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2018年07月20日 07:05

気になる「死に方」(前)

大さんのシニアリポート第68回

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)では、最近「死について」の話がやたらと多い。常連の平均年齢が75歳を超す(最高92歳)人たちだから、当然ともいえる。著名人の死にも遠慮なく口を挟む。最近では、桂歌丸さんの「死」だろう。「人生の幕引きは十人十色、決まりなんかない。一生懸命生きていれば何か残すもの。あたしの最期は、高座で笑いながら終わりたい」が口癖で、ほぼその通りになった。しあわせな人生だったといえる。そうありたいと、「ぐるり」の老雀たちがさえずる。この数年のいくつかの「死」について記す。

 「旧大口病院殺人事件」が急展開を見せた。事件が報道されたのは2016年9月。横浜市神奈川区の大口病院(「横浜はじめ病院」に改名)で入院患者が相次いで不審な死を遂げた。ヂアミトールを点滴液に混入させて殺害したとされ、当初から疑いの目を向けられていた看護師が逮捕された。
「自分が勤務のときに亡くなると、家族への説明が面倒だった」(「朝日新聞」平成30年7月8日)というのが容疑者の殺人動機だったという。面倒だから人を殺す。人の命を預かる看護師が、この程度の理由で何人もの入所者の命を奪うのだ。
 有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の殺人事件もそうだ。入所者3人を4階のベランダから庭に投げ落とし殺害したという事件だ。この事件で元職員の今井隼人容疑者が逮捕された。「今井容疑者は2015年1月から5月にかけて、入所者3人から現金や指輪など計約80万円相当を盗んだ疑いで逮捕、起訴され、横浜地裁川崎支部で懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決を受けた。本人が自発的に申告した余罪を含め、19件もの窃盗を重ねていた」(「週刊朝日」2016年3月4日号)。
 今井容疑者には「仮想的有能感」があったと思われる。「仮想的有能感」というのは「いかなる経験も知識ももち合わせていないにもかかわらず、自分は相手より優秀であると一方的に思いこんでしまう錯覚のこと」(名古屋大学大学院教育発達科学研究科の元教授で心理学者の速水敏彦氏の造語。『他人を見下す若者たち』講談社現代新書より)で、今井容疑者(当時23歳)のような比較的若い人が抱くことが多いとされる。
 殺人の動機は、殺した3人の入所者を始めとする窃盗のもみ消し、口封じと介護ストレスを与えた「唾棄すべき人間たち」への“報復”だ。おそらく3人の入所者に「お前が盗んだ」と口汚く罵(ののし)られたのだろう。「俺はこんなところで働く人間ではない。有能な俺が、人間として役立たずの入所者を始末して何が悪い」という意識。3人を抹殺することで、自分の犯した罪も、ここで働かざるを得ない自分の哀れな姿も、すべて清算できると短絡的に考えたのだ。
 1983年2月、横浜市内で起きた路上生活者殺人事件の動機も同じだ。犯人は20歳未満の少年たちで、そのなかの1人は、「汚い浮浪者を始末して町内美化に協力してやった。それなのに、なんで文句をいわれるのか分からない」という内容の話をした。彼らに備わった差別意識と過剰な自信。まさに「仮想的有能感」そのものである。横浜の事件にみられる、「路上生活者」=「社会に不要な人たち」=「始末可能」という図式。
 今井容疑者も、「老人ホームに来る高齢者」=「社会に不要な人たち」=「始末してもいい」という同じ図式を描く。犯行後、今井容疑者自ら第一発見者を装い、得意の心臓マッサージという救急救命措置を施すことで、救急救命士としてのプライドを保った。報道記者にインタビューを受けても、臆することなく堂々と返答した。自己顕示欲の強さを表に出すことで自らの優秀さを誇示した。おそらくあのとき最も高揚した気分を味わうことができたに違いない。不安をかき消すには、「や(殺)ってない」と思いこむのではなく、「自分は不要な人たちを排除できる立場にある。なぜなら他人より優秀だから」という思いこみ、すり込みを働かせることだ。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

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