【クローズアップ】過去最高を更新する福岡市の市税収入 35年の推移から読み解く税源構造の変化
福岡市の2025年度市税収入は4,172億円に達し、4年連続で過去最高を更新する見込みだ。1990年度と比べれば35年間でほぼ倍増した。しかし、その中身を見ると、個人市民税や固定資産税が2倍以上となった一方、法人市民税は現在もバブル期を下回る。人口増、地価上昇、景気変動、そして幾度もの税制改正は、福岡市の税収構造をどのように変えてきたのか。さらに、市税収入が増えることは、市民1人ひとりの豊かさの向上を意味するのか。長期データから福岡市の成長と市民負担の関係を読み解く。
市税収入は35年間で倍増 税目で異なる伸び
福岡市が7月に公表した2025年度の市税決算見込額は4,172億6,200万円。24年度の3,837億4,200万円から335億1,900万円、8.7%増加した。市税収入率も98.8%と高水準を維持している。市税収入は22年度以降、4年連続で過去最高を更新することになる。
長期的な変化を見るため、バブル景気末期にあたる1990年度と比較してみよう。同年度の福岡市の市税収入は2,077億3,600万円だった。25年度の決算見込額はその約2.01倍で、35年間で市税収入は名目額ベースでほぼ倍増したことになる(【表1】を参照のこと)。
35年間の変化率を税目別に単純比較すると、
・個人市民税 約2.39倍
・固定資産税 約2.44倍
・都市計画税 約2.27倍
・法人市民税 約0.95倍
となる。
その結果、個人市民税、固定資産税、都市計画税の3税を合わせた市税全体に占める割合は、90年度の約69%から25年度には約82%へ上昇した。一方、法人市民税の割合は約23%から約11%まで低下した。
その推移の背景を分析すると、福岡市に住み、所得を得る「人」と、市内に存在する土地・建物という「都市資産」が、市財政を支える度合いを強めてきたことが見えてくる。
個人市民税
減税と景気に揺れた90年代
福岡市の個人市民税は1980年代から93年度まで増加基調で推移したが、いったん落ち込み、97年度に再び増加して約782億円に達した。背景にあるのは、バブル崩壊後に国が実施した所得税・個人住民税の特別減税だ。景気低迷への対応として94年度には所得税(国税)と個人住民税を合わせた大規模な特別減税が行われ、95、96年度にも減税措置が継続された。その後、97年度当初には特別減税が実施されなかったため、それまで減税によって抑えられていた税収が反発した(市税に関連する税制変更を【表2】にまとめている)。
ところが個人市民税は97年度を境に再び減少する。97年後半からアジア通貨危機や国内金融機関の経営破綻などによって景気が悪化。98年度には再び所得税・個人住民税の特別減税が実施された。さらに99年度からは所得税と住民税の恒久的な減税が導入され、個人住民税でも定率減税などが実施された。その結果、97年度の約782億円から98年度には約718億円へ落ち込み、その後も減少基調が続き、2004年度には約638億円となった。
税源移譲で増収 リーマン後は再び減少
個人市民税は04年度の約638億円を底として再び増加に転じ、08年度には約847億円と第2の山を形成した。2000年代半ばの景気回復にともない、雇用や所得環境が改善したことに加え、税制変更の影響が大きい。1999年度から続いていた定率減税が2006年度に縮小され、07年度には廃止された。さらに大きかったのが、07年に国の「三位一体改革」にともなって、所得税から個人住民税への税源移譲が行われたことだ。国から地方へ税源を移すため、それまで国税である所得税として徴収していた税の一部を個人住民税へ移したことで、福岡市の個人市民税収入も増加した。
しかし、08年秋のリーマン・ショックを発端とする世界的な金融・経済危機により、企業業績や雇用、給与所得が悪化した。その影響で個人市民税も08年度をピークに再び減少し、11年度には約790億円まで低下した。個人市民税は前年の所得を基に課税されるため、景気悪化と税収減少には一定の時間差が生じる。
