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2016年06月29日 15:11

問われた殺意、不条理な世界に「国民の常識」の限界(前)~知佐被告人判決

 福岡県筑後市のリサイクル店を経営していた夫妻が元従業員ら3人の殺人と傷害致死などの罪で起訴された事件で、妻の知佐被告人(47)への一審判決が福岡地裁(平塚浩司裁判長)で言い渡され、夫の伸也被告人(49)の公判が6月27日福岡地裁で始まった(いずれも裁判員裁判)。福岡地検は、知佐被告人への殺人罪の成立を認めなかった福岡地裁判決に対し、「未必的殺意は優に認められる」と控訴した。殺意をめぐる判断を中心に事件と判決を振り返った。

殺人罪の成立を認めず

 元従業員ら3人が相次いで死亡した事件から約10年の月日を経て、判決は、無罪を主張した知佐被告人に有罪を宣告したが、殺人罪の成立を認めなかった。3人の死亡についていずれも夫との共謀を認め、傷害致死で有罪とし、懲役30年の刑を宣告した。

saiban1 判決によると、両被告人は、元従業員の日高崇氏(当時22歳)や元従業員で義弟の冷水一也氏(当時33~34歳)が不始末を起こせば暴力を振るう包括的な共謀関係があり、顔面を平手で殴ったり頭部を拳で殴ったりなどする暴行を繰り返して死亡させた。また、一也氏の長男大斗君(当時4歳)に対し、自らの意に沿わない言動をする場合には暴行してでも言うことを聞かせるという包括的な共謀関係があり、頭部や顔面を殴るなどの暴行を繰り返し死亡させた。また、元従業員古賀雄喜氏(当時19歳)も、両被告人の自宅アパートで死亡した(傷害致死罪の時効が完成し不起訴)とした。

 知佐被告人は、日高氏への殺意を否認し、3人の死亡について、「伸也被告人がキレて、体罰とは異質の暴力を加えた」として、「体罰とは異質な暴力」の指示や共謀を否定していた。

 判決は、最大の争点の1つだった殺意について、「古賀氏の死因や死亡に至る経緯は判然としない」「日高氏の死亡を企図しているものとうかがえるような強度の暴力は証拠上見当たらず、死亡させたいという意欲があったとは認めがたい」としたうえで、「生命を奪った最終的な暴行の態様、その際の同人の身体の状況、暴行と死亡との間の具体的な機序が不明である以上、被告人及び伸也が人を死亡させる危険性の高い行為をそれと分かって行った、すなわち殺意があったと認定することは困難」と判断し、殺人罪は成立しないと結論付けた。
 いわば、死因も死亡時の状況も不明なもとで、殺人罪の適用を躊躇したと言える。

「常軌を逸した凄惨な暴行」「犯情に酌むべき点なし」

 一方、判決は、日高氏の死亡について、暴行によって傷害を負わせ、その傷害によって死亡したと認定し、両被告人の間で、暴力を振るう包括的な共謀があったとして、傷害致死罪の成立を認めた。また、一也氏と大斗君の死亡についても、共謀を認めた。
 3件の傷害致死事件を「暴行の常習性は余りにも顕著で、幼児1名を含む3名が死に追いやられた、その過程は陰湿という他なく、その結果は重大」と批判し、一也氏の傷害致死では「常軌を逸した凄惨な暴行」、大斗君の傷害致死では「その理不尽さは際立っている」などと述べ、「犯情に酌むべき点はない」として、言い渡された刑は、懲役30年という法律上許される上限となった。

 弁護側は、殺意を認めず殺人罪が成立しないとした内容に「主張が認められた」としつつ、被告人の主張が聞き入れられなかったことが多々あるので、控訴するかどうか今後検討したいとの意向を示している。

 判決は、3件の傷害致死事件について、両被告人がつくった「支配服従関係」のもとで、「体罰」や「しつけ」と称して、自分たちの意に沿わない言動に対し「暴行を止めどもなく繰り返し、傷害を負わせて死亡に至らせた」ものと指摘した。

 「支配服従関係」のもとで「暴行を止めどもなく繰り返す」という異常な世界は、なぜ生み出され、4人が死ななければならなかったのか――。

 公判を通じて、事件の真相の解明は十分とは言えないが、リサイクル店や両被告人の自宅では、従業員らを暴力で支配する異常な世界があったことは明らかだ。

 両被告人の周囲で元従業員ら4人が行方不明になり死亡していることが発覚したきっかけは、2012年9月頃のことだった。冷水大斗君(06年10月中旬死亡)の児童手当の請求権の時効を前に筑後市が所在調査するなか、同市と児童相談所が県警に行方不明を通報し、父親の冷水一也氏(同年10月下旬死亡)が両告人らの経営するリサイクル店で働き、大斗君が中尾家に引き取られたこと、他にも従業員だった古賀雄喜氏(04年5月末頃死亡)と日高崇氏(04年6月下旬頃死亡)の捜索願が出されていることなどから捜査の結果、遺体の一部が発見され、事件が白日の下にさらされた。

(つづく)
【山本 弘之】

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