2024年04月24日( 水 )

人間は恐れながらも、自分を超える存在を望んでいる!(5)

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早稲田大学 文化構想学部 教授 高橋 透 氏

専門分野の知識が、いくら優れていても無意味

 ――2045年までに30年を切りました。シンギュラリティに向かう過程でも、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の衝撃的な予測(2014年)「人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる」のように、社会は大きく変化していくことが予想されます。

早稲田大学 文化構想学部 高橋 透 教授

 高橋 AIに人間が超えられた分野においては、チェスでも、碁でも、将棋でも、「AIとタッグを組む」共同作業が開始されています。
 たとえば、最近のコンピュータ・チェスの主流となった「フリースタイル・チェス」があります。チェス界では、1997年にIBMの「ディープブルー」が世界チャンピオンのカスパロスを破って以来、「アドバンスド・チェス」がカスパロフ本人によって提唱されました。アドバンスド・チェスとは、コンピュータと人間がタッグを組んで、相手のチーム(=人間+コンピュータ)と対戦を行います。そして、これが進んで最近では、「フリースタイル・チェス」がチェスの主流となっているのです。こちらは、対戦するチームがコンピュータと人間をどのように組み合わせてもよいことになっています。

 その結果、現在、世界最強のチェス・プレイヤーは、実はコンピュータではありません。また人間でもありません。「人間+機械」が世界最強のチェス・プレイヤーなのです。
 このことによって、また新しい発見がありました。コンピュータとチームを組んで勝てる人間というのは、必ずしもその世界の専門家でなくともよいことがわかっています。これまでは、専門家と認められている人たちは、その専門分野の知識と処理能力に優れていました。

 しかし、フリースタイル・チェスが示したのは、もはや専門分野の知識がいくら優れていても無意味ということだったのです。なぜなら、それだけではコンピュータには勝てないからです。これは、すごく重要な視点です。チェスでそれがすでに証明されたということは、他の分野でもすぐそうなる可能性が高いからです。

 これは人間とAI・コンピュータの協業、協働作業の未来を暗示しています。こうなると、人間はコンピュータをうまくパートナーとして使いこなすことが、最も重要になるかもしれません。つまり、人間と機械が対等であり、その意味でお互いに協力し合う関係にあるということです。

人間はAIと共存・合体して、人間を超える存在に

 ――最後になりました。読者の明日にメッセージをいただけますか。未来を担う若者、「テクノロジーと哲学」の受講生には、何を一番大切にしてほしいとお考えですか。

 高橋 文化構想学部は、基本的に文系です。そこで学生には、自分が直接的に、先端テクノロジーやプログラミング等に関わらなくても、その先端テクノジーなどのそばに寄り添い、新しい技術に対する“感度”を磨いておくことが必要と伝えています。それは、これからの世の中では、AIやサイボークは加速度的に進化し、私たちと人間と共生していくことは間違いないからです。

 彼らの未来が、現在の私たちが経験しているものとまったく様変わりした世界であることは、容易に想像できます。その世界では、先端テクノロジーに対する感度が高い人間と低い人間は、大きな差がついてしまいます。また、このような時代になればなるほど、人間には、文系、理系関係なく哲学が必要になります。

 私の授業では『攻殻機動隊』は欠かせないテキストになっています。学生たちの多くがこの作品を読んでおり、あるいは押井守監督や神山健治監督によってアニメ化された同作品を観て知っています。そのため、未来について語るとき、容易に認識を共有することが可能だからです。私たちがAIテクノロジーの開発を止めることができないのであれば、必然的に汎用人工知能(AGI)が出現、AIが人間を超える未来は必ずやって来ます。

 一部の議論にあるように、人類がAIによって滅ぼされる可能性があるかどうかはわかりません。しかし、もしその可能性があるのであれば、人類はどうすればいいのでしょうか。
 突拍子もなく聞こえるかもしれないですし、SFの読み過ぎと批判されるかもしれませんが、私の答えは極めて簡単で、結局、私たち人間はAIと共存し、やがて合体して、人間を超えるものになる、つまり「人間のサイボーグ化」の方向に進んでいくものと考えています。
 人類は、いつの時代でも不可能に挑戦してきました。これからも間違いなく、そうしていくと思います。人間とはつくづく奇妙な生き物だからです。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
高橋 透(たかはし・とおる)
1963年、東京都生まれ。早稲田大学文化構想学部教授。博士(科学社会学・科学技術史)
ニーチェ、デリダなどの現代西洋哲学研究を経て、サイボーグ技術、ロボット工学といった先端テクノロジーと人間存在との関わりをめぐる哲学研究に取り組む。「テクノロジーの哲学」は学生に大人気の講座である。著書に『サイボーグ・エシックス』『サイボーグ・フィロソフィー』、訳書に『サイボーグ・ダイアローグズ』(ダナ・ハラウェイ著)など多数。

 
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