2024年03月29日( 金 )

積水ハウス、お家騒動の第2ラウンド 新役員人選で抗争は必至(前)

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 解任された前会長がクーデターだといえば、会社側は自発的辞任だと反論する。積水ハウスの「お家騒動」である。2トップの憎悪剥き出しの争いが世間に知られたわけだから、地面師詐欺事件よりはるかにダメージは大きい。3月末に決まる株主総会に向けての役員人選が第2ラウンドのヤマ場になる。前会長派が一掃されるかが焦点だ。

積水ハウスは日経の解任報道を「事実誤認」と反論

 積水ハウスのお家騒動が経済界の注目を集めたのは、日本経済新聞(2月20日付朝刊)の記事がきっかけだった。記事には、同社が東京・西五反田の不動産に絡む“地面師詐欺”に遭い、55億円を騙し取られた経営責任をめぐり、当時の和田勇会長(76、現・取締役相談役)と阿部俊則社長(66、現・会長)が対立し、会長が「解任」されたと書かれていた。

 積水ハウスは「日経新聞の報道は重大な事実誤認を含んでいる。前会長の解任の事実はなく、本人の意思による辞任で、世代交代を決定したもの」と真っ向から否定した。

 積水ハウスの阿部俊則会長ら新経営陣は3月8日、大阪市内で記者会見し、解任劇の経緯と今後の改善策を説明した。毎日新聞(3月9日付大阪朝刊)は、こう報じた。

〈会見に同席した稲垣士郎副会長は、和田氏が1月24日の取締役会で事実上解任された経緯を説明。会長だった和田氏が「詐欺事件の責任を明確化すべきだ」と、社長だった阿部氏の解任動議を提案したが、当事者の阿部氏を除く10人の取締役の採決で賛成5反対5となり否決された。稲垣氏は会見で「詐欺事件は社長が辞任すべき理由に当たらないと判断した」と説明。阿部氏が直後に「新しいカバナンス体制を構築する」として和田氏の解任動議を出した際には、和田氏を除き6対4の賛成多数が濃厚となり、稲垣氏は「本人の名誉を守るため、私が繰り返し辞任を勧めた」と当時の状況を明らかにした。最終的に和田氏が自発的な辞任を受け入れ、取締役相談役に退いた。〉

積水ハウスのドン・和田氏に引導を渡した稲垣士郎氏

 この記事で、目を引いたのは稲垣士郎氏(67、現・副会長)の存在である。「私が繰り返し辞任を勧めた」。つまり、自分が和田氏に引導を渡したと語っているのである。積水ハウスの“ドン”と言われた和田氏を事実上の解任に追い込むほどの実力者だということだ。

 稲垣氏は関西学院大学経済学部を卒業し、1973年積水ハウスに入社した。和田氏は関西学院大学法学部出身で1965年の入社だから、関学の先輩・後輩だ。和田氏は営業畑、稲垣氏は財務畑を歩いた。和田氏が1998年に社長に就任するのと同時に、稲垣氏は財務部長に就いた。和田氏の体制下で、執行役員、取締役と昇進を重ね、“金庫番”として重きをなした。

 和田氏の自発的辞任という名の解任劇の当日の役員構成はこうだ。代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)が和田勇氏、代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)が阿部俊則氏。稲垣氏は序列3位の取締役副社長兼CFO(最高財務責任者)。副社長執行役員 経営企画・経理財務・監査管掌・IT業務担当として社内の管理業務を一手に引き受けていた。

 積水ハウスのクーデター事件を最初に報じた会員制情報誌「FACTA」(18年3月号)は、こう報じている。

〈住宅メーカー業界では昨年の早い段階から「積水ハウスの社長交代」が噂になっていた。ただし、その中身が違う。和田氏は会長を続投、阿部氏が退任し、今回、副会長に就任した稲垣士郎副社長兼CFOが昇格するとみられていた。〉

 和田氏は阿部氏を退任に追い込む際に、後任のカードとして用意していたのが稲垣氏だったというわけだ。ところが、稲垣氏は「詐欺事件は社長が辞任すべき理由に当たらないと判断した」と阿部氏の解任に反対を表明。これで取締役会の流れが変わった。そして、稲垣氏は和田氏に自発的退任という名の引導を渡した。

 和田氏、阿部氏、稲垣氏の3首脳の同時退任が、どうして決まったのか。会社側は「若返り」という以外、説明していない。これまでの流れから、稲垣氏が3首脳の同時退任を発議したと見るのが自然だろう。

 最終的な意思決定者が権力者になる。経営トップは、他人の意見を聞いても、意思決定を他人に任せてはいけない。これはリーダーシップの鉄則である。経営首脳の退任という最も重要な意思決定を稲垣氏が行ったのであれば、稲垣氏が最高権力者になったことを意味する。その件について、マスコミは一言も触れていない。権力の所在を嗅ぎ分けるのがメディアの仕事ではないのか。

(つづく)
【森村 和男】

 
(後)

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