県政のドン・蔵内勇夫の「栄枯盛衰物語」(5)ワンヘルスについて

地元では憐れむ声も

 元福岡県議会議員である蔵内勇夫氏の政治家としての業績、なかでも地元である筑後市を中心とする福岡県南部のそれをあげると、次のようなものがあります。

  • 筑後船小屋駅周辺の開発
  • 筑後広域公園
  • 九州芸文館

 筑後船小屋駅には九州新幹線の駅が誘致されており、駅の隣には筑後広域公園、九州芸文館があります。福岡ソフトバンクホークスのファーム施設「タマホームスタジアム筑後」もすぐそばにあり、田園風景のなかでその周辺だけ、とくに異彩を放っています。

 地元の関係者にとって、これらの地域開発を主導した蔵内氏はいまだに人気が高く、「地元に多大なる貢献をしてくれた人物」として、現在の状況を憐れむ声も聞かれました。とくに悔やまれているのが、蔵内氏の代表的政策であり、福岡県全体の政策のなかでも重要な位置づけを占めるようになっていた「ワンヘルス」についてです。

 県南部の市議会議員であるBは次のように話しています。

「筑後船小屋駅周辺の開発でできあがったものは、(蔵内氏)をはじめとする先輩方が次世代に残してくれたもので、私たちはそれをベースに市の発展に努めていきたいと考えている。福岡県議会の混乱でワンヘルスへの風当たりが強まっているが、だからといってワンヘルス全体が悪とされているのは違うのではないか」

医療界と獣医界の融合

 では、ワンヘルスとはどんな政策なのでしょうか。ワンヘルスは「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」を1つのものとして捉え、一体的に守っていこうという考え方です。人間の健康は、人間だけの問題ではなく、動物や自然環境の健康状態とも密接に関係しているという認識に基づいています。

 その背景にあるのが、人と動物の双方に感染する人獣共通感染症や、抗菌薬が効きにくくなる薬剤耐性菌などの問題です。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行も、人間と動物、環境の関係を一体的に考える必要性を改めて浮き彫りにしました。また、森林破壊や気候変動、生物多様性の損失なども感染症の発生リスクに影響するとされ、医療や獣医療だけでなく、環境保全や農林水産業など、幅広い分野の連携が求められています。

 福岡県は2016年の「第2回世界獣医師会-世界医師会“One Health”に関する国際会議」で、理念の実践を呼び掛ける「福岡宣言」が採択されたことを契機に、推進に力を入れてきました。20年12月には、全国で初めてワンヘルスの推進を掲げた「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を制定し、21年1月に施行しました。

 同条例では、①人獣共通感染症対策、②薬剤耐性菌対策、③環境保護、④人と動物の共生社会づくり、⑤健康づくり、⑥環境と人と動物のより良い関係づくり、という6つの基本方針を掲げています。さらに、22年10月には実践促進に関する条例も制定し、県や市町村、事業者、県民がそれぞれの役割を担いながら取り組む体制を整えました。

 感染症対策にとどまらず、自然環境の保全や動物愛護、安全な農林水産物の生産、健康づくりなど、私たちの日常生活や産業活動にも関わる幅広い政策です。人と動物が共生し、健全な環境を次世代に引き継ぐ社会の実現を目指す取り組みといえます。

 ざっと解説するとこんな感じですが、正直なところ福岡県民のなかでこの政策の全体像を理解している人は、県議会の問題が発覚した以降でも、筆者を含めて多くはないでしょう。前回ご登場いただいた現職県議会議員のAは、「これまで医療界と獣医界の交流は国内ではほとんどなかった。それを初めて一緒に取り組むよう方向付けたのがワンヘルスであり、それがワンヘルスの意義の1つ」と述べていました。

 Aには、議会においてワンヘルスがどのように政策に組み込まれていったのかについても聞いています。それは次回に詳しくご紹介します。

マスコミ軽視=有権者軽視

 ところで11月5日に蔵内氏の記者会見が行われました。直前まで会見の開始時間と場所が伏せられ、対象は県の記者クラブの記者に絞って開催しました。警備上の理由だからだそうですが、時間と場所を記者クラブの関係者が事前にリークした場合、会見を中止するとも伝えていたそうです。

 このことはマスコミを軽視していると思いますし、それに抗議し、逆に「中止で結構」と言い切れないマスコミの様子にもがっかりさせられました。これは蔵内氏が、有権者もバカにしていることと同義だと思います。

 筆者も現地に足を運びましたが、結局、会見場には入ることができず、蔵内氏の姿は会場から退出する際の数秒しか見ることができませんでした。そのため当然ながら、同氏が語った内容は報道でしか知りません。

 やる必要があったのでしょうか。主張したいことだけ話をした、予定調和の会見という印象です。1つだけ収穫があったとすれば、選挙には一切出ないと引退宣言をしたこと。今後、蔵内氏の政界に対する影響力が確実に薄れるということだけでなく、県政への熱意が大したものではなかったことを確認できました。

 ワンヘルスという高尚な理念を提示し、政策を熱心に推進し、冒頭の市議会議員のように熱意をもって受け継ごうとする人たちもいます。疑惑に対して潔白なら、議員活動を継続すればよいものを。意外に器の小さな人だったのだと、残念に感じました。

(つづく)

【三輪尚樹】


<プロフィール>
三輪尚樹
(みわ・ひさき)
50代半ば。福岡市在住。マスコミ関連の仕事を長くしてきましたが、政治関連の取材・執筆の経験はほとんどありません。学生時代から30年以上、関東に居住していたため、福岡県の政治情報についてもほぼノータッチで生きてきました。政治不信。いわゆる「ノンポリ」で支持政党はありません。

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