【特集】海外視察や金銭授受問題で揺れる福岡県議会・県政の構造的問題

 福岡県議会をめぐる一連の問題が全国的な関心を集めているなか、24日に蔵内勇夫議長が議員辞職する意向を表明した。本稿では蔵内氏が議員辞職の意向を示すに至るまでの動きをまとめるとともに、これまでほとんど報じられてこなかった、一連の問題が起きた背景や歴史的な経緯についても触れ、福岡県議会問題の根本に何があるのか考察する。

動議により議長職 辞職勧告決議案が中止に

 8月17日午後3時50分過ぎから福岡県議会第一議会会議室で、金銭授受問題で辞職した中尾正幸氏の後任の副議長選や、金銭授受問題に関する第三者委員会の設置、そして吉松源昭県議提出の議長職辞職勧告決議案の審議のための臨時会が開催された。当初は午前11時の開会予定だったが、数度にわたる議会運営委員会や代表者会議などを挟み、予定時刻から5時間近く遅れて開会された。

 この間、自民党県議団は会派会合を行い、一時は決議案について自主投票となる可能性もあるとの観測が出た。2期生8人が決議案に賛意を示し、吉松氏に近い井上正文県議(宗像市)は決議案への賛成討論を申し出るまで進んでいたが、中堅・ベテランからは、会派の分裂を避けたいとの声や、第三者委員会の調査を待つべきだとの意見もあった。

 決議案への対応をめぐり、自民党県議団内が揺れた背景には、都市部選出の1、2期生の県議を中心に、地元で有権者や支持者から批判を浴びてきたことがある。一方、3期生以上には蔵内氏に近い県議も多い。議会改革には賛成だが、ドラスティックな転換には慎重な声も根強くあった。

 交渉会派間でも対応が分かれ、公明党と新政会は決議案に賛成し、立憲民主党や国民民主党、社民党、無所属からなる民主県政クラブ県議団は自主投票となった。開会前には、立憲所属議員だけの会合も開かれた。

 副議長選には、自民党県議団の板橋聡県議、新政会の椛島徳博会長が立候補し、投票の結果、板橋氏が副議長に選出された。

 傍聴者やメディアの最大の関心事は、決議案の行方だった。蔵内議長が退席後、吉松県議が決議案の提案理由を述べ、採決直前に自民党県議団の林泰輔県議(朝倉市・朝倉郡)から採決中止を求める動議が出され、賛成多数で可決した。動議に賛成した県議は自民党だけでなく民主会派にもおり、現在、動議に賛成した自民、民主両会派の県議事務所などには抗議が殺到している。

蔵内氏の面子を優先した議会側の忖度

 多くの県民は、水面下の交渉で物事を決めるのではなく、議場で賛否を決することを望んでいた。議場で「ふざけるな」との声があがったのは、その表れである。

議長辞職勧告決議案の中止で会見する吉松源昭県議
議長辞職勧告決議案の中止で
会見する吉松源昭県議

    議会後、決議案を提出した吉松県議は、動議で提案を潰され、憤懣やるかたない様子で議場を出た。ロビーで報道陣の取材に応じ、「待たせたうえに採決も行わないのは県民を向いていない」と語った。一方、自民党県議団の渡辺勝将会長は、会派の分裂を避けるため、動議に賛成するよう党議拘束をかけていたことを認めた。井上氏ら若手県議も、蔵内氏の議長職辞職と引き換えに会派の方針に従う道を選んだ。

 蔵内氏は19日、九州各県議会議長会の会議出席のため訪れた長崎市で報道陣に対し、しかるべき時期に福岡県議会議長を辞職する意向を表明した。しかし、この時点では議員辞職については否定していた。だが、6月末の時点で蔵内氏は当社データ・マックスの代表に対し、議員としての進退についても語っていた。これを踏まえて7月に高市早苗首相と面会後の会見で報道陣から事実関係を問われた際には、「ネットで炎上して、日本で一番悪い男が蔵内勇夫だと言われている」として明言を避けていた。臨時会での動議を含め一連の動きを見ていると、蔵内氏の面子を守りつつ事態を収拾しようという、議会側の忖度が働いていたようにも見受けられる。

