政治経済学者 植草一秀
11月3日に実施された米国中間選挙でトランプ共和党が大敗した。共和党は下院で過半数を失っただけでなく、上院でも過半数を割り込んだ。上院では激戦7州=アラスカ、カンザス、テキサス、メイン、ミシガン、オハイオ、アイオワでの勝敗が焦点となったが、7州のすべてで民主党が勝利する見通し。民主党の地滑り勝利である。
結果として民主党が上院でも過半数を占有することになった。民主党が上下両院過半数を占有することにより、トランプ大統領の議会運営は極めて厳しいものになる。上下両院での法案可決が困難になる。大統領には拒否権があるが拒否権を濫用すれば政治決定が滞ることになる。下院は大統領弾劾訴追権を持つ。大統領弾劾の訴追が行われると議会は調査を行う。この調査によって疑惑に対してメスが入れられる。このこと自体がトランプ大統領にとって打撃になる。
大統領弾劾は上院での3分の2以上の賛成が必要。現時点で大統領弾劾の可能性は高くないが、共和党上院議員の一部が造反すれば弾劾が成立する可能性も生まれる。エプスタイン疑惑、不正金融取引疑惑が追及される可能性が高い。また、重要人事の決定権を上院が握る。
米国憲法は同一人物の大統領在職を2期までとしているため、トランプ大統領が28年大統領選に出馬する可能性はない。大統領任期は残り2年あるが、議会主導権を民主党が握ることになり、トランプ大統領の影響力が急速に縮小することになるだろう。トランプ大統領のレームダック化が急激に進行することになる。
トランプ共和党大敗を受けて大きな変化が生じる可能性が高い。三つの側面の変化を考察する必要がある。第一は経済への影響。2025年から26年にかけて巨大なAIブームが広がった。半導体需要が拡大するとともにデータセンター建設を中軸とする巨大投資計画が急拡大した。トランプ大統領はこの分野の投資拡大を積極推進するスタンスを示してきた。しかし、米国内では急激なデータセンター建設に対する反発が広がってきた。住民の反発の意向を受け止めたのが民主党。議会の上下両院過半数を民主党が占有したことを受けてデータセンター建設に対する急ブレーキが生じる可能性が高まる。
株式市場では本年6月にかけてAI半導体関連株式の大暴騰が生じたが、これが「バブル崩壊」の局面を迎えつつある。このことが経済金融市場に与える影響は重大なものになる。
第二は世界の戦乱拡大に対する影響。トランプは24年大統領選に際して「戦争をやめさせる、戦争を起こさない」ことを宣伝文句にした。このアピールに共感してトランプに投票した有権者が多い。ところが、トランプ2.0の現実は真逆だった。本年初にベネズエラに軍事侵攻。2月末にはイランに軍事侵攻した。
イラン戦争は早期停戦実現の可能性がありながら、米国が上げた拳の下ろしどころを見いだせず、泥沼化している。ウクライナ戦争については、25年の大統領就任の瞬間に戦争を終結させると豪語したが、いまだに停戦すら実現していない。
ガザに対するイスラエルの軍事的暴走に対してもトランプは抑止力を発揮しなかった。戦争を終結させるどころか戦争を創作して拡大させてきたトランプ大統領の行動が中間選挙での共和党大敗の主因になったと言える。中間選挙を受けてトランプ大統領が戦争終結に向けて基本スタンスを修正するのかどうか。破れかぶれになって戦乱を拡大させる暴挙に進まぬかどうかを注視しなければならない。
第三は米国外交の軌道修正が行われるのかどうか。対中国、対ロシアでの融和路線を推し進めるのであれば、世界の平和と安定に資する。トランプがレガシーを残すには外交の大転換が必要。この部分に一定の期待感が残存する。
トランプ大統領に期待されたことがらは大きかった。米国を支配する巨大資本。ディープ・ステイトと呼ばれる。トランプはディープ・ステイト完全支配下の人物ではなかった。このことから、巨大資本の世界戦略=グローバリズムを打破する可能性に期待がかけられた。
巨大資本は効率よく利潤を獲得するために姑息な戦術を採用している。公共資金を根こそぎ収奪するための策略である。巨大利潤を獲得することが困難になった巨大資本が構築したビジネスモデル。断末魔の叫びを上げる巨大資本のビジネスモデルをDBM(断末魔ビジネスモデル)と命名した。
DBMの草刈り場として三つの領域を特定できる。戦争、温暖化、ワクチンである。共通点は巨大な財政資金を効率よく収奪できること。戦争は必然によって生じていない。戦争は「必要」によって「創作」されている。その「必要」とは巨大資本が巨大利潤を獲得するという「必要」だ。
地球が温暖化している側面があるとしても、その原因をCO2に帰することについて学術的な合意は形成されていない。しかし、原因をCO2とすることに国際機関が承認を与えることによって巨大な財政資金の収奪が可能になる。巨大な財政資金を収奪するために温暖化CO2起源説が埋め込まれてきた疑いが強い。目的は巨大な財政資金を収奪すること。
ワクチンは結果ではなく目的だった疑いが強い。治療薬はり患した患者が投与対象だが、ワクチンは全人口が投与の対象。ワクチンを政治決定下に置くことができれば巨大な財政資金の収奪が可能になる。このDBMの拡大が顕著に観察される。
トランプは戦争、温暖化、ワクチンに対して懐疑の姿勢を示した。金銭至上主義のグローバリズムの前に立ちはだかる行動が期待された。しかし、結局は腰砕けに終わった。大統領に再選されるために、大統領で居続けるためには、巨大資本と折り合いをつけるしかない。その事情もあったかもしれない。また、エプスタイン疑惑でイスラエル支配勢力に隷従するしか道がなかった可能性もある。
現実にトランプの反グローバリズム行動は中途半端なものになった。平和を実現してノーベル賞を狙うことを全面否定することはできないが、現実には戦争終結でなく戦争創作、戦争加担の面を強めた。最終的にトランプ大統領は米中融和、米ロ融和の方向にカジを切ることになるのかもしれない。しかし、そうであるなら、終始一貫してその路線を示すべきだった。
ウクライナでウクライナ国民に対する虐待行為が新たに確認されているようだが、ウクライナ戦争の主たる責任はウクライナ自身にある。トランプ大統領は24年に再選されるまでウクライナと米国による戦争創作を主張していたが、大統領就任後はウクライナに対する軍事支援を継続した。
基本政策に関する大きな「ブレ」があった。中間選挙でトランプ共和党が大敗したことを受けて28年大統領選に対する見方が急変する。民主党内には社会民主主義主張を強める左派勢力と、旧来の大資本至上主義の右派勢力の対立が激化する可能性が高い。民主党が政党としての一体性を保持できるのかどうかが重要な視点になる。
トランプによって大変動が生じた米国の基本政策がどの方向に収れんするのか。新たな方向性が固まるまで米国の動揺、紆余曲折は中間選挙を契機に拡大することになる可能性が高い。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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