議員定数削減についての考え方

政治経済学者 植草一秀

 臨時国会での重要議題は二つ。消費税減税と議員定数削減。筋悪の二つの提案が示されている。減税は方向として正しいがやり方が間違っている。

 国会論戦では減税を否定する論が拡散されているが野党の見当違いが甚だしい。減税が間違っているのではない。減税のやり方が間違っているのだ。ところが、減税財源がないなどという与太話で、減税そのものを否定する論がまき散らされている。

 飲食料品に限って2年限りで税率を1%に変更。1%の消費税分を一部の国民に現金給付。農林水産事業者に消費税減税で収入が減る分の穴埋めを現金給付で行う。しかし、誰が現金給付の対象になるのかが不明。

 文字通りカオス全開の政策運営。これを批判するのが正道。ところが、野党が減税そのものを批判。野党も財務省の掌の上で転がされているだけだ。税制の基本が「簡素、公平、中立」と言ってきたのは政府自身である。高市内閣提案は「簡素、公平、中立」の真逆政策。これを批判すべきだ。

 消費税の税率を5%に引き下げる。税率は一本化する。インボイスは廃止。簡素にすべきだ。飲食料品の消費税率について内食と中食が1%で、外食が8%は人々の経済行動を改変する効果を発揮する。「中立」の原則を破壊する。品目で税率に差を付けない。これが「中立」を守るということ。たった2年で税率を元に戻すなどは混乱の人工組成に他ならない。消費税率を5%に一本化することを恒久措置として実施すればよいだけだ。巨大な自然増収が発生しており、恒久的な消費税率5%は自然増収を財源に実施できる。

 議員定数については、そもそも定数削減をする理由がない。人口当たりの国会議員数で日本はOECD38ヵ国中の36位。人口当たり議員定数はOECDのなかで最少に近い。

 突出して高いのが議員報酬。国会議員一人当たりの年収は歳費、期末手当、立法事務費、調査研究広報滞在費だけで約5,000万円。給与所得者5,000万人の年収中央値は約400万円。減らすべきは議員定数でなく議員報酬だ。

 2月総選挙で自民は316議席を獲得した。議席総数は465で自民単独で68%を占有した。比例代表の候補が足りず、14議席が他党に流れた。この取りこぼしがなければ自民獲得議席は330。全体の71%に達した。

 しかし、比例代表選挙での自民得票率は37%だった。投票した有権者の37%しか自民に投票していない。465議席の37%は171議席。民意を正確に反映する選挙制度というのは自民が171議席を獲得する制度である。議員定数削減を比例定数削減で実施するというのは論外。論外の制度変更を許して良いわけがない。

 日本国憲法前文は「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、」の書き出しで始まる。代表者の選出を「正当な選挙」で行うことは憲法の定め。「正当な選挙」とは民意を議会の議席配分に正確に反映する選挙である。

 「政党政治」が行われている以上、主権者がどの政党に所属する候補者を代表者にしたいのかを正確に反映する選挙制度にすることが何よりも重要だ。この要請を満たす選挙制度は、全議席を比例代表選挙で決定するものである。

 2月総選挙結果について「仮定計算」した。各政党の獲得議席数が比例代表選挙の得票率によって決定されたらどうなるかを示した。

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(注)今回(*)は比例獲得議席の他党への「お流れ」がなかった場合の獲得議席数

 現実の自民議席は議席の他党へのお流れがなければ330議席だったが、比例代表の得票率に準拠すると171議席に変わる。共産、社民、れいわの獲得議席は「お流れ」がなければ3党合計で4議席にとどまったが、比例代表の得票率に準拠すると3党合計で40議席になる。なんと、議席数は10倍に増加する。

 自民が37%の得票率で71%の議席占有率を獲得した主因は「小選挙区マジック」。小選挙区制では当選者が一人しか出ない。与党が候補者を1人に絞り、野党が多数の候補を乱立すると与党候補が圧倒的に有利になる。この「小選挙区マジック」で自民議席が激増しただけだ。

 選挙に行った有権者の37%しか自民に投票していない。全有権者を分母にすると自民得票率は20%。全有権者の5人に1人しか自民に投票していない。その自民が衆院議席総数の71%を占有するのはどう考えてもおかしい。

 他党の候補者に投票した有権者の「清き一票」の大半が「死票」=「意味のない一票」になっているということ。この状況で誕生した国会議員を、「正当に選挙された代表者」と呼ぶことはできない。したがって、万が一、議員定数を削減することになるなら、削減の対象は比例定数でなく、選挙区議員定数でなければならない。

 本来は、全議席を比例代表選挙で選出する方式に選挙制度を抜本改革するべきだ。全議席を比例代表選挙で選出する場合、全国比例にするか、地域ブロック制にするかとの選択の問題が生じる。

 全国比例のメリットは死票を最小限にすることができること。しかし、選挙区が広大になるという難点がある。ただし、インターネットの普及によって、この難点は克服できるかもしれない。いずれにせよ、全議席を比例代表選挙で選出することが「正当な選挙」に該当する唯一の解法であると言える。

 一つだけ問題点がある。それは当選者の決定を政党が提出する名簿の順位に基づいて行うと、この人を国会議員にしたくないという主権者の声がかき消されること。この政党に国政を委ねたいが、この候補者には委ねたくないという状況が生じる場合に大きな問題になる。これを解消するために、投票を個人名で行い、当選者を個人名での得票順で決定することにすればよい。この方式を取れば、主権者が望まない候補者は議員になることがなくなる。

 選挙制度は代議制民主主義の根幹を成す。現行制度は民意とかけ離れた議会の議席配分をもたらしている。比例定数削減はこの歪みをさらに拡大させる効果を発揮するから絶対に認められない。歪んだ現行制度をさらに歪ませる選挙制度改変を絶対に許してはならない。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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