
福岡市地下鉄七隈線(六本松駅)
GX(グリーン・トランスフォーメーション)という言葉が浸透するなか、まちづくりGXへの関心も広がりつつある。しかし、概念が広いために、具体像をつかみにくいと感じる人も多いだろう。本稿では、国土交通省の動向からまちづくりGXの方向性を整理したうえで、福岡エリアの都市交通を中心に現状と課題、今後の可能性を探る。
国土交通省による
GXの位置づけと交通
国土交通省による正確な「まちづくりGX」の定義はないが、まとめると、同省が推進する都市の脱炭素化と緑地創出・Well-being向上を一体的に進める、都市政策の総称といえる。同省は、その方向性として、「緑地の保全及び緑化の推進」「脱炭素化等の推進」と打ち出している。前者に関しては複数の制度設計が行われた一方、後者に関しては、現在「効率的なエネルギー利用に向けた都市の在り方検討会」での検討が進められている。
同検討会資料では、「まちづくりGX 3本柱+1」の1つとして、「都市構造や移動手段の変革」が打ち出されている。コンパクト・プラス・ネットワークと連携し、徒歩・自転車や公共交通の分担率を高めてCO2削減を図る取り組みだ。
2024年度の日本の二酸化炭素排出量のうち運輸部門が19.3%を占め、そのうち44.7%が自家用乗用車によるものである。輸送量あたりの二酸化炭素排出量(単位:g-CO2/人km)を見ても、鉄道(17)、バス(57)に比べ、自家用乗用車(125)は圧倒的に大きい。(※1) ここから、都市構造と一体となった公共交通へのシフト(モーダルシフト)と脱炭素化は、まちづくりGXの中核をなすテーマである。
以上の前提を踏まえて、以降は福岡・九州エリアを中心に、交通をターゲットとして、公共交通へのシフトやその脱炭素化の観点から、まちづくりGXの現状と課題について探りたい。
※1:データは国土交通省HP「運輸部門における二酸化炭素排出量」に基づく。
鉄道への転換が進む一方
減便の悪影響も
福岡エリアでは、モーダルシフトが徐々に進む兆しが見えている一方、課題も見られる。
北部九州圏パーソントリップ調査によれば、福岡市における代表交通手段割合(単位:%)は、05年から17年にかけて、鉄道14.1→16.8(通勤は26.0→30.6)、自動車42.2→38.4(同36.0→30.2)、バス8.3→8.4(同11.2→11.5)、自転車12.5→12.2(同13.7→14.5)、徒歩18.6→20.9(同7.2→9.2)と推移した。この期間では自動車の割合が低下し、鉄道の割合が上昇しているが、同調査の最終年である17年より後のデータはない。
そこで、主要交差点の交通量や公共交通機関・主要駅の利用者や乗車客数から、モーダルシフトの現状を類推する。天神、渡辺通4丁目、祇園町といった福岡都心部の各交差点に流入する1日当たり車両数の推移を見ると、いずれも21年以降は概ね減少傾向を続け、直近の25年度はコロナ禍以前の19年度までと比べ、6%前後減少している。なお、天神近傍の2交差点の直近の増加は、天神ビッグバンによる再開発ビルの開業が進んだ影響とみられる。
公共交通の利用者数(JRについては博多駅のJR九州分の乗車数)を見ると、鉄道に関してはコロナ禍でいったん落ち込んだが、24~25年に関してはコロナ禍以前の水準に回復したか、それを上回っている。七隈線の延伸があった福岡市地下鉄は直近の増加が大きい一方、博多駅の乗車数の回復はほかに比べて鈍い。また、西鉄バスの利用者数はコロナ禍以前の水準に回復していない。25年度の西鉄バスの利用者数は、15~19年度のいずれに対しても20%超の減少を示している。
西鉄バスの利用者数や博多駅の乗車数の伸び悩みの背景として、運転士不足を背景に実施された減便が挙げられる。西鉄バスについては、福岡都市圏以外の路線が含まれることも影響しているだろう。
ここで見過ごせない課題が、鉄道の混雑問題だ。車両の増車が発表されたばかりの七隈線をはじめ、福岡市内に通じるいずれの鉄道路線も朝夕の混雑が激化しており、輸送力の限界が懸念されている。JR九州が22年に実施した減便は大きな批判を浴びた。公共交通の受け皿たる鉄道が過密化・混雑化すれば、乗車時の快適性が損なわれ、自家用車からのモーダルシフトを阻害しかねない。単に「電車へ誘導する」だけでなく、ピークシフトや増発・車両増結など、移動環境の向上が問われている。
九州Maasが促す公共交通利用
まちづくりGXのうち交通GX、とくにモーダルシフトの観点で重要な役割をはたすのが、MaaS(Mobility as a Service)である。MaaSとは、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービスのことで、移動の利便性向上やモーダルシフトを通じた環境負荷の低減に寄与する。
