【特集】政治力は誰のために使われるのか 全管協に問われる業界利益とガバナンス

 前稿でみたように、全管協は全国で約2,000社を束ね、業界の要望を政治に届ける大きな力を築いてきた。だが、組織が政治力を強めるほど、その力が誰のために、どのような手法で行使されるのかを監視するガバナンスが問われる。党員獲得のノルマ、家賃の消費税非課税をめぐる内部議論の「タブー化」、政治資金や総裁選への関与、特定幹部の自社ビジネスとの関係──。全管協で浮上した問題をたどりながら、業界利益と既得権、政治参加と組織の私物化の境界を考える。

 当社の「NetIB-NEWS」は今年3月から、全管協や自民党ちんたい支部連合会における自民党員の獲得をめぐる問題を報じてきた。一連の取材を通じて浮かび上がった問題には、大きく2つの側面がある。(1)組織・ガバナンスの問題と、(2)特定の組織幹部への過度な利益誘導だ。

 (1)については、業界団体として行われてきた政治活動と自民党員勧誘の在り方をめぐり、加盟する会員企業に対して過度な党員獲得の働きかけが行われてきた実態を取り上げてきた。また、従業員や取引先、顧客などの自民党費を企業側が実質的に肩代わりしていたことは、政治資金規正法違反の可能性を含むコンプライアンス上の問題である。

 (2)は、全管協としての組織的な政治活動や事業が、高橋誠一氏という特定幹部が経営する自社ビジネスへの利益誘導につながり、組織が私物化されてきた問題である。

業界団体の弱みを利用した自民党員獲得ノルマ

 政治とのかかわりは、2004年に全管協と関わりが深い全国賃貸住宅経営者協会(ちんたい協会)の当時の会長から、会員拡大の協力要請を受けたことに始まる。高橋氏は、全管協の会員企業に物件管理を委託している家主(オーナー)にちんたい協会への加入を呼びかけ、多くのオーナーがちんたい協会に加入した。

 ちんたい協会の政治団体が全国賃貸住宅経営者政治連盟(ちんたい政連)であるが、全管協はちんたい協会・ちんたい政連とも連携・協力することを通じて、政治活動に力を入れるようになった。04年前後は、聖域なき構造改革を掲げた小泉純一郎氏が首相を務めていたが、公共事業の見直しが行われるなかで建設・不動産業界に近い議員連盟の活動が低調になり、業界団体を通じた自民党員の獲得数も減少した時期にあたる。

 『全管協30周年記念誌』には、「全管協30周年を迎えて」と題して、高橋氏が全管協の歴史と活動を回顧する内容が掲載されている。ちんたい議連(自民党賃貸住宅対策議員連盟)会長・中山太郎氏と高橋氏が会食した際、中山氏が議連へ参加する議員が少ないと発言したことを受け、高橋氏が「それでしたら、私に協力させてください。必ず日本一の議連にして見せます」と握手を交わしたとのエピソードが紹介されている。

 2013年に政界を引退した中山氏からちんたい議連の会長を引き継いだのが、石破茂前首相である。ちんたい議連は現在、自民党の衆参両院議員360人が加盟する自民党最大の議員連盟となっているが、業界団体側のカウンターパートが全管協やちんたい協会である。

 業界団体である全管協やちんたい協会が自民党を応援する目的は、業界利益の実現にある。連載でも紹介したが、賃貸住宅の家賃に消費税がかからないのは、全管協と連携したちんたい議連の取り組みが大きい。

 石破氏は、安倍政権時代に自民党幹事長として所属議員に年間千人の党員獲得ノルマを課したが、同時期、全管協に職域支部をつくることを要請し、高橋氏は石破氏の要請に応えて、自民党ちんたい支部連合会と都道府県支部を設立した。ここから多くの全管協加盟事業者への党員獲得ノルマが強化されることとなった。

 当社でインタビューした神戸学院大学教授の上脇博之氏は「小泉構造改革で自民党と業界団体の結びつきが弱くなったことで、職域党員が減少し、党員獲得のために所属議員にノルマを課したり、党費を議員事務所や団体が肩代わりして幽霊党員をつくる必要が出てきた」と指摘したが、過度なノルマ負担は、業界利益の実現を目指して政権与党と結びつく業界団体の弱みにつけ込んだ行為にほかならない。

