2024年04月27日( 土 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(16)

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政策のねじれと特異な日本の立ち位置

 次に、この金融政策のねじれによって、国際的なスケールで何か起こるか分からないという問題があります。すなわち、米国の金利は上がり、EUもそっちに向かい、日本はそのままだということで、主要国の金融政策が分かれますと、やはりどうしてもマーケットが不安定になりがちです。そうすると困るのは途上国です。多くの途上国は海外からの資金の取り入れで成り立っていますから、金融市場が不安定になるとそれの借り換えがしづらくなる。また金融市場が不安定になると(借り入れ金利は必ず上がります。そうすると調達し得てもその資金の金利コストが高くなります。従って途上国は痛い目に会うということになります。それが考えられるシナリオの1つです。

 もう1つは、もうその傾向が出てきていますが、実はすでにバブルが進展しているのではないか、そしてそれが破裂するのではないか、ということです。今、米国は非常に景気がいいですね。実体経済もいいのですが、その1つはやはりトランプ大統領の法人税減税の長期的効果の先取りという面もあると思います。さらにいえば、将来本当に財政赤字が進展するということになると、これも経済全体として刺激効果が出ると考えられているのです。そうすると、それもバブルの要因であります。もともと、これまでかなりの間、主要国が異常な金融政策を採ってきたこと自体がバブルの種をまいたと見ることができるのです。

 そのなかで気になるのが、日本が独自の立ち位置にあるということです。先述の通り、金融面では日本だけが超緩和政策の進行中であり、しかもそれがまだ1、2年は続きます。また、財政についても、日本だけが後述の通り健全化の道がついていないのです。米国の場合には先ほど申し上げましたが、共和党は財政赤字に厳しいのです。歴史的にはこれまで結果的には緩かったですけれども。共和党の中には財政赤字が増えるから今回の法人税減税には反対だという人すらいたようです。日本の場合には、これは前もって申し上げておきますと、今回の予測ではプライマリーバランスの達成が2027年度に先送りされることになっています。昨年の夏は25年度と言われ、その前は2020年度だったのですが、さらにたどってみますともともとの目標は11年度だったのですね。それがどんどん先送りされているわけです。すなわち、財政赤字に対しての認識が緩やかで財政の健全化はさらに遅れそうなのです。それが十分議論されて、メリット、デメリット双方比較のうえでそれもまたやむを得ないという認識の下でやられているならこれは見方により結構なのですが、先送りされているということが国民の前に明確にならないうちに、先送りされているようなのが、気になるのです。

 さらに、ついでに勉強しましたら、小泉内閣の時に財政改革法というのができて、そしてその年間の財政赤字をEU並みの3%以下に持っていこうという法律ができていたのです。その法案が次の年に凍結されて、結局廃案になりました。そういう歴史をもつ我が国において先ほど申し上げたようなプライマリーバランスの達成すら先送りされています。このプライマリーバランスというのは黒字ではありません。新聞に「プライマリーバランスの黒字化は27年度へ先送り」といった見出しが躍っていましたが、プライマリーバランスを均衡化させるのであって、財政が黒字化するわけではありませ
ん。プライマリーバランスを達成してゼロになるというのはどういうことかと申しますと、それ以上国の債務のGDP比が増えないということです。そういう意味でこれは大変な話だと私は思うのです。いずれにしましても、財政政策のうえでも日本は独自の立場なのです。日本の金融政策も先ほど申し上げましたように今のところ、QEを引き続き続けると。しかもオーバーシュート型コミットメントであると。こういう独自の立ち位置について市場がどう反応するのか。万一これはどうもおかしいではないかという話になると、日本だけが変なことになる恐れがないわけではないと思います。

(つづく)

 
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