2024年04月30日( 火 )

森保一氏、サッカー日本代表監督に 護送船団メディアに守られた船出

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 日本サッカー協会は、26日の理事会で森保一氏のサッカー日本代表監督就任を承認した。U-23日本代表(東京オリンピック代表)監督と兼任となる。
森保氏は1968年生まれ、長崎市出身の49歳。長崎日大高校から日本サッカーリーグのマツダに入団。1992年に日本代表に招集され、いわゆる「ドーハの悲劇」でもプレーした。日本代表では通算35試合出場1得点。Jリーグ発足後はサンフレッチェ広島でプレーし、同クラブのレジェンドとして今も慕う声は多い。引退後、2012~17年はサンフレッチェ広島の監督として、3度のJ1優勝に導いている。17年からはU-23代表監督を務め、18年ロシアW杯にはコーチとして参加している。

 日本サッカー協会と田嶋幸三会長は、ヴァヒド・ハリルホジッチ元監督の突然の契約打ち切りから西野朗前監督の就任、そして今回の森保新監督就任に至るまで、代表監督人事に関して「会長の専権事項」という名目を盾に明確な説明を行う姿勢を見せていない。本来ならば、この件について厳しく追及すべきメディアも、ここ数日「森保新監督就任」に向けて協会側がリークする情報に唯々諾々と従い、「森保ジャパンのメンバーは」などとはしゃいだ記事を出して、協会へのシッポ振りを惜しまない始末だ。
 ロシアW杯では、日本代表は想像をはるかに超える幸運とピッチ上の選手たちの奮闘でベスト16進出という望外の結果を得た。しかし実態は、「1勝2敗1分」で、しかも試合開始後3分で1人少なくなった相手に1勝を挙げただけに過ぎない。さらにベスト16のベルギー戦では2-0でリードしながら、試合を終わらせることができずに3点を奪われて敗北。10年の南アフリカW杯のベスト16、パラグアイ戦では必死に守って引き分けにもち込み、PK戦で敗れたわけだが、今回は2点リードという圧倒的に有利な状況をみすみす逃した。「試合を殺す」ためのプランや交代選手がいなかったことは明白。ベルギー戦は「健闘の末に惜敗した」のではなく、「勝てるチャンスを準備不足で逃した」といえる。この事実から目を背けてはならない。

 協会がなすべきことは、新監督就任で景気よく花火を打ち上げることなどではなく、ハリルホジッチ元監督の選考から解任に至る経緯の解明、西野前監督の選手選考の是非、指揮したW杯4試合とW杯前の親善試合の検証と、W杯全体のトレンドを踏まえた総括だ。
 ハビエル・アギーレ元監督、ハリルホジッチ元監督らの人選は「世界のサッカーの潮流を見て、そこで勝てる代表を」というビジョンでなされたもの。2人の元監督は、W杯で結果を残した実績をもっていた。一方、プレーヤーとしても指導者としても国内での経験しかない森保監督で、どう世界と戦うつもりなのか。会見では田嶋会長ら協会首脳陣からは繰り返し「世代交代」という言葉が出たが、ハリルホジッチ監督が抜擢した若手選手を排除し、ベテラン中心の選手選考を行い、若手選手が貴重な経験を積む機会を奪った事実は消えない。

 かりそめの「W杯16強」に浮かれ、実態のない「オールジャパン」「ジャパンウェイ」で挑むには、世界の壁はあまりにも高く、厚い。世界最先端のサッカー強国がW杯で見せた高度な組織力とスピードあるサッカーを実現するノウハウが、森保新監督を始めとしたコーチ陣にどれだけあるというのだろうか。
 「終わったことはいいじゃないか」「結果が良かったからいいじゃないか」という姿勢では、いつまでも進歩はない。「オールジャパン」という言葉に心地よさを覚える人々もいるかもしれないが、そこに潜む国粋主義的な姿勢には危うさを強く感じる。日本発祥のスポーツで、「日本のお家芸」を自任する柔道ならまだしも、日本は世界のサッカー界ではいまだ後進国、弱者である。「日本語でのコミュニケーションができない」という理由で外国人指導者を拒絶するような排外的な発想で、急速に進歩を続ける世界のサッカーをどうキャッチアップしていくつもりなのだろうか。
 もちろん筆者も、A代表とオリンピック代表の健闘には心から期待している。しかし、日本サッカー協会の姿勢には、いまだ大きな疑問符がつくことは、改めて指摘しておきたい。

【深水 央】
 

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