県議会問題の主要なポイント

 福岡県議会をめぐる問題の主要なポイントは、4点に集約される。
(1)正副議長ポストをめぐる金銭授受問題
(2)税金を投じた高額な海外視察
(3)知事を含めた県職員による組織的な忖度
(4)ワンヘルス事業

 (1)の金銭授受について、20年に議長に就任した吉松県議は、議長就任前に自民党県議団幹部から他会派への根回しなどを名目に2,000万円以上を要求され、支払ったことを告発した。同時期に副議長を務めた江藤秀之県議も500万円を支払ったと証言している。自民党以外の民主県政クラブ県議団に所属していた元職も、会派幹部を通じて自民党県議団幹部に金銭を支払ったことを証言したことにより、問題は自民党だけでなく野党にも飛び火している。

 (2)税金を投じた高額な海外視察では、2023年以降の23件で総額約2億6,500万円の経費が判明し、大半の事例で宿泊費の基準額超過や委託費の膨張が指摘されている。

 (3)知事を含めた県職員による組織的な忖度では、県職員の任意の親睦団体「部課長会」が県議側の政治資金パーティー券を組織的に購入していた問題や、議員への土産の贈呈、視察の際の送迎バスの見送り、県職員が県議に対して「先生」と呼ぶこと、議員の入退室時に起立してお辞儀をすることなど、枚挙にいとまがない。

 (4)ワンヘルス事業では、福岡県営筑後広域公園に約3億円を投じて整備された「ワンヘルス・カーボン・ゲート」や、舞鶴公園内に6,000万円の公費を投じた「ワンヘルスパーク」がわずか1年で赤字閉園するなど、事業の妥当性に疑問符が付いている。

 こうした問題が長年にわたりほとんど検証されることなく、当たり前のように行われてきた背景には、県政そのものが一般市民にとってやや縁遠い存在だったことがある。市町村が戸籍、住民票、ごみ収集、子育て支援、学校教育など、毎日の生活に直結する行政を担うのに対し、都道府県は広域行政を担い、複数の市町村にまたがる道路、警察、保健所、高校などを管轄するとともに、市町村との連絡調整を担う。このため、一般市民には県議会や県政で何が行われているのかが見えにくく、十分な関心をもたれてこなかった面が大きい。

昭和末期から続く自民と旧社会党系のなれ合い関係

 以前から福岡政界は「福岡三国志」と呼ばれ、中央政局との関係で注目されてきた。しかし、蔵内氏が国会議員と対等に張り合うほどの力をどこから得ているのかは、広く知られてこなかった。24年に実施された高額な海外視察問題がクローズアップされ、蔵内氏が会見で「今後も海外旅行を続けます」と発言したことや、吉松県議の証言などにより、在京・在阪メディアの関心が高まり、連日のように報道されている。ただ、それらの多くは現象面を捉え、蔵内氏個人にフォーカスしたものが多い。蔵内氏が福岡県政のドンと呼ばれ、麻生太郎氏や武田良太氏ら現職国会議員とも張り合う県議会の重鎮であることは間違いないが、福岡県政の歴史的経緯や構造的問題を踏まえず、個別事象だけを論じても県議会や県政の正常化は進まないことを指摘したい。

 福岡県議会問題の源流は、83年の知事選で九州大学教授の奥田八二氏が社会党・共産党の推薦を受けて勝利した時期まで遡る。前任・亀井光氏は、約6億円をかけた福岡県知事公舎の建設やハワイ州との姉妹縁組など、多額の公金支出が大きく問題化し、5万票差で奥田氏に敗北した。一方で、社会党の支持団体である日教組・自治労による激しい労働運動が展開され、保守勢力から偏向教育や労組のヤミ専従などが批判されていた。

 当時を知る旧社会党、労組関係者らによると、知事が革新系となった一方で、県議会は自民党が多数派を占めており、奥田氏は議会運営に苦労したという。そこで、社会党県議団長の林武彦県議と当時の自民党県議団重鎮との間で、飲食接待など水面下のやり取りが行われた。その慣習は、95年に自民党から社会党まで幅広い政党が推薦した元通産官僚・麻生渡氏が知事に就任した後も続き、96年の民主党結成により、社会党から民主党へと受け継がれた。