12年度以降は納税者増が基調 制度変更で生じた税収の段差
11年度以降は、納税義務者数の増加を背景に個人市民税も増加基調を強めた。福岡市は全国的に人口減少が進むなかでも人口流入が続き、とくに進学や就職を契機として若年・現役世代を受け入れてきた。その結果、所得割の納税義務者数は1990年度の約43万8,000人から、2017年度には約68万7,000人、23年度には約76万5,000人まで増えた。これを背景に個人市民税は長期的には増加基調を強めた。11年度から12年度の増加には、年少扶養控除の廃止など所得控除制度の見直しも影響している。
また、18年度には前年度の約933億円から約1,245億円へ、1年間で300億円以上、33%あまり増加している。これは政令指定都市への県費負担教職員制度の権限移譲にともない、それまで県が負担していた市立小中学校などの教職員給与を政令市が負担することになったためだ。その財源として、個人住民税所得割の県と市の配分が変更されたことによる。従来、市民税6%、県民税4%だったものが、市民税8%、県民税2%となった。市民税収は大きく増えたが、両者を合わせた住民税率10%に変化はない。
24年度は定額減税の実施により大幅に減収した。一方、25年度は前年度の定額減税による減収の反動もあり前年度比13.7%増となる見込みとなった。
以上、1990年代から2025年度までの個人市民税の推移を振り返ったが、35年間で約2.39倍となった主な要因には人口増や納税者数の増加に加え、税源移譲や控除制度の見直しなど、たび重なる制度変更があった。
法人市民税
景気と税制に左右される税収
法人市民税は、資本金や従業者数などに応じて課税される「均等割」と、国税である法人税額を基礎に計算される「法人税割」で構成される。このうち税収変動を大きく左右するのが法人税割で、企業利益が増えれば税収が増え、業績が悪化すれば減少する性格が強い。
福岡市の法人市民税は91年度の約495億円が現在までの最高額だ。バブル景気末期の高水準な企業収益が反映されたもので、バブル崩壊とともに法人市民税は大幅に減少していった。
94年度を底に法人市民税は持ち直し、96年度には約449億円まで増加した。しかし、97年のアジア通貨危機や国内金融システム不安、98年以降の景気後退を受けて再び減少。2002年度には約364億円に落ち込む。
また、この時期には国税の法人税基本税率も1998年度に37.5%から34.5%へ、99年度にはさらに30%へ引き下げられた。法人市民税の法人税割は国税である法人税額を基礎とするため、企業所得が同じでも税制の変更によって市税収入は変わり得る。
景気回復で再び高水準 法人税割は2度引き下げ
2000年代前半から続いた景気回復で企業収益が改善したことが税収にも表れた。法人市民税は02年度の約364億円を底に再び増加し、06年度には約451億円となった。その後、リーマン・ショックによって09年度には約333億円へ急落した。06年度から09年度までの減少率は約26%であり、法人市民税が個人市民税以上に景気変動の影響を受けやすいことがわかる。
09年度を底に法人市民税は再び回復し、14年度には約432億円となった。また、この時期から重要な制度変更が始まる。14年10月以降に開始する事業年度から、法人住民税法人税割の一部が国税である「地方法人税」へ移された。企業が集中する大都市部と地方との税源格差を是正するため、法人住民税の一部を国税化して地方交付税の原資とする仕組みである。その結果、福岡市では一定規模以上の法人に対する法人税割税率が14.7%から12.1%へ低下した。それでも18年度には約449億円まで増加しており、当時の企業収益が高水準にあったことが税収にも表れている。