「業界利益」そのものを議論できない組織に

 全管協が政治との関係を強めてきた目的には、賃貸住宅業界の利益を政策に反映させることがある。その代表的な政策課題の1つが、賃貸住宅の家賃に対する消費税非課税の堅持である。居住用家賃は1989年の消費税導入時には課税対象だったが、91年10月の法改正によって非課税となり、現在まで続いている。

 賃貸住宅の居住者には持ち家世帯に比べて所得の低い層が多く、家賃への消費税非課税が生活負担の軽減という社会的な意味をもつことは否定できない。一方、全管協内部では、この制度の在り方そのものについてあらためて議論すべきだとの声も上がっている。

 当社の取材に対し、ある全管協会員は、低所得者の家賃について非課税を維持することには賛成しながら、高額な賃貸住宅まで一律に非課税とする必要があるのかと疑問を呈した。別の会員企業代表者からも、非課税政策が家主(オーナー)にどのような影響を与えているのかを明確にしたうえで議論すべきだとの意見が出ている。

 問題は、こうした政策論の結論以上に、全管協内部で消費税について議論すること自体が「タブー」になっているとの証言が複数の会員から出ていることである。会合で家賃非課税がオーナーに与える影響を検証すべきだとの趣旨の意見を述べた人物に対し、高橋誠一氏が強く反発したとの証言や、高額家賃への課税を提案した際に、提案したこと自体を叱責されたとの証言もある。そのため、高額家賃まで非課税とする必要があるのかについて、全管協内部では十分な議論が行われてこなかったという。

 業界団体が業界の利益を守ることは、その重要な役割である。しかし、一度獲得した政策上の利益について、社会情勢の変化や公益の観点から見直すべきかどうかを内部で議論することまで封じられるとすれば、問題は別である。業界利益の追求が、既得権を守ること自体へと変質していないかを問う必要がある。

 自民党員を増やして政治力を高めることだけでなく、その政治力によって何を実現しようとしているのかについても、会員が自由に議論できなければならない。家賃の消費税非課税をめぐる問題は、全管協に問われているのが政治活動の手法だけではなく、組織内部の意思決定やガバナンスそのものであることを示している。

政治資金提供と総裁選を含む選挙支援

 業界団体と自民党の関係の問題点として、第一に、石破政権時代に衆参両院で少数与党に転落する原因となった「政治とカネ」の問題が挙げられる。

 自民党派閥が行った政治資金パーティーの売上を政治資金収支報告書に記載しなかった問題で、安倍派(清和政策研究会)や二階派(志帥会)が東京地検の捜査を受け、岸田文雄首相自身が会長を務める岸田派(宏池会)を解散すると宣言した。企業・団体献金の禁止が国会で論議となったが、石破氏は首相在任中、企業・団体献金の必要性に最後までこだわった。

 石破氏の政治団体には、資金管理団体「石破茂政経懇話会」と「自民党鳥取県第1選挙区支部」があるが、「石破茂政経懇話会」の収支報告書を確認すると、石破氏が開いた政治資金パーティーのパーティー券購入者のなかに、全国賃貸管理ビジネス協会の名前があり、全管協は22年と23年に、それぞれ50万円分を購入している。

 全管協以外にも製薬産業政治連盟などが多額のパーティー券を購入しているが、野党などから「形を変えた企業・団体献金」との指摘もある。

 第二に、総裁選を含めた選挙支援がある。本誌や『週刊ポスト』が報じたように、過去の自民党総裁選において、全管協やその職域支部が持つ党員票は非常に重要な意味をもつ。石破氏は5度目の総裁選挑戦となった、24年9月の自民党総裁選の決選投票で高市早苗氏(現・首相、総裁)を破ったが、このときの総裁選で、茂木敏充・現外相が、全管協名誉会長であり、自民党ちんたい支部連合会会長を務める高橋誠一氏に、東京都内のある高級飲食店で、総裁選で全管協がもつ自民党員票の一部を自身に回してほしいと依頼していた事実が明らかになっている。