 本年7月末、ある会合で自治労出身の原中誠志県議が「福岡県議会の問題は長い歴史がある」と語ったが、まさに昭和末期まで遡る問題である。蔵内氏の初当選は87年の県議選だが、筑後市選挙区は1人区で、自民党・保守勢力だけでなく社会党系からも支持を受けてきた。現在、筑後市議会議長を務める弥吉治一郎氏は、県南議長会として県議会問題に関する意見書提出を主導しているが、前回選(23年)の出陣式では「私は社会党出身だが蔵内氏を応援してきた」と述べるなど、深い関係が続いてきた。

 先日の県議会臨時会では、議長職辞職勧告決議案の中止動議で民主会派の一部が同調したことについて、県民から厳しい批判を浴びている。動議に賛成した民主会派の10人のうち、会派会長・原中氏をはじめ9人が立憲民主党所属で、もう1人は副議長経験者の無所属議員だった。原中氏ら民主会派の少なくない県議は、全国メディアが報じるまでは「マスコミ報道がおかしい」「自民とはうまくやっていかないと」などと語り、真摯な反省よりも自民への忖度を優先していた。

 蔵内氏は自民のドンだが、民主会派にも影の実力者がおり、引退後も隠然たる影響力をもっているといわれる。その人物が、副議長を務めた吉村敏男氏である。吉村氏は旧穂波町(現・飯塚市)の職員を経て、99年に県議に初当選。2000年代前半、台頭しつつあった蔵内氏とともに県政に強い影響力をもつようになった。08年には副議長に就任。10年代に松本龍氏(元復興相)や助信良平氏らが引退すると、民主党県連を事実上動かすようになった。

 一説によれば、2010年前後ころから正副議長就任時の金銭授受が始まったとの指摘もあり、複数の副議長経験者が金銭を自民党幹部に支払ったと証言している。

 臨時会で民主会派が副議長候補を擁立できなかったことについて、同会派の中堅県議は当社の取材に対し、「金銭授受疑惑の解明ができておらず、会派内に強い不信感が渦巻いているからだ」と指摘した。さらに、「1年生議員のとき、研修や視察で吉村氏に焼酎や酒のつまみを買いに行かされ、反発したら先輩県議に『1年生だから当然だろ』と言われた」ことなども証言した。

 福岡県職員(労組)の退職者協議会の代議員など、自治労内部からも吉村氏らを追及する声が挙がっているが、吉村氏は当社を含めたメディア各社の取材に応じていない。

来年の県議選で審判を下すべき

吉村敏男氏と服部誠太郎知事(25年福岡県知事選)
吉村敏男氏と服部誠太郎知事(25年福岡県知事選)

    福岡県議会問題について、指摘しておきたい点もある。

 1つは、蔵内氏や自民党などへの批判報道に対し、「特定の人物だけ批判する偏向報道」(八女市議)、「政局だ」(蔵内氏)との声があるように、自民党内の勢力争いが背景にあるとの見方もある点だ。金銭授受を証言した吉松氏や江藤氏、自身も立候補時に金銭を要求されたことを語った高島宗一郎福岡市長が麻生氏に近いことは知られている。事の真偽は定かではないものの、これまで国会議員に対しても有力県議が強い影響力をもってきた福岡政界だが、県議会問題の発覚によって、その構図が大きく変化することも考えられる。

 2つ目は、議会と行政の関係である。服部誠太郎知事は、一連の問題を受け、議会との関係やワンヘルス事業の見直しに着手している。不健全な在り方の是正は歓迎できるが、一方で、蔵内氏らに忖度してきた知事自身の責任は曖昧なままである。そもそも服部氏は副知事時代から蔵内氏らと密接な関係にあり、知事選でも支援を受けてきた。改革がどこまで進むのかは未知数である。また、議会に代わって行政が強くなりすぎることで、別の弊害が生じることも懸念される。

 11月には福岡市長選、27年1月には北九州市長選、4月には福岡県議選が控えている。県議選ではすでに参政党や日本維新の会などが各地で候補者を擁立することを表明していたが、さらに23日夜に高島市長が5選不出馬を表明し、翌24日午前には蔵内氏が議員辞職の意向を表明した。県議会のみならず福岡市長選挙についても流動化する様相を呈している。来るべき選挙は有権者が意思を示すまたとない機会となることは間違いない。

【近藤将勝】

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