19年10月には税源偏在是正策がさらに強化され、一定規模以上の法人に対する法人税割税率は12.1%から8.4%へ引き下げられた。そこへ新型コロナウイルス感染拡大が重なり、法人市民税は18年度の約449億円から21年度約356億円まで減少した。ただし、法人市民税の減収を補う仕組みとして法人事業税交付金が導入されるなど、市財政への影響を調整する仕組みも設けられた。
25年度は450億円台へ回復 なおバブル期を下回る
21年度を底に法人市民税は回復し、25年度の決算見込額は約456億円となった。福岡市は増収要因として企業収益の増加を挙げている。
以上、1990年代から2025年度までの法人市民税の推移を振り返ったが、現在と1991年度では法人税割税率だけでなく、国税の法人税率や課税ベースなど法人課税制度そのものが大きく異なる。このため、税収額だけから現在とバブル期の企業収益を単純比較することはできない。ただし重要なのは、福岡市の人口や経済規模が拡大した現在も、法人市民税収そのものは91年度を上回っていないことだ。福岡市の市税収入が「企業利益」を中心に伸びてきたわけではないことが、ここからも確認できる。
固定資産税・都市計画税
地価下落でも増収した90年代
福岡市の固定資産税率は1.4%、都市計画税率は0.3%で、90年代以降、基本的な税率は変わっていない。それでも固定資産税と都市計画税が長期的な上昇基調を示しているのは、課税対象となる土地・家屋の価値と量が増加してきたためだ。
バブル期、福岡市の商業地平均価格は地価公示で92年に1m2あたり約248万円まで上昇したが、その後急落し、99年には約72万円まで下落。住宅地も同様に下落した。ところが、固定資産税は90年度の約632億円から99年度には約1,074億円へ約7割増え、都市計画税も約143億円から約229億円へ増加した。
背景にあるのが94年度の固定資産評価制度の変更である。宅地の固定資産評価額を公示地価の7割程度にそろえる方向へ制度が改められ、それによって大幅に評価額が上昇した土地では、課税標準額が評価額を大きく下回る状態も発生した。一方、税負担を急増させないための「負担調整措置」により課税標準額は段階的に引き上げられたため、その後地価が下落局面に入っても、評価額に比べ課税標準が低い土地では税額が上昇する場合があった。その結果、90年代は、94年度の評価額引き上げが負担調整措置を通じて税負担へ段階的に反映されるという制度的要因もあり、両税の税収が上昇を続けた。
地価下落を都市ストック増が補完 10年代以降は地価上昇と再開発
2000年代から10年代初めにかけて、両税の増加はいったん鈍化した。福岡市では住宅地、商業地とも地価低迷が長く続き、固定資産税・都市計画税の合計も概ね横ばいで推移した。
それでも税収が地価と同じように大幅減とはなっていない。地価下落や既存家屋の減価というマイナス要因があったものの、新増築家屋や設備投資による都市ストックの増加が補ったと考えられる。
状況が大きく変わるのが10年代半ば以降だ。住宅地平均価格は13年の1m2あたり約11万3,000円から25年には約24万円へ2倍以上、商業地は約51万円から約153万円へ約3倍となった。人口流入や企業集積によって住宅・オフィス需要が拡大し、天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの再開発も土地需要を押し上げた。
さらに近年は、地価だけでなく建物の増加と土地利用の高度化も影響している。低層建物や駐車場だった土地に高層マンション、オフィス、ホテルなどが建つことで新たな課税資産が生まれる。土地利用の高度化が進み、同じ市域のなかにより多くの課税資産が積み上がってきた。
以上、1990年代から2025年度までの固定資産税・都市計画税の概要を振り返った。土地には住宅用地特例や負担調整措置があるため、地価上昇がそのまま同率で両税の負担増として表れるわけではないものの、長期的には地価上昇に加え、新増築家屋の増加や土地利用の高度化による都市ストックの蓄積が、両税の税収を押し上げてきた。こうした増収は、福岡市という都市そのものの資産価値と課税資産の量が拡大してきた結果といえる。
