2024年05月04日( 土 )

久留米欠陥マンション裁判、2つの判例に見る「かぶり厚」問題(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 大詰めを迎えている福岡県久留米市の欠陥マンション裁判。ゼネコン批判を嫌い、多くの建築設計関係者が口を閉ざすなか、今回、大阪市の建築設計士(M)から、争点の1つである「かぶり厚」問題について過去の判例などの情報が寄せられた。Mは、欠陥マンション問題が起きている業界の実情をどのように見ているのか。

超大手ゼネコンの施工に落とし穴

 ――Mさんは長く建築の設計に関わってこられたそうですね。

 M 私は、大阪で、30年以上、建築設計に携わっており、建築紛争にもいくつか関わってきました。姉歯事件をきっかけに、平成19(2007)年に建築関係の法律が改正されましたが、過去の建築確認審査がいい加減だったため、構造計算の不備を指摘できないまま建築確認が下りていたという実情があります。

 ――建築紛争のなかで施工における瑕疵は数多く存在しましたか。

 M 分譲マンションの建設ラッシュの時期などは、「建築コストを抑える」「工期を少しでも短縮する」といった風潮が強かったと思います。たとえば、コンクリート打設というのは、非常に重要な工程なのですが、生コンの回りを早くするために、決められた水分よりも多くの水を加え流動性を良くした、いわゆるシャブコンというものが多用されており、コンクリートの強度不足や、ひびわれの原因となっています。
 また、過去の地震で被害が多く発生したケースへの対応として、鉄筋コンクリートの柱と壁の境目に「構造スリット」という溝を設けるよう図面に明記されていますが、実際に構造スリットを施工していない事例が、相当な確率で存在します。
 このほかの施工上の瑕疵も、多くの事例が確認されています。

 ――このマンションでは、図面に明記されている梁を30カ所も施工していない事実も明らかになっています。この施工ミスについて、鹿島建設は、「安全性に問題ない」と主張していますが、建築業者としての責任はないのでしょうか。

 M 建築工事の請負契約は、設計図通りに工事を行うことが大原則であり、やむを得ず設計変更をする場合には、法令・規準・強度などの詳細なチェックを行ったうえで、建築確認機関(行政庁など)に届けを提出するという手続きが必要です。もし、適切な手続きが行われていないのであれば、手続きだけを見ても違法行為であり、チェックされていない変更内容は法令や基準に適合していない可能性も考えられます。
 鹿島建設の手抜き工事のように、図面に明記されている梁を施工しなかったということは、通常では考えられません。この現場では、チェック機能がまったく働いていなかったのではないでしょうか。鹿島建設は下請業者を管理できていないし、工事監理を担当した設計事務所も職務をはたしていなかったとしか考えられません。図面どおりに施工をしなかったということは、重大な請負契約違反です。建設業法にも違反しており、営業停止などの処分を受ける可能性があるのではないでしょうか。

 ――このマンションでは、設計の偽装と施工ミスが重なったことで耐震強度が35%と不足し、建替え費用を求めた訴訟となっています。

 M 国土交通省の方針では、耐震強度が50%未満であれば、建物を解体(除却)しなければならないとされています。姉歯関係のマンションも、耐震強度50%未満のマンションは、行政庁の指示により、速やかに解体されました。
 久留米のマンションの裁判が、どういう判決になるのか、私には想像できませんが、建替え費用の支払いが認められた場合でも、今の裁判制度では、建替えに必要な金額に対し、原告÷全戸数の比率で按分されます。不足する建替え費用はどうするのだろうという疑問は、これまでの事例でも感じていました。
 姉歯関係のマンションの建替えでも、二重ローンが問題となっていました。二重ローンの問題も、そもそも、耐震強度が不足した、資産価値のないマンションを販売したのですから、最初の住宅ローンは、「価値がないものに、不当な金額のローンを設定した」のですから、ローン自体が無効ではないかと、個人的には思っています。

 ――鹿島建設などスーパーゼネコン4社によるリニア新幹線の談合問題で、鹿島の幹部社員が逮捕・刑事告発されました。逮捕や刑事告発というのは異常な事態だと思いますが、久留米のマンションの問題や、リニア新幹線の談合など、スーパーゼネコンの体質に共通することはあるのでしょうか。

 M 私は、リニア新幹線の談合については、報道以外に知る由もありませんが、4社は多額の追徴金を支払わなければならないようです。現在、東京都心を中心に、五輪関係施設や再開発ラッシュとなっており、スーパーゼネコンなどは、巨額の受注が続くので、リニア問題で追徴金を支払ったとしても、数十億円程度では、大した痛手にはならないのかもしれません。それだけの規模の企業だからこそ、リニア問題でも、久留米のマンションの裁判においても、強気な姿勢を貫いているのでしょう。
 私も、少ないながらも、建築関係の紛争に関わってきました。大阪という土地柄、施工業者による、悪意に満ちた手抜き工事に数多く出くわしました。鹿島建設に限らず、豊富な施工実績を誇るスーパーゼネコンであっても、下請業者の管理ができていなければ、三流以下の仕事しかできていないのです。
 それでも、購入する方は「超大手ゼネコンの施工だから安心」という妄信で、マンションを購入してしまいます。このような実態は、大阪での事例も、福岡県久留米市のマンションの事例も同じだと思います。私が関わってきた事例の資料が役立つのであれば、データ・マックス社や仲盛氏に提供しても構わないと思っています。

(了)
【聞き手・文:伊藤 鉄三郎】

 
(前)

関連記事