事故が集中する道路をどう変えるか 福岡県内の事故ゼロプラン

 交通事故を減らすには、交通ルールの遵守を促すとともに、事故が起きやすい道路環境の改善が不可欠だ。福岡県内の直轄国道では、事故データと地域の声を基に危険区間を選び、対策を重点化する「事故ゼロプラン」が進められている。その仕組みと整備事例から、道路の安全対策とまちづくりの関わりを探る。

啓発と道路整備で事故の削減を図る

 2026年9月21日から30日までの10日間、内閣府や警察庁など10府省庁と都道府県、市区町村、関係13団体が主催する「秋の全国交通安全運動」が全国で実施された。期間の最終日である9月30日は「交通事故死ゼロを目指す日」として、国民1人ひとりに交通ルールの遵守とマナーの実践を促し、交通安全意識の向上を図った。しかし、意識の啓発だけで交通事故をなくすことは困難だ。事故の発生には道路構造や交通環境など、工学的な要因も大きく関わるからだ。

 国土交通省の10年当時の資料によると、幹線道路の死傷事故の71%が全体の22%の区間に集中していたことが判明している。九州の直轄国道においても、全体の約3割の区間に事故の約70%が集中していた。このような危険性の高い区間を特定し、道路構造や交通環境の改善を重点的に進めることが、啓発と並ぶ事故防止の柱となる。この取り組みを、国土交通省は「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」として全国で推進している。

国土交通省九州地方整備局福岡国道事務所および北九州国道事務所が直轄管理する福岡県内の国道区間
国土交通省九州地方整備局福岡国道事務所および
北九州国道事務所が直轄管理する福岡県内の国道区間

事故は減少するも目標には届かず

 まず、福岡県内の交通事故の状況について確認しておきたい。福岡県警によると、25年に発生した交通事故件数は1万7,368件、死者数は85人、負傷者数は2万2,016人で、いずれも前年を下回った。減少数はそれぞれ1,105件(6.0%減)、6人(6.6%減)、1,590人(6.7%減)である。地区別の発生件数は福岡地区8,618件、北九州地区4,480件、筑後地区2,599件、筑豊地区1,355件、高速道路など316件で、県内の約半数を福岡地区が占める。市区町村別では福岡市が5,001件と県内の28.8%を占めており、そのうち博多区が1,125件と発生件数が県内最多となっている。

 時間帯別では、16時~18時が最多で2,798件だった。次いで8時~10時が2,584件。いわゆる通勤・通学ラッシュの時間帯と一致している。事故類型別では、車両同士の追突事故が5,993件と最も多く、出会い頭での衝突4,140件がそれに次いだ。歩行者などが関連する事故は2,098件で前年比8.8%の減少となった。道路の形状別に見てみると、交差点での事故件数が6,584件。交差点付近での事故を合わせると、全体の53.5%となり、事故のおよそ半数が交差点やその付近で発生していることがわかった。

 福岡県では、福岡県交通安全対策会議が作成する「第11次福岡県交通安全計画」において、25年までに年間の発生件数を1万6,000件以下、死者数を80人以下とする数値目標を掲げていた。24年は、発生件数が1万8,473件(前年比1,700件減)、死者数が91人(同12人減)であり、最終年度に当たる25年の実績も前述の通りそれぞれ発生件数1万7,368件、死者数85人と減少はしたものの、目標には届かなかった。

データと地域の声で
危険区間を絞り込む

 事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)とは、国土交通省が2010年から全国の直轄国道などで展開する、交通安全事業のマネジメント手法だ。

 同プランが導入された背景には、当時の全国の交通事故死者数が減少基調にあったものの、減少幅が縮小していたことがある。限られた予算で対策の効果を最大限に高めるため、事故データと地域の声に基づいて事故の危険性が高い区間を明確化し、対策を集中的・重点的に実施する枠組みが採られた。導入当初、全国で選定された事故危険区間は1万4,303区間に上る。選定では、事故データのほか、住民アンケートなどにより地域の声を幅広く収集するとともに、学識経験者、道路利用者、関係機関からなる委員会の意見を聴取した。

 福岡県では「令和7年度交通安全実施計画」において、幹線道路における交通安全対策の1つとして事故ゼロプランの推進を位置付けている。実施機関は国土交通省九州地方整備局。同局の福岡国道事務所と北九州国道事務所が連携し、県内約460kmの直轄国道を対象に「福岡県版事故危険区間リスト」を作成している。

2025年度版 福岡県内の事故危険区間数

 26年3月に更新された令和7年度版の区間数は計579区間で、福岡国道事務所管内465区間、北九州国道事務所管内114区間に分かれる。路線別に見ると、国道3号の214区間が最も多く、以下、国道202号125区間、国道210号72区間、国道209号50区間、国道208号46区間、国道201号42区間、国道10号30区間と続く。

 福岡県の事故危険区間リストでも、全国的な取り組みと同様に、事故データと住民などからの要望に基づいて区間の選定を行っている。事故データでは、死傷事故率、死傷事故件数、重傷事故件数、事故の増加傾向に加え、ETC2.0(高速料金の支払い機能に加えて渋滞情報・安全運転支援・災害情報などを提供する道路交通システム)のデータを用いた潜在的な事故リスクの評価が行われた。住民などからの要望については、横断する歩行者の構成や交通量、通学路の指定状況などを確認。周辺施設の立地状況や、歩道整備によって回避できる事故の発生状況、自転車ネットワーク計画との整合も検証の対象としている。県、市町村、地域住民からの意見と事故データを突き合わせて対策の必要性を確認し、学識経験者らで構成される会議の意見を踏まえてリストを作成。その後も毎年度、見直しが行われている。

