2024年04月24日( 水 )

ふくおかFGと十八銀行の経営統合~成否は債券譲渡と店舗譲渡

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 西日本フィナンシャルホールディングス(FH)の谷川浩道社長は5月10日の決算記者会見で、十八銀行と経営統合を目指すふくおかFGの柴戸隆成社長から、今月初めに長崎県内の取引先の借り換えに対する協力を依頼されたことを明らかにした。
 実際の譲り受けについては「お客さまや長崎経済にプラスになるのかどうかに尽きる」と語り、「金額の規模や取引先についてもまったくの白紙であり、具体的な話があった段階で真摯に検討する」と述べた。
 西日本FHは、長崎県内に3支店を持つ西日本シティ銀行と、長崎市に本店があり県内に19支店を持つ長崎銀行が傘下にいることから、債権譲渡先の有力な候補となっている。

債権譲渡だけでは前途多難な経営統合

 ふくおかFGと十八銀行は、7日から統合後の貸出金シェアを下げるため、全取引先約1万6千社を対象に借り換え意向の調査しているが、この経営統合にはまだまだクリアしなければならない大きな問題が待ち構えているようだ。【表1】を見ていただきたい。

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この表から見えるもの

◆長崎市・佐世保市・諫早市・大村市・南島原市・西海市には債権譲渡できる長崎銀行や他行の支店がある。しかし雲仙市、平戸市、松浦市、離島の壱岐市、対馬市、五島市の6市及び東彼杵郡、西彼杵郡、北松浦郡、南松浦郡の4郡部には債権譲渡できる銀行はない。
・長崎県の2018年4月1日現在の推計人口は1,341千人。今までは十八銀行と親和銀行が競合していたが、経営統合すると債権譲渡する銀行なしの人口は306千人となり、寡占化が加速し、むしろ顧客サービスの低下につながることが懸念される。

過去の事例を検証する

山陰合同銀行がふそう銀行を救済合併
◆1991年4月、鳥取市に本店があるふそう銀行(住友銀行系の第二地銀)は、経営悪化にともない島根県松江市に本店を構える山陰合同銀行に吸収合併された。同行がふそう銀行を吸収合併すると、鳥取県における預金・融資の寡占化が進むため、大蔵省や公正取引委員会の指導を受けて、合併後の1991年9月から同年11月にかけ、3支店を鳥取銀行に譲渡し、寡占地域を解消している。

◆【表2】を見ていただきたい。鳥取県内の山陰合同銀行と鳥取銀行の支店及び出張所の数はほぼ同数であることがわかる。島根県の2018年4月1日現在の推計人口は680,252人。鳥取県は561,368人。両県合わせて1,241,620人で長崎県の1,341,295人と比べて約10万人近く少ない。そのため両行は経費節減のため、各市町村に核となる支店の下に出張所を配置する合理化を進めていることから、あえて出張所を併記している。

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・その翌年の1992年4月1日、愛媛県に本店を構える伊予銀行は、業績不振で普銀転換できなかった東邦相互銀行を預金保険機構から80億円の低利融資を受け救済合併。預金保険機構が資金援助を発動した初のケースであった。

救済合併後の山陰地銀の貸出金シェアについて

 【表3】、【表4】を見ていただきたい。

これらの表から見えるもの

・【表3】は山陰合同銀行、島根銀行、鳥取銀行3行の貸出金残高のシェア表である。それぞれ73.7%、6.9%、19.4%となっており、島根銀行の1ケタ台が目につく。

・しかし【表4】を見ると、島根県内における貸出金シェアは山陰合同銀行の44.1%に対し、島根銀行は14.4%。鳥取県内における鳥取銀行は41.5%となっている。この数字から見えるように、公正取引委員会は債権譲渡するメドを二ケタ台としているようだ。

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経営統合の成否は債権譲渡と店舗譲渡

・日銀系列だったふくおかFGは二代続けてプロパ――。一方西日本FHは大蔵省(現金融庁)出身者がトップを世襲している。【表5】、【表6】を見ていただきたい。

これらの表から見えるもの

・【表5】は会長の経歴である。両者とも年齢は75歳と同じである。【表6】は社長の経歴である。ともに修猷館で同期である2人が経営統合の主役となっているが、実権はまだ2人の会長が握っているようだ。
 この経営統合の成否は、債権譲渡だけではなく、思い切って十八銀行の行員とともに店舗譲渡するかどうかだろう。会長及び社長の決断こそが、シェアの問題も含め公正取引委員会も納得する最善の解決策ではあるが、いざ実行するとなるとその道程は高く険しいものとなりそうだ。

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【(株)データ・マックス顧問 浜崎裕治】

 

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