2024年04月30日( 火 )

露呈した建築確認行政庁・久留米市の無責任~久留米・欠陥マンション裁判レポート(1)

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saiban1 福岡県久留米市の分譲マンション「新生マンション花畑西」の構造・施工の欠陥をめぐり裁判が続いている。このマンションでは、設計における構造計算の偽装、不適切な設計が行われていたが、これらの問題点が久留米市による建築確認において見逃され、是正されることなく、建築確認済証が交付された。さらに、施工を請け負った鹿島建設のずさんな施工による数々の瑕疵が判明している。

 同マンションを設計した木村建築研究所の瑕疵の大半は、構造計算の偽装によるものであり、偽装は単純な手口であったが、建築確認審査を行った久留米市は、単純な偽装をすべて見逃し、建築確認済証を交付した。これにより、耐震強度を35%しか有していないマンションが建設されたのである。

 専門家による構造検証の結果、耐震強度が35%であることが判明し、マンション管理組合側は、久留米市に救済を求めたが、久留米市は、建築確認審査において設計の偽装を見逃した責任を認めないばかりか、管理組合側の悲痛な訴えに対し、無理難題ともいえるさらなる構造検証や耐震診断を要求し、時間稼ぎを図り続けた。

 久留米市の無責任、かつ市民生活の安全を無視した姿勢に対し、管理組合側は、調停を経て、平成27(2015)年3月、久留米市に対して建替え命令を求める訴訟を提訴し、その後、平成28(16)年1月には、久留米市に対する損害賠償請求を提訴した。2つの裁判は並行して審理が進められ、次回の裁判期日である平成29(17)年1月26日に大詰めを迎える。以下に、久留米市による、ずさんな建築確認審査と、行政としての使命を放棄した無責任きわまる対応について列挙する。

1.構造設計における法令規準及び仕様規定違反

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2.建築確認の位置付け

 建築基準法第6条において、建築確認機関(このマンションの場合は久留米市)は申請された建築物の計画が建築関係法規に適合していることを確認しなければならず、適合していない場合は申請者に是正を求めるよう規定されている。設計者の責任において設計された建築計画に対し、確認機関が厳しく審査することは、設計者の技量や知識の格差による、設計上の不備を適切に是正し、建物の安全を確保する上で必要不可欠なことなので、建築基準法に定められているのである。

 建築確認は羈束(きそく)行為(行政庁の行為のうち、自由裁量の余地のない行為)である。建築関係法令や規準に適合していることを確認するという、裁量の余地がなく、誰が審査しても結果は同じという業務なので、民間にも開放されており、民間の確認機関においても厳格な審査が行われている。

3.久留米市の建築確認の問題点

 前述の通り、建築確認は羈束(きそく)行為であるので、どの確認機関が審査を行っても、建築関係法規に不適合であれば、審査により判明し、是正を求めるはずである。このマンションの構造計算における偽装は、「地盤種別の偽装」、「構造特性係数(Ds値)の偽装」、「不適切な構造部材の配置・モデル化」など、図面や構造計算書を見れば、簡単に判明するレベルのものであった。建築確認において、久留米市が、なぜ、設計の偽装を発見できなかったのか、不思議でならない。久留米市により建築確認済証が交付されたすべての建物について、ずさんな審査が日常的に行われていたのであれば、久留米市内には、他にも耐震強度不足の建物が存在している可能性が高く、緊急調査を実施する必要があると考える。

4.裁判における久留米市の無責任な主張

 この裁判において、久留米市は、ずさんな建築確認により耐震強度不足のマンションが建設されるに至った責任を一切認めようとせず、自己保身のため、無責任な主張を繰り返している。

「管理組合が保管している建築確認通知書は本物ではない可能性がある」

「マンション建設当時、建築確認は適切に行われていたものと認識している」などと、久留米市は主張しているが、管理組合が偽物の確認通知書を作る理由も動機もなく、現物は誰が見ても本物であり、偽物と言える要素は1つもない。また、久留米市による当時の建築確認が適切であったなら、数々の設計における偽装が見逃されるはずはなく、このような事態に至っていないのである。これらの久留米市の主張は、建築確認ミスの責任回避のためのその場しのぎの言い訳に過ぎない。そこには、市民生活の安全を守るべき行政としての姿勢など、微塵も感じられない。

5.耐震診断(第3次診断)の結果

 久留米市は、原告による構造検証結果を精査せず、安全か危険かという判断を放棄し、耐震診断(第3次診断)の実施を原告に求めた。耐震診断は昭和56(1981)年以前に旧耐震基準より設計された建物の救済措置としての構造検証方法であり、このマンションのような新耐震基準で設計された建物に適用すべきでない。これは久留米市による、あからさまな時間稼ぎである。

 これに対し、原告は、旧耐震建物の救済措置である耐震診断によっても、耐震強度が不足していることが立証できれば、これまで提出している構造計算による検証結果と併せて、決定的な証拠となると考え、耐震診断(第3次診断)を実施した。その結果、建物の耐震性能を示すIs値が、目標値である「0.48」に対して、わずか「0.116」であることが判明した。耐震強度に換算すれば「24%」である。構造計算による検証結果である「35%」よりもさらに低い値となっており、国が定めた建物の除却(解体)の目安である耐震強度50%を遥かに下回っている。つまり、どの方法で検証をしても、このマンションは、地震により倒壊する危険性が高いので、解体しなければならないという結果となっているのである。

6.裁判の行方

 久留米市は、さまざまな理由を付けて、責任回避を図り、時間稼ぎを行ってきたが、裁判長は、裁判の終結を急いでおり、1月26日の審理で結審となる可能性が高い。あらゆる検証方法によって、耐震強度が50%未満である事実が立証されている一方、久留米市は、「このマンションが安全である」という立証をまったくできないでいる。いかなる方法論を以ってしても、耐震強度が35%ないし24%である建物が、100%以上の耐震強度となることは工学的にあり得ない。

 このマンションの施工においては、施工業者である鹿島建設の手抜きにより、図面に明記されている重要な梁が30カ所も施工されていないことが明らかになっているが、本来は、久留米市による完了検査において、図面通りに施工をされていないことを指摘しなければならなかった。現場の施工状況と図面を見比べれば、梁が施工されていないことは容易に判明する。建築確認における審査能力の欠如と同様、検査の能力も欠如していたのである。久留米市の建築指導課の組織体質や人材、意識などに根本的な原因が潜んでいるからではないだろうか。前述したように、久留米市には、ずさんな建築確認を受けて建設された建物が数多く存在する可能性がある。また、それらの建物は、完了検査においてさえ、ずさんな検査が行われ、施工ミスが潜んでいる可能性が高いのである。いずれにしても、久留米市内の建物は緊急調査を行う必要がある。久留米市民のため、私も可能な限り久留米市内の建物の調査・検証を進めていく所存である。

 「新生マンション花畑西」の除却命令の社会的影響は大きい。そのため、久留米市は、除却命令を出せないでいたという一面もあるかもしれない。しかし、除却が必要なほど耐震強度が不足しており、地震が発生した場合、マンションの住民のみならず、近隣に住む久留米市民まで巻き込む大惨事となるおそれがある。一刻も早く、除却命令が出され、市民の安全が確保されることを強く望む。

【伊藤 鉄三郎】

 
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