 危険性の高い区間の明確化、リストへの掲載、対策の立案、対策への着手、完了後の効果評価を1つのサイクルとして管理する。対策の立案では緊急性と妥当性を確認し、事故原因に即した効果の高い対策が選ばれる。整備は交通安全施設整備事業で進められ、完成後の効果評価を次年度以降のリストの見直しに生かす。

交差点や歩道の改良で
道路の危険要因に対応

 事故ゼロプランによってリスト化された危険区間では、これまでにも改良が進められてきた。11年には国道3号の三萩野交差点(北九州市小倉北区)の改良に着手。同交差点は北九州モノレール香春口三萩野駅の近くに位置し、国道3号と国道10号が交差している。北九州市の中心地に近く、交通量が多いことに加えて、モノレールが通過するため、交差点が非常に広いことが特徴だ。この交差点では、交差点内で直進車の走行経路が急に折れ曲がることや、直進車の急な減速・車線変更、右折車の右折車線からのはみ出しにより、追突事故が多発していた。そこで、追突事故対策として車線のカラー舗装や減速マーキング、右折レーンの延伸を実施。また、右折車と直進車の衝突事故対策として、右折アプローチのカラー化を行った。これにより、車線の視認性が高まった。

 そのほかにも、国道3号バイパス榎田交差点(福岡市博多区)では、上り線の直進車線が3車線から2車線に絞り込まれており、無理な車線変更にともなう追突事故が発生していた。13年11月に完成した改良では、直進車線の追加、右折ポケットの新設、カラー舗装により右折車両の滞留の解消と追突事故の低減を図った。また、国道202号前原西中学校入口交差点(糸島市荻浦)は中学校の通学路として利用される区間で、歩道幅員が1.6~2.0mと狭く、右左折待ち車両が直進車両の通行を妨げる課題も抱えていた。そこで、歩道を3.5mに拡幅し、右左折レーンを設置して歩行空間の確保と追突事故の低減を図った。完成にあたっては、前原西中学校の生徒会が考案した交通安全メッセージが、国道沿いに掲示された。

 こうした交差点改良や歩道整備は、事故ゼロプランに掲載された区間以外にも県内のさまざまな区間で進められている。県の実施計画がまとめる24年度の交通安全施設整備事業の実績では、事業費の合計は約157.1億円に上る(調整費と道路の新改築にともなう施設整備を除く)。主な整備内容は、交差点改良99カ所、道路照明1,373基。このほか、道路標識842本、区画線約615km、視線誘導標7,417本、防護柵約30km、道路反射鏡575本、道路情報提供装置20基などが整備された。交差点そのものの改良に加え、運転者の視認性を高める設備や、歩行者などを保護する施設の整備も進められている。

事故危険区間リストに基づく交通安全対策事業の流れ

土地利用の変化を安全対策へ反映

 こうした道路の安全対策は、まちづくりの実務とも密接に関わる。事故危険区間の抽出項目に通学路の指定、周辺施設の立地状況、自転車ネットワーク計画との整合が含まれているのも、そのためである。これらは道路単体の設計条件ではなく、沿道の土地利用と地域の生活動線を併せて考える必要がある項目だ。

 区画整理や再開発、公共施設の配置によって、歩行者や自転車の通行量、移動経路は変化していく。人の流れが変われば、道路に求められる安全対策も変わる。地域の声をリストに反映させる仕組みは、道路管理者と地域の計画に関わる人々が、こうした変化や課題を共有し、具体的な対策につなげる機会となる。実施計画は生活道路の分野でも、交通安全対策の推進と通学路等の安全確保を掲げている。高齢者や障がいのある人などが安全に通行できる歩行空間の整備も、その1つだ。具体策として、歩行者空間のユニバーサルデザイン化や無電柱化、道路交通環境整備への住民参加の促進を併せて位置付けている。

 幹線道路と生活道路は、住民の日常の移動のなかでつながっている。生活道路の歩行空間を確保しても、その先の幹線道路を安全に横断できなければ、移動経路全体の安全性は確保できない。それぞれの対策を、地域の交通環境全体のなかで考えることが重要だ。事故危険区間リストも毎年度見直されるため、土地利用や生活動線の変化を捉え、更新に向けた検討に反映させていく必要がある。

 先に挙げた交差点の整備事例では、交差点の改良、歩道の拡幅、カラー舗装といった既存技術を組み合わせて課題に対応している。道路を新たにつくるだけでなく、既存道路の使い方や構造を見直すことも、安全性の向上につながる。整備を要する箇所では、沿道の建物や通路との調整をともなうため、地域の理解を得ながら、必要な合意形成を進めることが求められる。県内の事故は減少基調にあるものの、第11次計画の目標には届かず、死亡者に占める高齢者や歩行者の割合も高い。通学路や買い物動線、駅周辺の交通環境についての日常的な観察は、次のリスト更新と対策の選定に向けた材料になる。地域の計画に関わる実務者も、そこで把握した危険箇所や人の流れの変化を道路管理者に伝えることができる。危険箇所をリストに載せるだけでなく、必要な整備を進め、その後の事故発生状況をたしかめる。地域から寄せられる情報を、この一連の取り組みに生かしていくことが求められる。

【若松大生】

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