【鮫島タイムス別館(51)】麻生支配は続くのか 高市人事に映る継続と世代交代

 麻生支配からの脱却か、それとも継続か──。9月の内閣改造・自民党役員人事の最大の焦点はそこだった。高市早苗首相は早々に麻生太郎副総裁とその義理の弟である鈴木俊一幹事長の留任を決め、当初は麻生支配の継続を受け入れたかに見えた。

 麻生氏は茂木敏充外相や小林鷹之政調会長、萩生田光一幹事長代行ら政権骨格の維持を求め、高市首相はこれに従った。この結果、主要ポストをめぐって事前に「留任報道」が相次ぎ、内閣改造への期待値は大幅に下がることになったのだ。

 麻生氏は昨年10月に誕生した高市政権の「生みの親」だ。麻生氏が総裁選で高市支持に回らなければ、高市氏の逆転勝利はあり得なかった。麻生氏は高市首相から人事権を取り上げ、新体制の布陣を思うように固めた。

麻生氏に譲歩しつつ、人事権を一部奪還

 高市首相はその後、麻生支配からの脱却を目指した。今年1月には麻生氏に無断で衆院解散を決断。選挙公約には麻生氏が反対する消費税減税をねじ込み、戦後最多316議席を獲得して圧勝した後は、麻生氏を副総裁から外して衆院議長に祭り上げる人事を画策した。

 しかし麻生氏はこれを拒否し、副総裁に居座った。総理とキングメーカーの関係は冷え込み、まるで「仮面夫婦」のようになった。高市官邸の「醜態」が次々リークされ、政権は極めて不安定な状態に陥ったのである。

 麻生氏は畳み掛けるように自らを中心とする議員連盟「国力研究会」を立ち上げ、麻生中心の挙党体制を確立。来年秋の総裁選に向け、高市再選のカギを握る立場を固めた。

 高市首相は追い込まれ、麻生支配からの脱却をあきらめた。いや、正確には「先送りした」と言ったほうが良いだろう。この9月の人事では麻生氏や鈴木氏を留任させ、当面は麻生氏に恭順の意を示すことにしたのだ。

 麻生氏を一気に切り捨てるのであれば、麻生氏の政敵である武田良太氏を幹事長に起用し、年内解散・総選挙に踏み切る強硬手段もあり得た。中道改革連合は分裂し、野党はさらに細分化の様相を強めている。改めて減税を掲げて1年に二度目の解散総選挙を断行するという勝負手で「麻生切り」を仕掛ければ、高市首相に勝機は十分にあった。

 しかし高市首相はその道を選ばなかった。麻生氏から支持を取り付け、来年秋の総裁選を乗り切るという「無難な道」を選択したのである。

 ただ、麻生氏に全面降伏したわけではなかった。今回は骨格人事を除いて一定の「人事権」を獲得した。ここが昨年10月との違いだった。

 麻生氏の脳裏には、高市首相を追い詰めすぎたら「逆ギレ」するかもしれないという不安がよぎったのだろう。万が一にも「麻生切り」を断行され、武田氏を幹事長に起用し解散総選挙になだれこむという悪夢だけは避けたかったに違いない。

石井・林両氏の更迭が生んだ総裁選のねじれ

 高市首相が「許される範囲」で仕掛けたのは、高市氏が嫌っていた2人の「更迭」だった。国会運営をめぐって対立していた参院自民党の石井準一幹事長と、総裁選のライバルである林芳正総務相だ。

 参院人事は首相が手を出せない「聖域」とされてきた。高市首相は、表向きは「参院人事は権限外」と言いつつ、裏では松山政司参院議員会長に石井更迭を迫った。麻生氏はこの人事に難色を示し、石井氏の後任に麻生派の有村治子総務会長を起用することに反対したと報道されている。

 しかし、高市首相が石井氏を敵に回し、来年秋の総裁選で窮地に立つことは麻生氏にとって悪い話ではない。高市首相の総裁再選に麻生氏の支持がますます欠かせなくなるからだ。

 同じことは、林氏にもあてはまる。高市首相は総裁選の無投票再選を目指し、小泉進次郎防衛相や小林政調会長、茂木外相を取り込んだ。それならば林氏も取り込まなければ意味がない。

 麻生氏は逆に高市首相の無投票再選は絶対に避けねばならない。総裁選は麻生派の「数の力」を見せつける最高の場面だ。無投票になったら、派閥を維持してきた意味がない。林氏を閣外へ追い出し、総裁選出馬に追い込むのが麻生氏の戦略だった。

 高市首相が嫌う石井氏と林氏の「更迭」は、総裁選の無投票再選戦略と矛盾するチグハグな人事としか言いようがない。麻生氏から一定の人事権を取り返したことが裏目に出たといえるだろう。

次世代抜擢が揺さぶる長老支配

 一方、「骨格」以外の内閣改造では、高市首相の「好き嫌い」人事は思わぬ効果を生んだ。従来の派閥推薦型人事を取りやめ、当選2回以上の衆院議員を対象に実施した「人事希望アンケート」を理由に、党内の各勢力から「自分のお気に入り」を次々に入閣させたのである。

 初入閣組は、旧安倍派から簗和生農水相(47)と関芳弘文科相(61)、麻生派から井林辰憲国交相(50)、旧茂木派から笹川博義環境相(60)、菅義偉グループから藤井比早之総務相(55)ら。いずれも当選6〜7回の初入閣待機組だ。高学歴で官僚OBなどキャリアは十分なのに、派閥幹部に押さえ込まれて表舞台に立てず、鬱積していた次世代のホープたちを次々に一本釣りしたのである。

 極め付きは、野党から自民党に移った細野豪志復興相(55)と、入閣未経験の村井英樹国対委員長(46)の抜擢だ。とくに細野氏は閣議で高市総理の右隣に座る異例の厚遇ぶり。184㎝の細野氏は新閣僚の記念撮影でも高市首相から隣に招き寄せられ「目玉なき内閣改造」の唯一の目玉となった。

 今回の人事への期待値が下がっていた分、細野氏起用は世間の注目を独占し、麻生支配の継続を打ち消す効果を生んだといえよう。

 高市首相が麻生氏から「許された範囲」で断行した次世代の抜擢は、麻生氏の予想を超え、日本政界に世代交代の波を引き起こす可能性がある。内閣改造直後の9月20日に麻生氏が86歳の誕生日を迎えたのも「長老支配」の現実を浮かび上がらせることになった。

 麻生氏が牛耳る党執行部に留任した萩生田幹事長代行(63)や西村康稔選対委員長(63)らは高市首相の「次世代登用」に不信感を強め、今後は麻生氏寄りの姿勢を強めるかもしれない。更迭された林氏と石井氏は「アンチ高市・アンチ麻生」の結集に動くだろう。

 高市首相の次世代のホープたち、麻生氏と党・派閥の実力者たち、そして林氏と石井氏の非主流派連合──。来年の自民党総裁選にむけ、この三つ巴の主導権争いが始まる。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。

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