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2016年09月14日 10:00

誰が日本の高齢者を殺そうとしているのか(2)

第2回 地域住民の本音に耳を傾けようとしない政府と、行政体力のない地方自治体(前)

「施設から地域へ」の丸投げ

kyukyusya 「埼玉県小川町腰越の自宅で介護中の妻(77)を殺害したとして無職国崎誠一(83)が8日に殺人容疑で逮捕されていた」(「朝日新聞」平成28年2月25日)。「介護が必要な妻(69)を殺害したとして殺人容疑で逮捕された(中略)無職常松正根容疑者(71)が、県警の調べに『介護の時にきつい言葉を言われた』などと供述している」(同 平成27年12月21日)など、「(認知症)介護殺人事件」が最近目につく。
 「警察庁によると、介護や看病の疲れが原因とされる殺人事件は昨年(平成26年)42件。うち12件の加害者は65歳以上の男性だった」(同)。
 一方で、介護する子どもが親を手に掛けるケースも少なくない。共通する言葉は「介護疲れ」「将来悲観(先行き不安)」「思い詰め」「自暴自棄」「介護不慣れ」「SOSの出し方を知らない(無知)」「地域の人の目に見えない」など、要因は多彩だ。

 「子育てと家族の介護に同時に直面する『ダブルケア』をする人が、全国で少なくとも25万3千人いる。(中略)女性が16万8千人で、男性が8万5千人。女性により負担が偏っている実態が浮かび上がった。(内閣府発表)」(同 平成28年4月29日)。

 仕事量を減らしたりするが、結局、離職して「ダブルケア」をこなす女性の実態が見える。男性が会社を辞めて介護に専念するケースも増えている。基本的に、男性は介護が苦手である。これが高齢男性となると、さらに困難に拍車を掛ける。介護される側にも(たとえ認知症であっても)プライドは残る。そのプライドを損なわずに介護するスキルを持ち合わせていない。思うようにいかないから声を荒げたり、ときには手を挙げることもある。元気だった頃の妻(母親)を知っている夫(息子)にとって、その豹変ぶりに狼狽(うろた)える。「こんなはずではなかった」という思いが増殖し、将来を悲観して凶行におよぶ。「介護は無制限」(いつ果てるともしれない)だ。「予知不安」だけが先行する。

nizi 国(厚労省)は、来年4月に各自治体が主導する「介護予防・日常生活支援総合事業」(総合事業)をスタートさせる。これは「全国一律の介護保険給付から、市町村の事業への移管」のため、「介護基準とサービス内容、報酬単価・利用料」から、要支援者の「ホームヘルプサービス」(訪問介護)と「デイサービス」(通所介護)を、市町村の事業へと移管させる内容である。つまり、市町村によって「基準・内容・単価・利用料」がバラバラになる。現行の「要支援1・2」に続いて「要介護1、2」の介護サービスを「総合事業」へ取り込む目論見があるとも言われている。行政の体力の強弱で、介護サービスに大きな差を生じさせる。「要支援サービスの低下、切り捨て」につながるのは間違いない。
 厚労省はすでに、「施設から自宅・地域へ」というモデルプラン「地域包括ケアシステム」を強力に推し進めている。この場合の「地域」というのは「身近にある医療機関や施設、介護サービス」のことを指すと考えたい。重度な要介護者を住み慣れた自宅や地域で介護するために、自宅と病院・在宅系の訪問介護サービスやデイサービスなどと連携して支えるという。たしかに、埼玉県和光市や山梨県北杜市のように、先駆的に実践してきた市は問題ない。しかし、本市のように、いまだに輪郭さえ描けない(モデルプランを示せない)多くの市町村にとって、「在宅・施設・通所・入所」等のサービス、そして地域で利用できる多くのサービス(夜間対応型訪問介護・看護、認知症対応通所介護など)が円滑に稼働できるのか。「見切り発車」(体裁だけ整える)が現実的になった。

 重度の要介護者にとって、最も希求するのは「医療機関の充実」と「介護施設・各サービス」の有機的なネットワーク化だ。本市のように、医師会と市がいがみ合っているような市町村では、実現は難しい。中核(コア)を担うはずの行政に全体をまとめ上げる力がないとすれば、結局、要介護者は家族に委ねられ、“介護悲劇”はまさに自宅と地域で起きることになる。「家と地域」ごと国から放棄される。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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