世界のトップリーダーが取り組む不老長寿の健康法(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 プーチン、習近平、金正恩、トランプ。強大な権力を握る世界のリーダーにとって、老化や病気は単なる健康問題ではない。自らの健康が、そのまま政権の存続や国家の行方を左右するからだ。なかでもロシアと中国では、再生医療や人工臓器、遺伝子研究など最先端科学を駆使した「寿命延長」への取り組みが進む。古来、権力者を魅了してきた不老不死への夢は、いまや国家プロジェクトへと姿を変えつつある。

「150歳まで生きる」
習近平とプーチンの長寿談議

イメージ    世界の専制的なリーダーたち(トランプ、プーチン、習近平、金正恩)は、共通して「加齢による身体能力の低下」や「極度のストレス・肥満にともなう心血管疾患、認知機能の低下リスク」を抱えています。

 昨年、北京で行われた軍事パレードに先立ち、習近平氏とプーチン氏という2人の高齢の指導者が若い金正恩氏をともなってレッドカーペットのスロープをゆっくりと歩いていたとき、マイクが彼らの心に浮かんだある疑問を拾いました。

 それは「いつまで権力を維持できるのか」、そして「科学技術によって永遠の支配が可能になるのか」という問いかけでした。

 プーチン大統領は、通訳を介して習近平国家主席に対し、「人間の臓器は絶えず移植できるようになり、人は若返り、ひいては不老不死さえも可能になるだろう」と断言。

 習主席は「今世紀末までには、人々は150歳まで生きられるようになるかもしれない」と答えました。
 近くにいた北朝鮮の金正恩(当時72歳の2人より30歳も若い)は、微笑みながらその様子をうかがっていたようです。

 今のところ、3人の指導者のいずれも権力への執着を緩めるつもりはないようですが、それぞれ肉体が続く限り権力を握り続ける構えで、明確な後継者計画も示していません。

 2020年にプーチン大統領が強行採決した憲法改正により、同大統領は36年まで権力の座にとどまることが可能となり、そうなれば83歳になるわけで、スターリンの在位期間をも上回る長期政権に他なりません。

 指導者たちが長寿を願うのは、決して目新しいことではなく、支配者たちは古くから、自らの寿命と統治期間を延ばす方法を模索してきたものです。

 中国最初の皇帝、秦始皇帝(紀元前259~210年)は、不老不死の霊薬を求めて伝説の蓬莱山へ遠征隊を派遣したとの記録が残っています。
 もっとも、彼が飲んだ水銀の煎じ薬は、実際には彼の死期を早めた可能性もあるようです。

 また、伝説によれば、アレクサンドロス大王は、生命の水を求めて、伝説上の永遠の闇に包まれた森「闇の国」をさまよったというではありませんか。

 いずれにせよ、「習近平氏との会話で、プーチン氏は真に関心のある話題について語りました」と、最近プーチン大統領の伝記を共著したロシア人ジャーナリスト、ミハイル・ルービン氏は述べています。

プーチン政権が巨額投資
「不老不死研究」の最前線

 ルービン氏によると、プーチン大統領が常に医療ケアを必要としていることを示す兆候はほとんどありません。
 彼は年齢の割には健康そうに見えますが、それでもさまざまな専門分野の医師からなる大勢の側近をともなって頻繁に移動していることは承知の事実です。

 「プーチン大統領は今後も長く政権を担うことを夢見ており、現代医学の進歩に大きな期待を寄せていると考えられます」とのこと。

 プーチン大統領の長年の友人であり、しばしばプーチン大統領のお気に入りの科学者と評されるコヴァルチュク氏は、ロシアの不老不死研究を主導していると言われています。

 独立系メディアのメドゥーザによると、コヴァルチュク氏は、人工臓器の製造に用いる培養細胞による臓器プリンティングなど、新たな技術開発に投資するため、数百万ドル規模の公的資金を投入した複数の研究所を設立しました。

