2024年04月26日( 金 )

広告を利用しマスコミに圧力!?~語られる「闇」は電通の真の姿か(前)

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 国内最大手の広告代理店である(株)電通。その名前はパナマ文書にも掲載されているとされ、東京五輪招致の裏金疑惑にも関わっていたことが明らかになった。しかし、これらをメディアが表立って報じないため、ネット上などで電通に不信の目が集まっている。電通は、それほどまでの力を持つ企業なのだろうか。

現在の広告業の基礎を築く

 (株)電通の歴史は20世紀とともに始まった。日清戦争の従軍記者として中国に渡った光永星郎は、通信手段の不備が原因で記事の掲載が遅れたことから、通信社の設立を構想。1901年に日本広告(株)を設立し、07年には同じく光永が設立した(株)日本電報通信社と合併し、ニュース配信と広告業を併営するようになった。満州事変の勃発を契機に政府は情報発信体制の強化を図って、36年に電通とライバルの新聞聯合社を統合。この「電聯合併」で電通は広告専業となり、通信部門は同盟通信社に移譲された。45年の終戦により同盟通信社が解体されたことを受け、共同通信社と時事通信社がそれぞれ発足している。

 1947年、吉田秀雄氏が4代目社長に就任した。広告業の近代化を推し進め、現在の電通の基礎を築いた人物である。
 その1つがAE制の導入。広告会社が広告主との契約に基づき、その商品やブランドの広告活動を立案から実施まで、すべて一括して取り扱うシステムで、その責任者をアカウント・エグゼクティブ(AE)と呼ぶ。もともとは米国で構築されたものを吉田氏が電通に持ち込み、それが広まって、日本型広告会社の基本形になったとされている。
 またマーケティングの手法を取り入れたのも吉田氏だった。さらに民間放送の設立にも貢献。ラジオやテレビを広告媒体の市場としてとらえ、広告を主な収入源として事業を展開する民間放送というビジネスモデルを構築した。吉田氏の功績はほかにも多いが、電通を成長させ、さらには批判を浴びるようになった根源は、AE制と民間放送だったと指摘できる。

2位の博報堂を大きく突き放す

dentu 電通によると、2015年における日本の総広告費は6兆1,710億円。ミラノ万博や企業業績の大幅な伸長、所得増への期待があった一方、14年の消費税増税前の駆け込み需要やソチ冬季五輪、サッカーワールドカップブラジル大会などにともなう反動減、さらには海外経済の景気減速、個人消費の伸び悩みも影響して、前年比0.3%増にとどまったとする。
 しかし、景気の足踏み状態が続くなか、4年連続で広告費は前年実績を上回った。媒体別に見ると新聞は5,679億円(前年比6.2%減)、雑誌が2,443億円(同2.3%減)、ラジオが1,254億円(同1.4%減)、地上波テレビ1兆8,088億円(同1.4%減)と、従来のメディアでは軒並み減少しているものの、衛星メディアは1,235億円(同1.5%増)、インターネットが1兆1,594億円(同10.2%増)。とくに歴史の浅いインターネットがすでに1兆円を突破する巨大市場となり、さらに2ケタ成長を続けて広告費の増加を引っ張っているという事実は注目に値する。

 電通は15年度から決算日を3月31日から12月31日に変更しており、15年12月期は4月1日から12月31日までの業績を公表している。このため15年3月期との比較ができない。そこで15年3月期の連結決算を記すと、収益は7,286億2,600万円(前年同期比10.4%増)、営業利益1,323億500万円(同23.3%増)、当期利益846億4,500万円(同22.8%増)となっている。国内事業の売上総利益は3,339億9,500万円(同1.7%増)、海外事業が3,422億3,200万円(同19.6%増)と、ほぼ半々の割合。連結業績には電通単体の業績が大きく影響しているとしている。

東京五輪招致不正送金疑惑に電通の名前が浮上

 電通は1964年の東京五輪をきっかけに、数多くの国家的イベントに関わるようになった。国内だけでも大阪万国博、沖縄海洋博、科学万博「つくば‘85」、国際花と緑の博覧会、愛・地球博など、名だたるイベントが並ぶ。またスポーツイベントでもロサンゼルス、バルセロナ、長野、トリノなどの五輪をはじめ、日韓とドイツのサッカーワールドカップ、世界陸上、ワールド・ベースボール・クラッシックにも協力。14年には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会からマーケティング専任代理店に指名されている。
 AE制では競合他社をクライアントに持たないことになっており、国家規模のイベントは電通の独壇場となった。主催者側としてもノウハウを蓄積している電通と組むのが成功への早道。しかし、こうしたビジネスモデルがしばしば一般消費者から不信の目で見られることにもつながってしまった。

 ネット上には「電通の闇」という言葉が飛び交っている。電通は広告を利用してマスコミに圧力をかけているというものだ。

 最近でも東京五輪招致の不正送金疑惑で、電通の名前が上がりながらマスコミが報じなかったと話題になった。東京五輪の招致委員会がシンガポールのコンサルタント会社に約2億3,000万円を送金。このコンサルタント会社に国際陸上競技委員会(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子が関与していたことから、氏への賄賂ではないかとの疑惑が浮上した。一報を報じた英国のガーディアン紙は電通が疑惑に大きく関わっているとし、招致委員会元理事長の竹田恒和氏も国会で電通にコンサルタント会社の実績を確認したと発言。
 しかし、各メディアがこの疑惑を報じるニュースのなかに電通の名前をほとんど取り上げなかったとして、主にネット上で騒ぎが広まった。電通は新聞やテレビの主な収入源となっている広告を握っていることから、広告出稿を取りやめると圧力をかけたのではないかとみられたのだ。

 しかし、そのようなことが事実として可能なのだろうか――。

(つづく)
【平古場 豪】

dentu_hyo<COMPANY INFORMATION>
(株)電通
代 表:石井 直
所在地:東京都港区東新橋1-81-1
設 立:1901年7月
資本金:746億981万円
収 益:(15/12連結)7,064億6,900万円

 

 
(後)

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