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2016年05月20日 07:01

20年前に「パナマ文書」の世界を予見!(3)

立教大学 経済学部 教授 櫻井 公人 氏

遥かに上回る大きな経済危機生み出していくことになる

 ――先生は、世界経済の転機「国家の退場」はいつ頃からとお考えですか。そのときには、すでに現在の「パナマ文書」のような世界が来ることは予測できていたことになりますね。

 櫻井 ストレンジも書いていますが、世界経済の転機「国家の退場」が起こるのは、国家が経済に対するコントロールを手放した1980年代頃からです。私は、それは主に「金融自由化」政策であり、その根底にある経済理念は「新自由主義」だと考えています。

立教大学 経済学部 教授 櫻井 公人 氏<

立教大学 経済学部 教授 櫻井 公人 氏

 その理由は2つあります。1つ目は、70年代に起きた世界的「金融危機」への対処の失敗です。
 この世界的金融危機は、国家主導の型にはまった、経済政策・金融政策が原因で招いたとされ、「『規制緩和』や『自由化』という名目で、金融を自由化して、マーケットに任せて、余計な介入はしない」ということを、先進国を中心に、世界各国首脳で政策決定しました。この経済政策・金融政策はその後、何度か小さな成功を収めることになります。

 しかし、さらにそれを遥かに上回る大きな経済危機「国家の制御する範囲を超えたマネーの暴走」を生み出していくことになるのです。すなわち、経済そのものがカジノ化してしまい、実態経済と大きく遊離していくことになりました。
 その結果、国家で、マネーのコントロールができなくなり、金融化よって「犬のしっぽ(=金融・投資活動)が、犬の頭・胴体(=実態経済)を振り回す」状態が生じたのです。

 もう1つの理由は、90年前後に起きた国際政治状況の変化です。すなわち、「冷戦の終結」およびソ連を中心とする「共産主義体制の崩壊」です。
 それまでは、市場、世界経済は、自由主義陣営、共産主義陣営と2つに分かれていました。しかし、冷戦が終結し共産主義体制が崩壊することによって、グローバリゼーションが進み、市場、世界経済が1つに収斂されていきました。

アメリカのヘゲモニーが衰退することを前提に議論した

 私の専門分野の1つでもある「国際政治経済学」の研究も、この90年代を境に大きく変化しました。
 70~80年代の国際政治経済学のテーマは、「ヘゲモニー」(覇権)に関するものでした。当時、勢いがあったのは日本で、アメリカと中国は大国でしたが、沈んで、目立たず、勢いはありませんでした。アメリカは日本に追い越されるのではという、危機感さえ抱いていました。そこでのテーマは、「ヘゲモニーの交替があるのかどうか」「ヘゲモニーをアメリカが失ったとしても、世界経済の運営はうまくやって行けるのかどうか」「各国共同で世界経済を運営していく方法はあるのかどうか」などでした。
 つまり、アメリカのヘゲモニーが衰退することを前提に議論していたのです(このとき、「実はそうではない」と主張していた少数派が、ストレンジやJ.ナイでした)。

 ところが、これが80年代末から90年代に入ると、「冷戦の終結」およびソ連を中心とする「共産主義体制の崩壊」で、国際政治経済学のテーマがガラッと変化します。90年代の初頭まで、アメリカの国際政治経済学を学ぶ学生の必須参考書は、ポール・ケネディの『大国の興亡』でした。この本では、1500年から1980年代までの大国の政治的・経済的台頭、およびその衰退の理由を探求しています。「国力(とくに軍事力)は経済力による支えが必要である」ということや「アメリカがオーバーストレッチすると、帝国の管理が行き届かなくなり、スペイン、オランダ、イギリスのように衰退していく可能性がある」ことが論じられています。

「冷戦」が終結して、ソ連中心の共産主義体制の崩壊した

 それが、90年代初頭以降は、「冷戦の終結」「共産主義体制の崩壊」、そして「金融の自由化」など一連のできごとが重なり、一気にグローバリゼーションが加速していくことになります。そして、これをアメリカ経済と中国経済がリードしていくことになりました。
 その結果、国際政治経済学のテーマも大きく変わりました。グローバリゼーションの流れに乗った新興国(BRICSなど)やグローバリゼーションの帰結としての金融危機などが、国際政治経済学上のテーマとして浮上してくるのです。

 冷戦の終結は、アメリカの一極的世界を生む一方で、「敵」であるソ連の消滅によって、移民、多文化主義をめぐる国内の分裂状況、民主主義理念の多義性も暴露されていくことになります。経済面では、旧社会主義経済の市場経済への包摂拡大は、市場経済の普遍化への方向性を示す一方で、将来的に各国間の相違、すなわち市場経済の在り方が浮き彫りにされていくことになります。

世界の主要中央銀行間で合意された規制構造の裂け目で

 ――『国家の退場』では、その領土的側面はどのように捉えられているのですか。

 櫻井 国民国家の領土的限界は、もはやその政治的権威が経済や社会に対しておよぼす範囲や限界とは一致しなくなっています。ある国家の権威の領土的限界は、地図上に描かれた境界線を超えて散逸してしまっています。たとえば、安全保障に対する構造的パワーは、これらの国境線内で、国家の政治的権威によって今でも行使されているものもありますが、すべてが国家の権威によって提供されるわけでも、脅かされるわけでもありません。

 これは国際政治経済における金融構造においてはもっと当てはまります。ストレンジも「イギリスの銀行で働くやり手のトレーダーが、シンガポールで裁定取引を十分に監督されていなかったせいで、ベアリング社を倒産させた」例や、「ニューヨークの大和銀行に勤める日本人トレーダーも10億ドルを超える損失を計上することができ、同行のアメリカ法人を閉鎖に追い込んだ」例を挙げています。そして、これらのできごとは皆、70~80年代に、世界の主要中央銀行間で合意された規制構造の裂け目で起こっているのです。
 その後にBIS規制(バーゼル合意)など、グローバル金融規制の動きも出てきますが、これらがむしろ、日本の金融危機を深刻化させ、リーマン・ショックの要因になった面さえあります。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
sakurai_pr櫻井 公人(さくらい・きみひと)
立教大学経済研究所長、立教大学経済学部経済政策学科教授
静岡県生まれ。81年京都大学経済学部卒業、87年同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。阪南大学教授を経て現職。主な論文・著書に「P.クルグマンの戦略的貿易政策批判」(『阪南論集 社会科学編』第30巻第3号)、『グローバル化の政治経済学』(共編著、晃洋書房)、『現代世界経済を捉えるver.5』(共編著、東洋経済新報社)、『現代国際金融 第3版』(共編著、法律文化社)、訳書として、『マッドマネー』(共訳書、岩波書店)、『国家の退場』(共訳著、岩波書店)、『新版グローバリゼ―ション』(共訳著、岩波書店)などがある。

 
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