2024年04月27日( 土 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(13)

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主要中銀トップの交代と金融政策の行方

 次に世界の金融政策についてのお話をしたいと思います。全体的に申し上げまして、金融危機への対応、今や金融危機というのは1920年代のそれではなく、われわれのいうところの2008年の「リーマン・ショック」のことを指すのですが、リーマン・ショックはそれだけ世界経済、とくに金融にとって大きな危機だったわけです。これには日本の金融機関が直接巻き込まれなかったので、その認識はないと思いますが、世界のなかでは大変な話でありました。かつて、この時の関係者でありますガイトナー(元米国財務長官)という人は、「あの時期、よくあなたは金融のメルトダウンを防ぎましたね」という質問に対し、「いや、そうではなくメルトダウンはすでに始まっていたのだ」と答えたと言われています。すでに世界の金融制度は崩れかかっていたというわけであります。それほど深刻なものでしたが、その金融危機に対応するため主要国は史上に例のない超金融緩和政策、すなわち量的緩和、いわゆるQEを行っていたのですが、そのQEのねじれ、すなわち各国の違いがかなりはっきりしてきています。これが1つです。

 もう1つはトップの交代です。米国の中央銀行制度であるFed(連邦準備制度)議長は今度パウエルという人になりますし、日本銀行は黒田総裁が今年4月に任期が来ます。欧州中央銀行(ECB)も来年10月いっぱいで現在のドラギ総裁の任期が来ます。昨年も申し上げましたので簡単に申し上げますけれども、各中央銀行の現在の状況はかなり違うわけです。その金融政策については2つのものを見る必要があります。1つは量的緩和、いわゆるQE(Quantitative Easing)をやっているかどうか、あるいはそれの縮小を進めているかどうかということと、もう1つは金利政策をどうするか、つまり0%の金利を維持しているか、上げつつあるかということであります。

続く米国の金利引き上げ

 米国の場合にはもうQE、量的緩和、いわゆる異次元の金融政策は2014年10月に終了しまして、今やバランスシート縮小という出口政策を昨年9月から開始しています。この量的緩和というのは、中央銀行が長期国債を計画的に大量に買い続けるというものです。その結果として中央銀行は膨大な国債を保有することになりますので、この国債をどうやって減らしていくのかが出口政策というわけです。米国の場合はこの昨年9月に開始したこの出口政策を今年1月からさらに強化しています。技術的にいえば、保有している国債の満期になって期限が到来したときにどの程度新しい国債を買うかといったことなのです。

 欧州や日本の金利はゼロなりマイナスですが、米国はこれを正常化するプロセスにあります。正常化というのは、彼らからすると本来あるべき金利水準まで持っていくことを意味します。この本来あるべき金利がいくつかと言いますと、たとえば米国の場合3.0%とか3.5%と言われていますけれど。その引き上げなければならない理由は将来経済が悪くなった時に金利を下げて景気を剌激しなければならず、そのためには余裕を持っておかなければならない。従ってその時のために本来あるべき金利まで引き上げておくのだと。これは本当に立派な議論です。日本の金融当局は、こんな長期的観点からの議論はしていません。いずれにしてもわれわれとして知るべきことは米国の金利は上がってきているし、今後も上がるだろうということです。

 昨日か一昨日の新聞でFedは金利を上げなかったと書いていますが、今の議論は2018年に0.25%ずつ3回上げるかどうかです。つまり現在の金利が1.25%ですから、今年中に金利2.0%まで行くかもしれないのです。それで米国内においては低失業率、これはかつて失業率が5%まで行くのが目標だと言っていましたが、4%台のいいところに十分入っています。それから経済成長も良好でありますし、物価は数字のうえではまだ十分でありませんが、実態的には目標の2%まで行くという判断です。さらに議長交代、これはFedの議長がパウエルさんに代わりますから、パウエルさんは「nonideological, pragmatic」、要するに原理主義ではなく実務的だそうです。なぜそういうことをいうかと申しますと、このパウエルさんは前の民主党政権時に理事に任命されていますから、従ってこの人が共和党政権の下でFedの議長となるかどうかは1つの問題、イシューでしたが、まあそれを認めるということであります。このことから見えるのは、米国は金融政策の方向はあまり変更がないだろうということです。

(つづく)

 
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