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2018年07月23日 07:05

気になる「死に方」(後)

大さんのシニアリポート第68回

 2016年7月26日未明、神奈川県相模原市緑区千木良にある知的障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」で、侵入してきた男が、入所者19人を殺害、26人(後に27人に)重軽傷を負わせるという前代未聞の事件があった。「障がい者は生きていても無駄」というのが殺傷の動機だと植松聖容疑者は話す。1人の若者を、「ヘイト殺人鬼」に豹変させた動機は何だったのだろうか? 容疑者のヘイトクライム(憎悪犯罪)もまた、「川崎有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町殺人事件』、昭和58年横浜市内で起きた「路上生活者殺人事件」と共通した動機をもつ。
 「(植松聖に)『ヒトラーの思想が2週間前に下りてきた』と発言していたという。ヒトラーは命に優劣をつける優性思想から、心身障がい者約20万人を殺害したとされる」(「朝日新聞」2016年7月29日)。「障がい者の安楽死を国が認めてくれないので、自分がやるしかないと思った」「障がい者はいらないから殺したいのに、政府が許可してくれない」(同8月16日)という容疑者の意識と、前述した2つの事件の容疑者の意識とが見事に合致している。実に身勝手で見事なまでの差別意識、ヘイトクライムだ。
 今年1月に起きた西部邁さんの「自死」にも衝撃を受けた。「自殺幇助罪」でふたりの会社員が逮捕された。私は新宿のバーで飲んでいる西部さんを数回見かけたことがある。直接話したのは、平成20年7月13日、「報道2001 シリーズ老人漂流 孤独死を生む限界団地」(フジテレビ)の生放送終了後。奥様を亡くされたばかりの西部さんが、「孤独死も悪くないね」と発したことから、「死ぬのは自由ですけど、孤独死は周囲に迷惑をかけますよ」と私がひとこと。「どんな迷惑をかけますか?」という質問に、「発見されるまでの時間にもよりますが、腐乱した死体にウジがわき、警察の検視にも清掃業者(特殊清掃業)にも迷惑をかけます」といった。すると、「そうですか。死んで迷惑をかけるというのもね…」といい、黙した。
 当初、多摩川への入水自殺と報じられたが、西部信奉者のふたりによる「自殺幇助」に変わった。西部さんは自死についても、思想家らしい独自の考え方を示している。送っていただいた彼の最後の著書『保守の遺言』(平凡社新書 2018年2月27日初版第1刷)のなかで、こう指摘している。
 「極端な例を挙げれば、痴呆状態に入ったままで、あるいは糞尿垂れ流しのままで死期に近づいている自分の姿について、『今此処』の心身が健全(といってよい)状態にあっても、何ほどかの予測・予想・想像をもってしまう。要するに、過去の経験に基づいて形成される未来への展望が現在の自己の生にかんする意味づけに、強かれ弱かれ、影響を与えてしまうのだ。で、極端な場合、そんな種類の死が間近に待っていると強く展望されるなら、今のうちに自裁してしまおうと決断し、そのための準備をし、そしてその決意を実行する、ということになって何の不思議もない。というより、そうした精神における決断性を具体的にまで固めたとき、自分の現在の生が晴れやかになって、自裁の瞬間まで明るい気分でおれるということになるのではないか」と明言している。当時、西部さんは手足が不自由で「自死」すらままならなかった。
 同著「あとがき」に、「すべて終わった。ということは、自分の外部に存在しているのみならず内部にも多少とも食い込んでくる『状況』というものをほとんどすべて抹消するのに成功しえたということで、これでやっと『病院死を拒けて自裁死を探る』態勢が完了したということである」と述べている。「あとがき」に記された日が、2018年1月15日。自死したのが「あとがき」を書いてからわずか6日後の21日未明である。結果として自死を手伝ってもらうことになっても、「自裁の瞬間まで明るい気分でおれた」といえたのであれば、本人にとっては本望だったといえよう。
 人生、最期はいろいろ。ただ、自分の意思に背いての「死」だけはご勘弁願う。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

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