2024年04月30日( 火 )

「期待を超える感動を」小口工事の積み重ねで生き残る地方企業(前)

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島根電工(株)

 公共事業から一般家庭の小口工事へ。島根No.1の島根電工(株)は、小泉政権下の公共工事削減の方針に素早く対応し、業態変更に取り組んだ。一般家庭の電気工事など、小口でもニーズに応える「住まいのおたすけ隊」を手がけてバブル期の2倍の売上を上げるまでになった。どのような発想で有為転変の時代に立ち向かうのか、荒木恭司代表取締役社長に話を聞いた。

(聞き手:データ・マックス顧問 浜崎裕司)

小口工事拡大から生まれた「住まいのおたすけ隊」

 ――ここ数年の売上高は150億円前後で推移していますね。

 荒木恭司氏(以下荒木) 私自身、売上高はあまり重視しておりません。まあ我々は建設業ですから、年によって多少の増減はありますね。完工高がずれますから。私としては、だいたい100億円でいいと常々言っているのですが、それより増えていますから。

 ――「住まいのおたすけ隊」のほうはどれくらいの売上ですか。

 荒木 そもそも「住まいのおたすけ隊」は、売上がいくらかということで測るものではないのですよ。「おたすけ隊事業」というものが別にあるわけではない。おたすけ隊の考え方でお客さまに提案したり、自分たちで受注したりしたもので合計74~5億円あるということです。大きな工事もおたすけ隊の発想でやっています。つまり、うちの経営のやり方自体を、おたすけ隊の感覚でやっていく、ということです。

 ――そうでした、まずは「住まいのおたすけ隊」について聞かなければいけませんでしたね。島根電工さんはそもそも公共工事を中心とした設備工事の会社ですが、「住まいのおたすけ隊」としてごくごく小口の仕事まで手がけるようになったということですが。

 荒木 もともとは、小泉内閣の公共事業削減にどう対応するかと考えたところから始まりました。仕事量自体が減るでしょうから、従来通りのやり方では先が見えない。ですから、新しい仕事をつくらなければいけないと考えました。

 ――そこで小口ですか。

 荒木 弊社は、これまでどんな小さな工事でも1件ごとに内容と収支がわかるデータを取っていました。そのデータを基に考えて、数千円、数万円の仕事を増やしてもやっていけると考えたのです。

 ――どれくらいの成算があったのでしょうか。

 荒木 40~50%可能性があればやってみよう、というのが私の考え方です。70~80%の可能性があるものは、すでに誰かがやっているはず。そこでやってやろう、と踏み出す気持ちが大事だと思います。

「期待を超える感動を!」

 ――社長が掲げる経営理念、「社会とともに明日の快適環境を創造し続ける事業を目指す」と「お客さまの要望に、迅速に的確に応えて満足度と信頼感の高い企業を目指す」。そして「付加価値を労使共通の目標として挑戦し、活力と魅力あふれる企業風土を目指す」。この方針を、これからも貫いていくということですか。

 荒木 いえ、そういうことではないですよ。これは我々の先代からある経営理念ですが、どこの会社も経営理念にはそこまで重きを置いていないのではないですか(笑)。

 ――なるほど。これからここに加えるものは何かありますでしょうか。

 荒木 これを社員がいつも頭のなかに置いておけるようにわかりやすく作ったのが、「期待を超える感動を!」というスローガンですね。

無理な進出よりも県外企業を「応援」する

 ――今現在は、事業の中心は島根県でしょうか。

 荒木 島根、鳥取の山陰両県ですね。松江市(島根県)に本社があって、シンセイ技研(株)、岡田電工(株)、協和通信工業(株)と、100%の子会社が3社あります。岡田電工は鳥取県米子市ですが、他はみな松江市に本社があります。3社とも100%子会社ですから、採用も教育も会議も、一緒にやっています。

 ――そこまで同じなら、なぜ会社を分けたのでしょうか。

 荒木 あるとき鳥取県が島根電工を「県外業者」として扱うようになったので、当時島根電工の米子営業所だったものを岡田電工として独立させたわけです。シンセイ技研は管工事の会社。私たちは主たる業務は電気ですから、県からの工事は主たる業務である電気で来る。つまり管工事では来ないわけです。そこで、管工事の仕事を取るために独立させたのがシンセイ技研です。ですから、どちらも、もともと同じ会社ですが、法人としては別法人となっているわけです。

 ――広島にも拠点があるのですね。

 荒木 広島には国交省や経産省など国の出先機関がありますから、支店を置いています。そこできちんと仕事もしていますよ。5億円の売上を立てています。山口まで進出するつもりはありません。私は山陰両県で100億円の売上を上げられれば、それで何の文句もありません。私が出張っていくといったら、広島や山口の人たちが嫌がりますから。島根県民はおとなしくて、他県に乗り込んで激しく戦うという気性でもありませんから。鳥取県も同じように穏やかですから、そこで商売させてもらおうということです。出て行って相手の土地を占領するような商売はやらない、ということです。

 ――それは社長が商売上手だから、みんなそれを恐れているんじゃないですか(笑)。

 荒木 いやいや。その代わりにフランチャイズで、地元の元気のいい会社が頑張ればいい、ということですよ。今山口に2社、広島に1社フランチャイズ展開を行っています。どちらも元気のいいところです。

 ――そういう会社と組んでやっていくわけですね。

 荒木 「組んで」とはちょっと違うんですよ。あくまでも応援です。ですから「売上から何%をもらう」ということも言いません。ただ、毎月決まった額のロイヤリティだけをもらっています。全国に、今45社ほどのフランチャイジーがあります。18年6月が決算ですから、50社……までいかなくてもいいよ、という感じです。

 ――ニーズを見出す、顧客の要望を見つけるということを社長から各フランチャイジーに教えていって、売上を増やす。そして「元気になりなさい」ということですね。やはり日本の人口は減少していきますから、新しいニーズをいかに求めていくかということになると思います。

 荒木 パナソニック(株)が(株)松村組をM&Aして、これまではパナソニックは部品を作って卸していただけなんですが、工事にも入ってこようとしている。世の中どう動いていくかわかりません。しかし、地域での人との付き合いの仕事というのは、いくら大手がやってきてもかなわないところだと思います。だから、「そこをしっかりやりなさいよ」ということはフランチャイジーに指導しています。しかし、この次にやはり何が起きるかわかりませんから、そうしたら次の人ががんばってくださいと。読めませんからね、これからどうなるかっていうのは。

(つづく)
【文・構成:深水 央】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:荒木 恭司
所在地:島根県松江市東本町5-63
設 立:1956年4月
資本金:2億6,000万円
売上高:(17/6)165億円(島根電工グループ)

<プロフィール>
荒木 恭司 氏
島根電工(株) 代表取締役社長
1949年島根県生まれ。72年島根電工(株)入社。 米子営業所営業課長、出雲営業所所長を経て96年常務取締役。専務取締役、副社長を経て、2012年代表取締役社長に就任。 公共事業受注主体から「おたすけ隊」による小口工事の受注拡大に成功。右肩上がり成長を続け、バブル期よりも売上、利益を1.8倍に伸ばす。 また、業界活性化を目的とし全国フランチャイズ展開を開始、 同業者35社以上の経営支援を行う。島根電工(株)を中心として、いずれも同社100%出資のシンセイ技研(株)、岡田電工(株)、協和通信工業(株)から構成される島根電工グループのトップも務める。16年6月には『「不思議な会社」に不思議なんてない』(あさ出版)を出版。

 
(中)

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