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2016年07月20日 11:29

【熊本地震・有識者の見解】人命だけでなく資産価値も守る免震構造(前)

福岡大学 工学部 建築学科 教授 高山 峯夫 氏

 今回の熊本地震では、4月14日夜、16日未明と立て続けに2度にわたって震度7という大きな揺れが発生。その後の余震も含めて、多くの建物で全壊・半壊といった被害が出ており、地震のエネルギーのすさまじさを感じさせられた。こうした地震災害の発生時には、建物の耐震性能が改めて注目を集める。地震災害から建物を安全に保つための「免震構造」の専門家である、福岡大学工学部建築学科教授の高山峯夫氏に話を聞いた。

耐震構造は地震に対して絶対安全ではない

 ――まず初めに、読者にわかりやすいように、「耐震」「免震」「制震」の違いを簡単にご説明願います。

福岡大学 工学部 建築学科 高山 峯夫 教授<

福岡大学 工学部 建築学科 高山 峯夫 教授

 高山 まず「耐震」ですが、これは建物の柱や壁の強度や変形性能を高めることで、建物全体で地震の揺れに耐えられるように設計されたものです。これには建物の構造体を地震時に作用する地震力に耐える方式と、粘り強く変形できるようにする方式の2種類があります。ちなみに、この耐震については建築基準法で規定されていますので、日本で建物を建てる際は基本的に耐震構造でないといけません。よく「この建物は耐震建築だから安全です」と言われる方がいますが、日本に建っている以上、すべて耐震構造だと思ってもらって構わないと思います。

 次に「免震」と「制震」についてですが、「免震」とは簡単に言えば、地震時の衝撃を建物に伝えないようにする方式です。そして「制震」は、地震の揺れのエネルギーを消費して熱エネルギーに変換することで、揺れを低減しようという方式のことです。個々について詳しくは、また後ほどご説明します。

 ――地震大国と言われる日本ですが、耐震という考え方が生まれてきたのは、いつ頃からでしょうか。

 高山 日本で本格的に「耐震設計」が行われ始めたのは、1923年の関東大震災を経てからです。その後、建築基準法の前身である「市街地建築物法」という法律で、地震力の規定がなされました。そういったところから、我が国の耐震構造というのが法規的にも規定されてきましたし、実際的にも耐震構造が広まってきたわけです。

 耐震構造とは「地震に耐える」と書きますけれど、「地震に耐え、ほとんど被害が出ない」ということではなく、今回の熊本地震の被害を見てもわかる通り、耐震構造であっても、それ相応の強さの地震を受ければ、ある程度の被害は出ることになるわけです。そのあたりは、耐震設計の考え方というか、その建物にどれくらいの安全性を求めるかによって変わってきます。もちろん大地震を想定して、より丈夫な、より安全な耐震構造をつくることはできますが、その分、柱が太くなったり、壁がたくさん必要になるなどして使い勝手も悪くなりますし、建設コストも当然上がってきます。その建物の用途だったり、建設地の地震の危険度などを考えたうえで、どれくらいの安全性を持たせたほうがいいのかということを、オーナーや設計者が考えることが必要になってくると思います。

 今回の地震被害を見てもわかる通り、被害を受けた建物は、鉄筋コンクリート構造であってもヒビが入ったり、下手をすると鉄筋が露わになっているケースも見られるわけです。地震で揺さぶられると地震のエネルギーが建物内に入ってくるわけですが、そのエネルギーを耐震構造はどうやって吸収しているのかというと、ある程度自分を壊すわけです。自分自身がある程度被害を受けることで、地震のエネルギーをできるだけ効率良く吸収しようとするのです。そのため、耐震設計の理想的な被害の受け方としては、特定の階に被害が集中しないように建物全体で地震のエネルギーを吸収することであり、そうした発想で耐震計算がなされているのが現状です。ただし、それがうまくいくかどうかは別の話ですが…。

 これまで耐震構造は、いろいろと大きな地震を経て被害を受けてきましたが、その都度改善を重ね、耐震基準が改正されていく―という経緯をたどってきました。ですが、1981年に俗に言う「新耐震」というものができて以降は、95年に阪神・淡路の震災があった後も、この基準は変わっていません。2000年には性能規定化ということで、建築基準法の細かいところが変わり、新しい計算法が追加されたりしましたが、新耐震のときに決めた耐震基準の基本的な考え方は変わっていません。81年に決まった話が、今でもずっと続いてきているのです。

 今回の熊本地震を受けても、木造住宅についてはひょっとしたら何か基準の改正があるかもしれませんが、通常のビルに関しては基準を新たに厳しくするような要因は今のところ見えていません。国交省は被害要因を検討しようとしていますが、ビルに関しては耐震基準を変えるというような強いインパクトのあるような被害は出ていないのではないかと思います。ですから、木造住宅をのぞけば、耐震基準は今後もそのままいくのだろうと私は感じています。

(つづく)
【文・構成:坂田 憲治】

<プロフィール>
takayama_pr高山 峯夫(たかやま・みねお)
1960年、福岡県生まれ。82年、福岡大学工学部卒業。86年、東京大学大学院修了後、福岡大学にて免震構造の実用化に取り組む。免震構造の実現に欠かせない積層ゴムの実大破壊実験、有限要素解析に取り組み、積層ゴムの優れた荷重支持性能のメカニズムを解明。その成果により、98年に日本建築学会奨励賞受賞。免震構造だけでなく、地域やまちの災害リスクを低減する方策の研究にも力を入れている。専門は建築構造、免震構造。著書に「4秒免震への道」(理工図書)、「耐震・制震・免震が一番わかる」(技術評論社)がある。

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