 また、プーチン大統領の長女で内分泌専門医のマリア・ヴォロンツォワ氏も、人間の健康と長寿に関する研究で多額の政府助成金を受けており、コヴァルチュク氏と関連のある遺伝子研究プログラムにも関わっています。

 ロシアの高齢化するエリート層の永遠の命への探求は、すでにロシアのポップカルチャーにも浸透しているようです。

 これは、ロシアの作家イワン・フィリッポフが24年に発表した風刺小説『マウス』の着想源となっています。

 この小説は、プーチン大統領の延命薬を開発している研究機関から脱走する感染したネズミの物語です。

 「正直言って、(プーチン大統領のマイクがオンになっている状態での発言について)それほど驚きませんでした」とフィリッポフ氏はガーディアン紙に語っています。

 彼曰く「私の物語は現実から生まれたものです。プーチン大統領の場合は明らかです。彼は永遠の命、少なくとも運命が許すよりも長く生きるという考えに、ほとんど取り憑かれていると言っても過言ではありません」。

 「私の考えでは、この執着は誰にとっても悲惨な結末を迎えます」とフィリッポフ氏は付け加えています。

 実際、その後、プーチン政権の下、巨額の国費を投じた「寿命延長・アンチエイジングの国家プロジェクト」が具体的に始動しているではありませんか。

中国指導部を支える
最高機密の健康管理体制

 権力を一身に集めるリーダーたちは、特有のライフスタイルや精神的プレッシャーから、似たような健康リスクに直面しています。

 たとえば、トランプ氏は(80歳)ですが、約108㎏の肥満。

 金正恩氏(42歳)は140キロ近い超肥満、ヘビースモーカー、大酒飲みです。

 プーチン氏(73歳)、習近平氏(73歳)も健康オタクで知られます。

 4人とも心筋梗塞や脳卒中などの「突然死リスク」を抱えており、血栓予防のアスピリンやコレステロール低下薬(スタチン)を常用しているとのこと。

 70代後半から80代に突入するリーダー(トランプ、プーチン、習近平)にとって、脳の萎縮や認知能力の低下は権力維持の死活問題です。

 暗殺や裏切りへの恐怖からくる慢性的ストレスは、免疫力を著しく低下させます。

 プーチン政権は、総額260億ドル(約4兆円)規模の寿命延長・アンチエイジングイニシアチブ「新健康維持テクノロジー」を実行に移しました。

 習近平氏が語った「臓器を何度も移植して若返る」という構想は、中国が国家を挙げて進めるバイオテクノロジー、および幹細胞や3Dバイオプリンティング(人工臓器生成)への巨額投資と一致しています。

 先端医療技術を、共産党最高幹部の長寿のために最優先で利用するシステムが強化されているわけです。

 中国の最高指導者が暮らす北京の「中南海」には、習近平国家主席の健康を24時間体制で完璧に監視・管理する最高機密の専属医療チームが常駐。習氏の健康は、共産党中央弁公庁の直属機関である「中央保健委員会」が統括しており、ここには中国全土から選りすぐられたトップクラスの医師、栄養士、医療技術者が集められています。

 血圧、心拍数、睡眠の質、さらには脳波やストレス指数に至るまで、24時間リアルタイムで専門チームがモニタリングできる体制が組まれているとのこと。

 健康情報の流出(外国の諜報機関による採取)を防ぐため、国内外の移動時を含め、習氏が排泄したものはすべて専用の容器で回収・破壊処分されます。

 これは、尿や便から持病や服用している薬(心臓薬や降圧剤など)のデータを割り出されるのを防ぐための徹底した防諜措置です。

 73歳という年齢に加え、映像から見られる「歩行時の足元のもつれ(右足をかばうような仕草)」や「急激な体重増減」から、痛風、糖尿病、あるいは脳血管障害の後遺症が疑われています。

 また、健康以上に問題視されているのが「党内・軍内の権力闘争」です。

 習政権は近年、ロケット軍のトップや国防相など、自らが引き上げたはずの軍幹部を相次いで大量粛清しています。
 このため、軍の反発やクーデター、あるいは暗殺への警戒心が極限まで高まっているようです。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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