 全管協が石破氏や、全管協顧問の和泉洋人元首相補佐官に近い小泉氏を応援するのは、これまでの経緯から当然だが、熊本など一部の都道府県に茂木氏を応援するよう指示が出され、一部で疑問の声も上がった。結果として9人の候補者のなかで茂木氏は6位であったものの、得票数の底上げにつながっている。

 全管協の選挙支援は総裁選にとどまらない。自民党ちんたい支部が設立された14年には、高橋氏自ら1万2,366人の党員名簿を石破氏に提出しており、全管協は前述の通り、党員獲得に苦労している自民党にとってありがたい存在となっている。当社が入手した全管協の内部資料によると、16年の参院選で組織内候補として中西哲・阿達雅志両氏を擁立して当選させるなど、国政選挙でも大きな力を発揮している。

台上左から石破茂氏、高橋誠一氏、三好修氏 全国賃貸管理ビジネス協会シンポジウム2023交流会にて
台上左から石破茂氏、高橋誠一氏、三好修氏
全国賃貸管理ビジネス協会シンポジウム2023交流会にて

福岡県議会問題と全管協問題の類似性

 全管協をめぐる一連の問題を考えるうえで興味深いのが、現在問題となっている福岡県議会との類似性である。福岡県議会には「県政のドン」と呼ばれた蔵内勇夫氏がおり、全管協では、高橋誠一氏が1999年から2023年まで24年間にわたって会長を務め、退任後も名誉会長を務めている。蔵内氏と高橋氏が権勢を強めた時期も、2000年代初頭とほぼ同時期という共通点がある。

 福岡県議会問題の詳細は、当社の連載記事で詳しく報じているので参照いただきたいが、県議会の海外視察に関して、直近の3年間で23回、総額約2億6,500万円に上る海外視察費用が支出されたことが分かっている。フランスでは1泊17万円前後のホテル利用など、県の宿泊費などの基準を超える高額な支出となっており、そうした海外視察を主導したのは、8月25日に議員辞職した蔵内勇夫前県議会議長らであった。

 議会だけでなく、服部誠太郎知事の就任後5年間(21年4月以降)の海外活動23件の総額は約3億3,700万円に上ることも報告されており、行政・議会ぐるみで県民の血税を浪費してきたことになる。

 金額や問題の内容こそ異なるが、長期にわたる権力集中のもとで組織内部のチェック機能が十分に働かず、問題のある組織運営が続いてきたという点では、福岡県議会と全管協には共通する構造があるといえるだろう。なお、全管協でも毎年ハワイなどで開催している理事会の高額な費用支出が指摘されており、今後報じる予定である。

 全管協加盟企業の有志でつくる「全管協をよくする会」のメンバーの1人は、当社の取材に「福岡県議会と全管協の問題は非常に似ている。当初は知事も議長も第三者委員会の設置に消極的だった」と述べ、「全管協本部は、そもそも自民党員問題の調査にも消極的だが、我々は日弁連のガイドラインに基づいた第三者委員会を設置し、調査・検証を行うべきと主張してきた」としたうえで、「第三者委員会設置に必要な費用は『よくする会』で負担してもいい」と主張している。

問われるのは政治活動ではなくその手法とガバナンス

 いうまでもないが、業界団体が政治団体をつくり、選挙運動を含めて政府・与党に働きかけること自体は違法でも何でもない。

 日本医師会が医師連盟をつくっているように、あらゆる業種・業界が政治団体を通じてロビー活動を行い、政策に反映させていくことは、民主主義にとって不可欠といってよい。問題は、その活動が法令や社会的規範に則って行われているのかどうかである。

 「NetIB-NEWS」で報じてきた自民党員の不適切な獲得や、高橋氏が代表取締役会長兼社長を務めるALINインターナショナル(株)のごみ処理プラントなどについて、全管協としての要望活動の場で複数の政権幹部に商品説明や営業を行っていた事実を踏まえれば、賃貸業界の健全な発展という目的を超え、明治以来築かれてきた政官業の癒着構造に乗じて団体を私物化しているとの批判を免れないだろう。

 全管協を正常化させるべく有志で結成された「全管協をよくする会」が主張しているように、第三者委員会を速やかに立ち上げて調査・検証を行い、改善措置を講じるべきである。

【近藤将勝】

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