【鮫島タイムス別館(52)】麻生太郎氏vs武田良太氏、高市政権をめぐる主導権争いの行方

農水相更迭で浮かび上がった「麻生支配」への反発

 高市政権は今、福岡政界の覇権を争う麻生太郎氏と武田良太氏の激しい主導権争いの渦中にある。9月の内閣改造、そして10月の農水相交代劇で、その実像がくっきり浮かんできた。

 高市早苗首相が9月の内閣改造で一本釣りした簗和生農水相は、わずか1カ月で辞任に追い込まれた。自らの票が伸びなかった地元の自治体の道路予算をカットしたという選挙後の発言に批判が殺到。高市内閣の閣僚として「更迭第一号」になった。

 簗氏は2月の衆院選栃木3区で敗れ、比例復活していた。高市旋風が吹き荒れ、自民党が全国289選挙区のうち249選挙区で議席を得たのに、彼は勝てなかった。しかも旧安倍派の裏金問題で処分されていた。

 にもかかわらず、高市首相は「私の大事な簗ちゃん」を初入閣させ、党内から不評を買っていた。そこで発覚した「道路予算カット発言」。野党はただちに辞任を迫ったが、それに劣らず自民党内にも簗氏を擁護する動きは皆無だった。高市人事への不満が党内に充満していたのである。

 とりわけ旧安倍派の親分格である萩生田光一幹事長代行の怒りはすさまじかった。派閥推薦ではなく首相の一本釣りで比例復活組の簗氏が裏金議員として初入閣を果たしたことは、旧安倍派内の秩序を乱す人事だった。そこで飛び出したスキャンダルに「それ見たことか」という冷ややかな空気が党内を覆った。

 高市首相もさすがにかばいきれなくなったのだろう。ここで後任人事をどうするのか。高市首相にとっては政権運営の分かれ目だった。

 キングメーカーの麻生副総裁が率いる麻生派から起用し、党内の不満を抑え込む手もあった。来年秋の総裁再選を目指し、政局の安定を優先させるのなら、それが得策であった。

 けれども、高市首相は麻生氏への平伏を選ばなかった。それどころか、麻生氏の宿敵である武田氏のグループから武部新氏を抜擢した。まさに麻生氏にケンカを売る人事だった。

麻生氏が握る政権の骨格、首相は武田グループを重用

 9月の内閣改造・党役員人事は、麻生ペースで進んだ。高市首相は来年の総裁選を見越して麻生氏を切れず、麻生氏の義弟である鈴木俊一幹事長とともに留任させる人事を真っ先に決めた。麻生氏は腹心の茂木敏充外相や旧二階派ながら武田グループには加わらず麻生氏との連携を強めてきた小林鷹之政調会長ら「政権の骨格」の留任を求めた。高市首相は従うしかなかった。

 ただ、麻生氏がすべてを取り仕切った昨年秋の高市政権最初の人事と違って、今回は「骨格以外の人事」は高市首相がフリーハンドを得た。麻生氏としても、2月の衆院選で圧勝した高市首相からすべての人事権を取り上げるわけにはいかなかった。強引に押さえ込めば、高市首相が反発して再び解散総選挙に打って出るかもしれない。それだけは避けたかったに違いない。

 高市首相は党内で希望アンケートを実施し、それを口実に簗氏ら「お気に入り」を次々に一本釣りした。なかでも野党から自民党に移ってきた細野豪志復興相の抜擢は世間の耳目を集め、唯一の目玉人事となった。

 細野氏は二階俊博元幹事長を頼って自民党入りし、旧二階派に所属していた。二階氏の引退後は旧二階派を受け継いだ武田グループに所属したが、武田氏との関係が近いわけではない。細野氏抜擢は武田グループの優遇人事というよりも高市首相の「お気に入り」枠だと受け止められた。むしろ武田グループを分断するための引き抜き工作との見方さえあった。

 しかし細野氏に続いて武部氏が簗氏後任に起用されたことで、わずか20人程度の武田グループが閣僚18枠のうち2枠を占めることになり、高市首相による「武田グループの重用」が決定的になった。さすがに麻生氏は不快感を抱いたに違いない。高市首相が麻生支配を受け入れるつもりがないことがはっきりしたのである。

高市首相の無投票再選が麻生氏の権力を奪う?

 武田氏は落選中の今年正月、高市首相が引っ越したばかりの公邸に中華おせちと彼女の好物である豚まんを贈り、接近を図っていた。40人を超える旧二階派を受け継いだものの、小林氏ら約半数が離反し、武田グループは20人程度の再出発となった。9月の人事で冷遇されれば求心力を維持するのは難しくなる。安倍政権に徹底的に干し上げられて解散に追い込まれた旧石破派の二の舞になる恐れがあった。

 キングメーカーの麻生氏との関係修復は今さら不可能だ。高市首相との対立だけは避けねばならなかった。細野氏と武部氏の「一本釣り入閣」で武田グループの求心力を維持し、安堵したことだろう。

 次の焦点は、来年秋の総裁選である。武田氏は、高市内閣から追い出された林芳正氏と「反麻生」の立場で連携してきた。林氏は来年秋の総裁選出馬に向けて地方行脚を続けている。石破茂前首相や森山裕前幹事長ら「反麻生・反高市」勢力は林氏を担ぐ方針だ。

 そこで武田氏の動向が焦点となる。石破氏らとともに林陣営に加われば高市首相を敵に回すことになる。せっかく2人の閣僚を輩出したのだから、林陣営に加わって敗れ、非主流派に転落するのは避けたいに違いない。

 逆に武田氏が林氏を説得して出馬を見送れば、高市首相の無投票再選の流れができる。そこで一番困るのは、麻生氏だ。彼がキングメーカーとして権勢を誇っているのは、唯一の派閥・麻生派の60票を総裁選で自由に操れるからにほかならない。総裁選が無投票になれば派閥の力を見せつける機会がなく、その後の人事でキングメーカーの座を守れる保証はない。

 つまり、武田氏が永田町で麻生氏から実権を奪う切り札は、林氏の出馬を押さえ込み、高市首相の無投票再選の功労者となることである。その結果として高市首相が「麻生支配からの脱却」を勝ち取ることができれば、次期幹事長候補に武田氏が浮上してくるだろう。

 林氏が出馬するか、しないのか──。麻生氏と武田氏の主導権争いのカギを握るのは、林氏の動向である。

【ジャーナリスト/鮫島浩】


<プロフィール>
鮫島浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。

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