市民負担
税収増でも異なる家計への影響
個人市民税と固定資産税・都市計画税は、ともに福岡市の税収増を支えてきたが、市民にとって増収が意味するものは異なる。
個人市民税については、税収の増加をそのまま市民1人ひとりの負担増とみることはできない。所得割の納税義務者は90年度の約43万8,000人から2023年度には約76万5,000人へ約75%増えた。福岡市では人口流入とともに所得を得て税を納める人そのものが増えたことが、個人市民税収を押し上げてきた。また、18年度の大幅な増収も、市民税と県民税の配分変更による部分が大きく、個人住民税全体の税率が引き上げられたわけではない。
一方、固定資産税・都市計画税には異なる側面がある。もちろん、市全体の増収すべてが既存住民の負担増を意味するわけではない。マンションやオフィスなどの新増築、企業の設備投資による課税資産の増加も税収を押し上げるからだ。しかし、既存の土地所有者については、所得が増えていなくても地価上昇によって税負担が増える場合がある。地価上昇が固定資産評価額や課税標準へ反映されれば、給与や年金などの現金収入とは別に、固定資産税・都市計画税を押し上げる方向に働く。とくに自宅として土地・家屋を保有する世帯では、地価が上昇して資産価値が高まっても、自宅を売却しない限り値上がり益が家計の現金収入になるわけではない。つまり、「資産価値は増えたが、使える所得は増えていない」状態でも税負担が増える可能性がある。市にとって地価上昇は安定した税源の拡大となる一方、既存の不動産所有者にとっては、所得増をともなわない負担増となり得る。
地価と税収は上昇 1人あたり実質消費は横ばい
この点を考えるうえで注目されるのが、福岡市民の消費動向だ。まず、福岡市民経済計算による実質家計最終消費支出は、13年度の約3兆5,582億円から22年度には約3兆9,065億円へ増えている。しかし、その間に福岡市の人口も増加した。人口で割った1人あたり実質家計最終消費支出は、13年度の約236万円から22年度の約239万円へ、9年間で増えたのは約1.6%にとどまる。実質的にはほぼ横ばいである。福岡市民経済計算は22年度までだが、その後について総務省の家計調査を見ると、福岡市の2人以上世帯の1世帯あたり月間消費支出は、22年の28万6,265円から25年には30万4,083円へ名目では増加している。一方、この間に福岡市の消費者物価指数は101.5から112.0へ上昇した。物価上昇を考慮して簡易的に実質化すると、消費支出は22年を下回る水準となり、25年まで実質的な消費水準が大きく伸びたとは言い難い。
一方、同じ期間、福岡市の住宅地平均価格は1m2あたり約11万3,000円から約18万円、商業地は約51万円から約118万円へ大きく上昇した。固定資産税・都市計画税も増加を続けている。つまり福岡市では、土地の価値とそれを基礎とする税収が増える一方、市民1人あたりの実質的な家計消費はほとんど伸びていないという異なる動きが同時に進んできた。地価上昇による固定資産税負担の増加が、必ずしもそれに見合う所得や消費能力の向上をともなっているわけではないということだ。直近についても、家計調査を福岡市の物価上昇で調整すると、2人以上世帯の実質消費支出や勤労者世帯の実質可処分所得には弱さがみられる。税収や地価の上昇と、市民の購買力の伸びとの間にはなお距離がある。
福岡市は人口増加と都市資産の集積によって税源を拡大してきた。人が増えれば個人市民税が増え、マンションやオフィスが建ち、地価が上昇すれば固定資産税・都市計画税が増える。市税収入が過去最高を更新していることは、成長都市・福岡を示す1つの数字である。しかし、市財政にとっての成長と、市民家計にとっての豊かさは必ずしも一致しない。
市税収入が35年間で倍増したという数字を評価する際には、その成長が誰の所得を増やし、誰に負担をもたらし、市民生活へどのように還元されているのかまで見る必要があるだろう。
【寺村朋輝】