九州エリアでは、九州全域の移動サービスや観光情報を連携させる九州MaaSの取り組みが進められている。トヨタファイナンシャルサービス(株)が提供するアプリ「Myroute」がそのプラットフォームである。ライバル企業だった西日本鉄道(株)(西鉄)と九州旅客鉄道(株)(JR九州)が19年の覚書締結を契機に連携し、構想やシステムづくりを先導しているのも特徴だ。トヨタ自動車(株)や第一交通産業(株)も中心的な役割をはたすこの九州MaaSには、今や100を超える官民の交通事業者・自治体・企業などが参画している。
Myrouteを使って検索をすると、交通機関を組み合わせた複数のルート候補のほか、割引チケットの情報も知らせてくれる。
例として、筥崎宮から志賀海神社へのアクセスを考えてみよう。実は両社は、歴史的つながりが深い。福岡市地下鉄、西鉄バス、JR鹿児島本線や香椎線、福岡市営渡船を組み合わせた複数のルートが出てくるなか、福岡市営渡船を利用するルートが最上位に出てきた。西鉄バスを中心としたルートに出てきた「お得なチケットはこちら」をクリックすると、2種類の福岡市内フリー乗車券のアイコンが現れる。ここからの購入も可能だ。
公共交通の利用だけでなく、買い物のクーポンや観光施設の利用予約もMyrouteで完結する。例を挙げると、主要都市から福岡・博多エリアまでの交通乗車券(JRもバスも選択可)と3,000円のショッピングチケットを組み合わせた「天神・博多乗レールエールチケット」、電車の切符、柳川の川下り乗船、太宰府・柳川の買い物クーポンがセットになった「太宰府・柳川観光きっぷ」がある。このように、企業の垣根を越えた連携のおかげで、1つのアプリで楽しみながら公共交通を選べる仕組みが整いつつある。
「ラストワンマイル」も重要な要素
GXに際しては、最寄りの駅やバス停から自宅や最終目的地までの1~2kmの移動区間、いわば「ラストワンマイル」のモビリティも重要だ。
西鉄は三菱商事(株)との共同出資の下、AI活用型オンデマンドバス「のるーと」を展開している。福岡市では東区のアイランドシティ、西区の壱岐南地区に導入されているほか、福岡県内の他の複数の市町や全国へも展開されており、高齢者をはじめとする地域住民の移動手段の確保に大きく貢献している。
シェアサイクル「チャリチャリ」
シェアサイクルの役割も見逃せない。福岡都市圏の代表的な事例は、自転車の赤色の車体が目を引く「チャリチャリ」だ。18年の福岡市でのサービス開始以降、福岡県内の他の市町や県外にもエリアが広がっている(※2)。マンションの敷地などの民有地に加え、鉄道駅周辺、バスの事業所にも駐輪ポートを多く設置して、公共交通と連携した都市交通の「葉脈」の役割をはたしている。収集、分析が可能な利用データが電子管理されている点も、大きな特徴だ。北九州市でも、同様の事業「ミクチャリ」が展開されている。
※2:チャリチャリ(株)のHPによれば、2026年9月末時点の展開市町は、福岡市、粕屋町、志免町、那珂川市、熊本市、菊陽町、久留米市、佐賀市、天草市、唐津市(旧・呼子町、中心部)、京都市、大津市、名古屋市、三重県桑名市、東京都区部(台東区、墨田区、文京区、千代田区)である。
公共交通機関の脱炭素
公共交通機関の側の、脱炭素の技術の進化についても触れたい。西鉄は、台湾のメーカーRACと共同で、古くなったバス車両のエンジン部分をモーターやリチウムイオンバッテリーに交換して再利用する、レトロフィット電気バスの導入を進めている。JR九州は、電化区間はパンタグラフから電気を取って走行する一方、非電化区間では備え付けの蓄電池で駆動する「DENCHA(デンチャ)」車両の導入を広げている。第一交通産業は、EVタクシーの導入を積極的に進める一方、太陽光発電で充電する営業所の運用も始めている。
利便性向上と
社会課題解決との連携を
福岡エリアの事例は、まちづくりGXの成功に向けたカギを示している。それは、多様な主体の連携の下、ユーザーの利便性向上・社会課題解決と一体的にGXを推進することだ。運転士不足の深刻な課題に対しては、MaaSによる効率化や自動運転技術の導入が解決の糸口となり得る。脱炭素に加え、市民の健康増進にも直結する徒歩の役割も大きい一方、昨今の気候変動を考えれば、その推進には都市緑化や給水スポットの拡大も求められる。これらも実は、GXに連関していると言っていい。
国土交通省が掲げる「イエ(自宅内での消費・デジタル完結)」に勝つ「マチ(魅力的な都市空間での体験・移動)」の実現に向けても、まちづくりGX、とくに交通GXの重要性は増している。環境負荷の少ない快適で円滑な移動環境の整備こそが、人々に「出かけたい」と思わせる魅力的な都市づくりの土台となるはずだ。
<プロフィール>
島倉孝之(しまくら・たかゆき)
富山県射水市出身。不動産系シンクタンクの研究員として都市計画、資産評価、国連ハビタット関連業務などに従事。海外開催の起業支援プログラム参加後は、気候対策とヘルスケアを複合させたビジネス構想を進めながらライターとして活動。2024年に大谷翔平選手のコラム記事を連載。脱炭素まちづくり公認ファシリテーター。

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