2024年04月19日( 金 )

超小型で原発ロボットの基本機能を搭載!

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 日本の国土は気象、地形、地質等の環境がきわめて厳しく、毎年のように水害・災害等の自然災害が発生している。地震・火山噴火もひじょうに発生しやすい地域に位置するため、活発な火山活動に伴う広域かつ大規模な土砂災害も起こっている。また、日本の社会ストックは、今後急速に老朽化が進展していくため、戦略的な維持管理・更新を行うことが大きな課題となっている。さらに、日本は今後、少子・高齢化という人類史上経験のない課題と対峙していかなければならない。
 近年、人工知能(AI)技術、電子技術、制御技術などは著しく進歩しており、製造業をはじめとする多くの分野で高度なロボット技術やICTの導入が求められる背景がここにある。建設施工・建設産業に関しては、施工効率の向上、熟練技能者不足の解消、危険作業の解消等の問題が指摘されている。

原発ロボットの技術をさらに広く一般にも

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探査ロボット『CHERI』デモ走行

 1月13日(金)に千葉工業大学・東京スカイツリータウンキャンパス(東京都墨田区)にて、探査ロボット『CHERI』による建物内点検(天井裏)システムに関するデモ付記者発表会があった。会見に臨んだのは、小宮一仁氏(千葉工業大学 学長)、古田貴之氏(同大学常任理事・未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長)、西村健志氏(同センター 研究員)、上野純氏(大成建設株式会社 技術センター 建築技術開発部長)、森直樹氏(同建築技術開発部 次長)の5名である。探査ロボット『CHERI』は千葉工業大学が開発を担当、大成建設と共同で実証実験・検証を行い、事業化を進めている。

 開発責任者であるfuRo所長の古田貴之氏は「千葉工業大学の原発ロボットは東日本大震災・福島原発事故や熊本地震などで活躍、かれこれ10年以上の実績があります。私たちfuRoでは、このロボット技術をさらに広く一般の方にも使って頂きたいと思い日々開発を続けてきました」と挨拶をし、探査ロボット『CHERI』の特徴を次のように3つ挙げた。

1. 超小型で女性1人でも持ち運べる。従来の原発ロボットの約10分の1の重さである。
2. 原発ロボットの基本機能、システムをそのまま踏襲している。
3. カメラを新規に開発。小型にすると上の方をのぞき込むことができなくなるデメリットをカメラにリフトアップの機能を持たせることで解決した。

古田 貴之 氏

古田 貴之 氏

西村 健志 氏

西村 健志 氏

天井裏点検のニーズは高まってきています

 続いて、この開発の担当者である西村健志研究員から詳細説明とデモが行われた。
 同研究員は天井裏点検・調査ニーズについて「天井裏点検のニーズは高まってきています。ポイントは(1)耐震調査と(2)劣化調査の2つです。東日本大震災、熊本震災などで、天井が落下したことによって負傷、亡くなられた方が多数出ています。法制化の動きも進んでいます。国交省では建築基準法(12条)の改正を行い(2015年4月施行)、文科省では学校施設における天井等落下防止対策を一層促進させています」と述べた。Q&Aの際に、大成建設の上野部長は「特定天井()の場合には3年に1度の点検が法的に義務づけられています。また法的に問題がなくても、地震があった場合などお客さんから天井裏を見て欲しいという問い合わせをたくさん頂きます」と述べている。

目視では、物陰など細部には目が届かない

 天井は狭溢な空間であり、天井板は建物のデザインや居住性の向上などを目的に取り付けられる非構造材なので人を支えられず、天井裏に人が立ち入るのは困難と言われる。そのため、従来の点検は足場を組んだ大規模な工事をしない限りは、点検口からの目視点検が一般的になっている。しかし、その場合は物陰など細部には目が届かない。

 今回ロボットを使った点検を実施することによって、従来目視ではできなかった箇所の点検が可能になり、点検作業も容易になり、小人数の作業が可能になる。さらに、記録もPC上などに残るので、経年比較も容易になる。

実際の建物で検証、実用可能と判断した

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大きさを人間と比較

 調査イメージは、探査ロボット『CHERI』を点検口から投入、天井裏のロボットを遠隔で操縦し、搭載されているカメラの映像で調査を行い、PC上にロボットの姿勢とセンサ情報が表示される。ロボットはジョイスティック(ビデオゲーム専用機などでよく使われる入力装置の一つで、鉛直方向に立てた棒状のレバーを傾けることで方向の指示を行うもの)で操作する。会見当日は、調査用のカメラ映像はPCとは別のタブレットに表示されていたが、今後はPC1台に集約される予定である。

 実際の建物5カ所(千葉工大施設、大成建設施設、東京都内のビル、神戸市の工場など)で検証を実施、実際の環境で実用可能と判断した。今後は、調査会社との連携、製造・販売・メンテナンス等の実施体制の整備を進め、点検ロボット『CHERI』を活用した天井裏点検システムを確立し、本格的な実用化を目指すとしている。

 2017年は人と協働作業を行う「コボット」(Collaboration Robot)が普及する年になるといわれている。この天井裏点検ロボット『CHERI』もその一翼を担うかも知れない。

【金木 亮憲】

※【特定天井】脱落で重大な危害を生ずるおそれがある天井。高さ6m超で、面積200m2超、質量2kg/m2超の吊り天井で、人が日常利用する場所に設置されているもの。

探査ロボット『CHERI』の特徴
外形寸法:全長350mm、幅250mm、高さ90mm 重量:4.5㎏ 稼働時間:2時間

 

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