2024年05月13日( 月 )

無理な「改革」よりも、「ありのまま」を見せる努力を~中小企業の採用戦略

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 「働き方改革」が加速している。大手企業は「働きやすさ」に着目した独自の制度を続々と打ち出し、国も認定制度や顕彰制度により労働環境改善を推奨している。

 「健康経営銘柄」は2014年度から経産省と東京証券取引所が共同で取り組む。従業員の健康管理を経営的視点で捉え、戦略的に取り組む企業を選定。優良な「健康経営」を営む企業に付加価値をつけ、社会的評価を向上させるとともに、より「健康経営」が促進されることを目指す。
 第3回目となる「健康経営銘柄2017」では、24社(24業種)が選定された。「伊藤忠商事」や「花王」、「ローソン」など、日本を代表する大企業が並んでいる。
 銘柄は上場企業のうち、1業種1企業が選定される仕組み。つまり、健康に対して優良な取り組みをしていても、非上場企業や、同業種で2位以下の企業は選定されない。これを受け、2017年度から日本健康会議と連携して開始したのが「健康経営優良法人認定制度」だ。「健康経営優良法人」では認定に規模制限はない変わりに、「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分類される。
 とくに大規模法人部門は2020年までに500社以上の認定を目指し、「ホワイト500」とも呼ばれる。「ブラック企業」の対義語となる「ホワイト企業」が連想されることもあり、企業・求職者の双方から注目が高まる認定となっている。

 「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」は経産省が主導するのに対し、厚労省も「安全衛生優良企業公表制度」を推進している。同制度では「労働安全衛生法」に基づき、労働者の安全・健康確保対策に積極的に取り組み、高い安全衛生水準を維持・改善する企業を認定。過去3年間に労働安全衛生関連の重大な法違反がなく、労働者の健康保持増進対策、メンタルヘルス対策、過重労働防止対策、安全管理など、幅広い分野の取り組みが求められる。
 「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」が年1回の認定、認定期間が1年間であるのに対し、「安全衛生優良企業」はいつでも申請が可能で、認定期間は3年間となる。また、企業規模による分類はない。17年12月19日時点での認定企業数は33件で、うち23件が中小企業(中小企業基本法(昭和38年法律第154号)第2条に定める基準)となっている。

 国の取り組み以外でも、日本経済新聞社が上場企業・有力非上場企業を対象に「働きやすさ」の観点で格付けした「スマートワーク経営調査」を発表(17年12月18日)。「健康経営銘柄」および「ホワイト500」選定の際に必須の「健康経営度調査」(経産省実施)の第3回(2016年度)調査回答数が第2回(2015年度)調査の1.5倍に増加するなど、労働環境に関する取り組みへの社会的関心が上昇していることが分かる。

 従業員の安全・健康に気を遣い、働きやすい環境であることは、求職者への大きなアピールポイントとなる。そのため、各認定を採用戦略の一環として捉える経営者も多く、認定のためのセミナーやコンサルをビジネスにする企業もすでに存在する。
 しかし各基準を満たすためには、企業にとって相応の体力や余裕が必要。取得したくても実行が困難な中小企業も多い。認定の有無が、すでに大企業に応募が集中しがちな求人市場に、さらなる格差をもたらす可能性もある。

 だがなにも、認定がなくては求職者が集まらないというわけではない。離職者や転職希望者の離職理由の上位に、「採用前に聞いていた仕事内容やイメージとの違い」がある。
 ある中小企業では、面接で徹底的にリアルな仕事内容や労働環境を伝え、公式ブログで現場の様子などを頻繁に掲載するようにしたことで、それまでほぼゼロに等しかった採用応募数が一気にあがったという。仕事の大変な部分を公開することは採用にマイナスに働くと考えがちだが、求職者が求めているのは企業の“本当の姿”だ。また、悪い部分も理解した上で入社する人材は、事前の納得度が高いため、定着率も良い。
 「異動がない」「少ない人員のなかで核となって働ける」「昇格が早い」など、中小企業ならではの魅力は多く、これらの条件を求める求職者も数多い。
 自社特有の魅力を広く伝えていくことが、人材確保と企業存続の大きな鍵となる。

【中尾 眞幸】

 

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