脱・LDK化による日本家族の再編(1)
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“家族”分野において、明治政府はドイツの制度を参考に「イエ制度」をつくり、戦後は民法改正などもあって、欧米の「核家族」をモデルに社会が組み立てられてきた。この核家族の器にあたる“住宅”づくりに大きく加担したのが、「土建モデル」の実行者である建設人たちだ。
奇しくも“寅さんシリーズ”が終わったころから、日本経済はデフレ不況に突入した。1980年代までは世界中でもてはやされた「日本型経営」「日本型資本主義」が否定され、時代遅れなものとみなされるようになったなかで、反動的に競争礼賛の空気が蔓延していくことになる。「土建国家モデル」とは
公共事業を通じた地方と低所得者層への再分配方法―土建国家モデル。利益誘導型の公共事業への過剰依存は、必要過多な道路やダムなどの“ハコモノ”をつくることにつながり、財政赤字の拡大を招いただけでなく、日本の国土をコンクリートだらけにする弊害をともなっていた。
公共事業は地方や低所得者への雇用創出、所得補償を担った。農山村の余剰労働力を受け止め、兼業農家の収入安定に寄与することで、都市と地方の収入格差を解消し、地方に人をつなぎ留めた。また都市部でも、低所得者や低学歴の人たちの雇用の受け皿となった。公共事業と減税で、全方位的にお金を配分する「土建国家モデル」は、実にうまく機能してきた。“一億総中流”と言われた世界でも稀に見る平等社会が実現した背景には、この巧みな再分配の政策パッケージがあったことは間違いないだろう。そして世界的な経済大国へのし上がったことも周知の事実だ。
しかし、土建国家モデルには致命的な欠陥があった。それは右肩上がりの高度経済成長による、税収の自然増を前提にしたモデルだったことである。人口と税収が増えなくなった途端に、公共事業の財源も減税の財源も先細りしていくのだ。
岸田総理は「少子化対策」として、男性の育児休業取得促進を通じてそれを実現しようとしている。男性育休取得率を引き上げることで、女性に家事・育児負担が集中する「ワンオペ家事・育児」を改め、男女共同参画を促進しようとしている。ひいては少子化対策につながるという。だが、女性のワンオペ家事・育児が解消されても、日本の子どもの数は大きくは増えないだろう。なぜなら根本的な理由は“母親の数”と“婚姻数”の減少であり、そこに通じる日本人の潜在的な「家族主義」が立ちはだかる。旧来の成長モデルからの転換をどのようにやっていくのか。筆者はそこに興味があるわけだが、「欧米に追いつき、追い越せ」で廻ってきた日本のソフト政策の検証として、家族領域から「少子化問題」を切り口に日本人の精神性に触れてみたい。
日本型“少子化対策”
欧米の多くの国では、「子は成長したら親から独立して生活する」という慣習が埋め込まれている。欧米先進国(南欧を除く)では学卒後、男性だけでなく女性にも経済的に自立することが求められる。成人後も理由なく親と同居し続けることは、親離れしていない証拠とみなされ、一人前として扱ってもらえないのだ。
欧米でも日本と同じく若者の収入は低いだけでなく、失業率も高い。にもかかわらず、親元を離れて自立して生活する必要に迫られるのだ(実家に身を置く場合でも親から家賃を取られる場合も少なくない)。ルームシェアは一人暮らしに比べ、経済的(住居費や光熱費等)に合理的な手段となる。そして同じ一緒に住むなら、好きな相手と住むほうが良い。2人の収入を合わせれば、一人暮らしより良い生活ができる。こうして同棲が増え、同棲しているうちに子どもが生まれる。その結果、出生率が上がるという摂理だ。
つまり欧米では親に依存できないため、結婚や同棲は一人暮らしに比べれば経済的に楽になる手段となる。もちろん子どもが生まれれば、子育てに時間やお金が取られるため生活水準が低下するが、だからそこに社会保障で若者の子育て生活を経済的に支援する政策が下支えし、出生率が維持されるのだ。
それに対し日本では、親の家を出て新しい生活を始めることは、経済的に苦しくなるケースがほとんどだろう。生活水準が低下することを避けるためには、親と同居し続け、一人暮らしをしないことが最も合理的な選択となる。すると、同棲や結婚の機会が減る。同棲も結婚も男女交際もしなければ、子どもが生まれるはずはない。“成人後も親と同居するのが当然”という文化が、未婚化、少子化に影響していることは否めない。日本では未婚者に対して、親元を離れて自立しろという圧力が比較的弱く、この自立志向の弱さが未婚化の大きな要因につながっているのではないか。
(つづく)
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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