視座に自然と入り込んでいける。幸いマンションという構造上、縦移動がなく水平方向のみの歩みで、暮らしが成り立っている。平屋的な構成が、やっぱり人間の暮らしとしては一番理に適っていると思う。広々とした子ども部屋や最新の設備がなくても、お互いの体温や息遣いを感じられる距離だからこそ育まれる絆や心の安定、そして社会生活するための準備態勢が各所に散りばめられているのである。
我が家のルール
とくに決めてきたわけではないが、集約するとこの3つのような気がする。
■個室は設けない
■ドアは閉めない
■旨いものを囲んで食べる
個室は設けない
・物理的な近さがもたらす無条件の安心感:肌が触れ合う距離は、子どもに「守られている」という強い感覚を覚えさせる。
・小さな変化への気づき:親の目が届く広さだからこそ、表情の変化や体調の異変にすぐ気づける。同時にその状況は、子どもの目も親に向けられる距離にある。子どもは親の言動、大人の行為・機微に触れることで静かにそれを吸収し、良い点も悪い面も伝播される。だからこそ親は(大人は)子どもへの手本となり、自分たちの価値観の移行先となる。「勉強しなさい!」と叫ぶ親が、傍らで毎日スマホをいじっているだけの日常では、子どもの背中を押せない。だから、たまには本を読んだりして、勉強に向かいやすい空気感をつくり出してみる。
・言葉を超えた対話:同じ空間で同じ空気を吸うだけで、親子の信頼関係は自然と深まる。
(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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