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2017年02月06日 09:34

リゾート運営の達人が日本旅館を世界へ(中)

星野リゾート(株)

同族経営の問題山積 親子対立の事業承継

hosino 星野リゾートを率いる星野佳路社長とは、いったいどんな人物なのか――。
 1960年4月、長野県軽井沢町に生まれ、83年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院で修士課程を修了。87年、同国に残り日本航空開発(現・JALホテルズ)に現地採用されたが、89年に先代の父・嘉助氏に呼び戻されて家業である星野温泉に取締役として入社するもすぐに退社してしまった。

 その背景には、同族企業ならではの嘉助氏との親子対立があった。もともと佳路氏は、幼少のころから跡取りとしての自覚を持ち「いつかは自分が継ぐ」と意識するようになっていた。嘉助氏はバブル経済下でも借金の少ない堅実経営を貫いていたが、一方で社内では一族出身の役員複数が特権階級化。旅館の備品を持ち帰ったり、同じ敷地内にある自宅の電気代を会社に回すなど公私混同が常態化していたのだ。

 アメリカ滞在中に先進的なホテル経営を学んでいた佳路氏は、「前近代的な経営だ。これでは優秀な人材が集まらないし、入社した社員のモチベーションは上がらない」と見かねて、星野家の経営を変革しようと嘉助氏に訴えた。だが、両者の考え方はかみ合わず、社内で激しい口論になるまで発展した。
 次第に通常の親子のような付き合い方ができなくなったという点では、お家騒動で最近世間をにぎわせた大塚家具の大塚勝久・久美子親子のような状況になっていたのだ。

 結局、嘉助氏には抗えず会社は何も変わらない。佳路氏に期待した社員も彼を特権階級の一員と捉えるようになり、自分がいる意味はないと考えた佳路氏は、約半年で退社し再び渡米。シティバンク銀行へ転職し、リゾートやホテル事業の債権回収業務などを担当した。

 91年、今度は株主や役員を含む社内外関係者から経営者として呼び戻されたことを受け、佳路氏は代表取締役社長就任を決意した。彼らは経営環境の変化を前に事業の将来を心配していたのだ。ただ、前回と同じ轍を踏むわけにはいかなかった。そこで、当時公認会計士をしていた弟・究道氏に役員就任を依頼。固辞されたものの、「10年後にハワイで住めるようにしてやるから」と何とか説得した。

 95年、星野温泉から現社名に変更。99には星野温泉ホテルの再開発計画に着手し、2001年に初めてリゾートの再生案件を引き受けた。軽井沢での事業から始めて外に出た再生事業第1号は、山梨県小淵沢町に7万m2という広大な敷地を有するデザインホテル「リゾナーレ」。運営開始時の平均稼働率は40%を切っていたが、新たなコンセプトを掲げるなどして04年には黒字化に成功した。ハードランディングの事業承継だったが、ここでようやく現在のビジネスモデルへの一歩を踏み出したのだった。

ビジネスの定石はコモディティ回避

hosino5 佳路氏はビジネスに対してある定石を持っている。それは「コモディティ化を避ける」というものだ。類似した商品やサービスが大量に最適生産され効率的に消費者に届けられるようになった結果、どの企業も競争優位にならない状態がコモディティ化。つまり、差異化できなくなるため企業は価格競争に陥るのだ。たとえば外食チェーンやファストファッションなどが、この状態に陥りやすい。

 企業は、顧客が望む価値をもっとも少ないコストで作れば利益を最大化できる。ことホテルやリゾート事業は、あっという間に他企業にビジネスモデルをマネされる。そうなると利益を最大化できない。そこで佳路氏は、国内の旅館やホテルでは土地や建物など施設を所有せず、独自の運営に特化する方向性を打ち出したのだ。不動産を保有しない分、債務がふくらむことなく多数の施設を運営できる。施設運営はオーナー(不動産会社)や投資会社との調整が必要になるが、この調整こそが同社独自のノウハウというわけだ。

 日本では所有者と運営が一致している旅館やホテルが一般的だが、佳路氏はそれらの分離が進む海外のホテル経営を最初に見てきたため、それが常識とは思わなかった。だが一方で、海外ではフロント、料飲サービス、客室清掃など業務ごとにマニュアル化しており、縦割りになっている。日本ではスタッフがさまざまな業務を兼務して働き収益性を高め、「おもてなし」の精神がある。こうした手法は海外ではマネできないと考えたのだ。

 同社では、1人ひとりがやる気と責任を自覚しながら働く組織が不可欠だと考え、みんなが言いたいことを、言いたいときに、言いたい人に言えるフラットな組織文化を導入しているという。普段の人間関係からフラットにしようと、社員同士が役職で呼ぶのをやめ、上司も部下も「~さん」と呼ぶかたちに変えた。

(つづく)
【大根田 康介】

 
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