2024年03月29日( 金 )

野党必見!佐川宣寿の「刑事訴追のおそれ」攻略法(前)

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青沼隆郎の法律講座 第1回

 国会議員がここまで法に無知であることを目の当たりにして、心ある国民は深刻な疑問に逢着する。一体この国の難解極まりない法令は誰が何のために作っているのか、と。

 佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問は、それ自体が、生中継で全国民が注視するなか、白昼堂々行われた現役官僚による違法行為であり、『佐川証人喚問事件』として、まともな法治国家であるならば、計り知れない衝撃を与えたはずであった。

 しかし、国民の多くからは大きな批判が起きない。それは国民も法に無知であることを意味する。日本は本当に法治国家なのだろうか。

 現状の背景には、国民を法律・法から遠ざける日本の政治風土に根本原因がある。成人国民の法知識と法意識は紛れもなく小中学生レベルである。この状況に一石を投じたい。

 

「刑事訴追のおそれがある」との証言拒否をさせない論理的糾弾方法(敬称略)

 野党のトップバッターである民進党・小川敏夫参院議員は東大出の弁護士(ヤメ検)である。いわば法律のプロである小川の質問が何の成果もなく終了したことを国民は目撃した。その質問は、ほぼ全部が佐川に証言を拒絶された。これは実に不可思議なことなのである。

 たとえば小川が「証人(佐川)は、改ざん前の決済文書をいつ見たか」と質問し、それに佐川氏が「刑事訴追のおそれ」を理由に証言を拒否したとき、なぜ、「佐川氏のいう刑事訴追とは具体的には何という犯罪なのか」と質問しなかったのだろうか。この質問さえすれば佐川氏の証言拒否が違法であることを実に簡単に証明できたはずだ。

 以下、問答形式でその論理過程を示そう。


(事例1) 
 小川「証人のいう刑事訴追とは具体的にどんな犯罪ですか。罪名で答えてください」

 佐川「公文書偽造罪です」


 佐川の答えとしては、後編で解説する虚偽公文書作成罪もあるが、各罪は構成要件が異なるため、佐川はどれか1つに限定して答えざるを得ない。つまり、佐川の証言拒否の当否は細かく精密に分析審理することができる。


 小川「改ざん前の決済文書を見た時期を答えることがどうして公文書偽造罪に問われるのですか」

 佐川「改ざん前の文書を見て改ざんする箇所を決定するという意味で、見る行為は改ざん行為の論理的前提行為です。改ざん前の決済文書を見た行為の後に改ざん行為の時期が特定できるため、改ざん行為の時期の自白に該当します」


 佐川は「経緯」という表現で、直接の「罪となる事実」以外の動機や因果関係のある事実のすべてを包含させた。例文の答えは因果関係がある事実の主張。


 小川「公文書偽造罪の『罪となる事実』(犯罪構成要件事実)を言ってください」

 佐川「公文書(決済文書)の作成権限のない者が公文書(決済文書)を作成することです」

 小川「改ざん文書とは関係のない適法正当に作成された改ざん前の適法文書を見ること、そしてその見た時期を述べることが『罪となる事実』と規定されていますか」

 佐川「いいえ」

 小川「罪となる事実でない事実を証言してどうして罪にとわれるのですか」

 佐川「罪となる事実の論理的前提行為だからです」

 小川「では、コンビニでの万引き行為を例にとれば、(1)店に入店した時刻、(2)万引きしようと店内の商品を見定めたとき、はともに万引き行為の論理的前提行為ですが、(1)、(2)のどの事実を証言したら万引き犯として刑事訴追をうけますか」

 佐川「罪となる事実そのものを証言(自白)しない以上、罪にとわれることはありません」と答えることはなく、無言に終始せざるを得ないだろう。

(つづく)
【青沼 隆郎】

<プロフィール>
青沼 隆郎 (あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

 
(後)

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