日本を切り捨て、インドやベトナムを優先するトランプ大統領の関税交渉

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、7月4日付の記事を紹介する。

アメ車 イメージ    トランプ大統領による「関税砲」が鳴り響いていますが、その真意は国家破綻になりかねない程膨らむ一方の「貿易赤字をいかにゼロにするか」の一点に見出せそうです。こうした貿易赤字がアメリカ国民の生活を圧迫しているため、トランプ大統領は世界各国と関税交渉を展開することで、自らの戦略の重要性と効果のほどを内外に示したいと考えているものと思われます。

 しかしながら、アメリカ国民の受け止め方は日に日に悪化しており、国内の物価高やインフレをもたらしかねない関税措置を支持するアメリカ国民は減少の一途です。そのため、トランプ大統領は早急に各国と合意を勝ち取り、金融市場や企業、国民に対して自らの政策の正当性をアピールする必要に迫られているに違いありません。有権者のトランプ離れは顕著で、支持率も30%台に落ち込んでいます。

 アメリカの貿易赤字は2024年で1兆2,129億ドルと過去最大を記録しており、国・地域別で赤字額を見れば、日本は684億ドルで、中国、EU、メキシコ、ベトナムなどに次ぎ、7番目です。外務省は「ASEANはじめ東南アジア諸国とも協調し、彼らも味方に付けて対米交渉に臨むべき」との意見具申を石破茂首相に届けているようですが、同首相からは色よい返事はないとのこと。

 石破首相は「日本はアジア諸国とは違う」という考えで、かつて安倍首相がアジア重視の姿勢で第一次トランプ政権がTPPを離脱した際、アジア諸国を率いてアメリカの方針を変えさせようとしたことへの反発がいまだ石破首相の脳裏に宿っているものと推察されます。

 いずれにせよ、アメリカが直面する貿易赤字の要因で大きいのが日本からの自動車輸出に他なりません。日本からアメリカへの輸出額のうち、最も大きいのが自動車で6兆264億円と全体の28%を占めています。一方、アメリカから日本が輸入した自動車の金額は全体の1%に過ぎません。トランプ大統領は「こうした不均衡は容認できない」とし、「関税によって是正したい」と目論んでいるわけです。

 当初、「日本は与しやすし」と考えていたため、トランプ大統領は赤沢大臣ともホワイトハウスで面談するなど破格の待遇を示しました。しかし、その後、7回もワシントンを訪問した赤沢大臣と米側の交渉は一向に進展を見せません。トランプ大統領に言わせれば「日本は甘やかされてきた。日本との合意は非常に困難だ。コメ不足と言いながら、アメリカのコメを輸入しない。アメリカの自動車も受け入れない。こうなれば、日本からの輸入品には30から35%の関税を課すしかないだろう」と、日本への不信感を露にするばかりです。

 「はったり(ブラフ)」を得意技としてきたトランプ大統領のいつものパターンかも知れませんが、自分の言う通りにならない日本には見切りを付けると示唆し、最初に合意した英国に次いで、今や「インドやベトナムとの交渉が間もなくまとまる」と豪語し始める有様です。「英国の次は日本だ」と高をくくっていたトランプ大統領は、思うようにならない日本に嫌気がさしているとしか思えません。

 しかし、それは自業自得に他なりません。トランプ大統領の自分勝手な交渉スタイルでは、日本以外の国々との交渉も思うようには進展しないでしょう。そもそもトランプ大統領の発言はウソが散りばめられています。実は、日本はアメリカ産のコメを昨年だけで2億9,800万ドル分も輸入しているのです。今年に入ってからも1月から4月までの間に1億1,400万ドル分のコメを買い付けています。

 また、自動車についても同様のことが言えるのです。トランプ大統領は「過去10年間、日本はアメリカから自動車を1台も輸入していない」と叫んでいますが、真っ赤なウソでしかありません。昨年だけで、日本は1万6,707台のアメリカ車を輸入しているではありませんか。もちろん、アメリカで売れている日本車の数とは比較になりません。とはいえ、これはアメリカの消費者が日本車を評価しているからです。日本の道路事情や消費者の要望を聞かずに「アメ車を買え」というのは傲慢でしかありません。

 残念ながら、トランプ大統領の身勝手な関税政策の結果、アメリカの国際競争力は低下する一方です。日本製鉄はUSスチールを買収し、日米鉄鋼同盟を模索する意向を示していますが、トランプ大統領が拒否権を発動できる「黄金株」を持っている限り、USスチールに真の再生は期待できそうにありません。


著者:浜田和幸
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