2024年05月15日( 水 )

苦渋の選択をした日銀~大規模な金融緩和策を一部修正

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 日本銀行は7月30、31日の2日間、金融政策決定会合を開催し、2%の物価上昇率の実現に向けて、「短期金利」と「長期金利」に誘導目標を設け、5年間異次元の大規模な金融緩和策を続けてきたが、長引く緩和の副作用を和らげるため、一部修正することを賛成多数で決めた。

~日銀の主な修正変更内容~
 政策の持続性を強化するため長期金利の一定の上昇を容認するなどの新たな措置を取ることにした。

(1)長期金利について
◆長期金利の「0.2%」程度までの上昇を容認する。
・記者会見に臨んだ黒田東彦総裁は「金利変動幅を概ねプラスマイナス0.1%の幅から、上下その倍程度に変動しうることを念頭に置いている。」と語り、現在0%程度としている長期金利の誘導目標について、「金利は経済・物価情勢などに応じて上下にある程度、変動しうるものとする」との見方を示した。

(2)短期金利について
◆短期金利のマイナス金利政策については、適用する金融機関の当座預金の額を減らすとしている。

(3)国債の買い入れ額について
◆「年間80兆円をめどという」文言は残しつつも、「弾力的な買い入れを実施する」との表現に改めている。

(4) ETF=上場投資信託について
◆緩和の一環として年6兆円買い入れているETFは、銘柄ごとの購入方法を見直す。6兆円は維持するものの、一部の銘柄で株価が振れやすいとの指摘に対応してTOPIX連動型を増やす。
 これら上記の修正内容は、大規模な金融緩和が長期化し、金融機関の収益低下や国債の取り引きが低調になっていることなど、金融緩和の副作用への懸念が強まっており、長期金利の変動の幅を広げて副作用を和らげることにしたものと見られる。

~物価上昇率2%の実現は遠のく~
◆合わせて公表した最新の物価上昇率の見通しでは、今年度をこれまでの1.3%から1.1%に、来年度をこれまでの1.8%から1.5%に、それぞれ引き下げ、2%の物価目標の実現の道筋は一段と不透明になっているが、2%の旗は降ろしていない。苦渋の選択であったことが窺える。

~株式市場の反応~
 31日の東京株式市場における日経平均株価は、公表された日銀の金融政策決定会合の結果を受けて小幅に値上がりしている。【表1】、【表2】、【表3】を見ていただきたい。

※クリックで拡大

<これらの表から見えるもの>
◆30日のダウ平均株価は前日比▲144.23ドルの2万5,306ドル83セントで取引を終えている。
 その流れを受けて、31日の日経平均株価の始値は前日比▲72.72円。前場の最安値は前日比▲192.63円と値を下げていたが、後場に入り日銀の一部修正が伝えられると値を戻し、前日比+8.88円の2万2,553円72銭で取引を終えている。

◆【表2】を見ていただきたい。九州地銀8行(含むFG・FH)の31日前場の株価は高安まちまちだったが、日銀の一部修正が伝えられると全行マイナスとなっている。銀行の株価にはプラスとならなかった。
・市場関係者は「日銀の金融政策決定会合の結果は投資家にとって概ね想定の範囲内との受け止めが多く、過度な円高にはつながらないだろうとの見方から安心感が広がり買い注文が出た」と見ているが、はたして株価上昇のきっかけとなるかどうか。
 副作用の影響が大きかった金融機関にとって、残すところ8カ月、2019年3月期の決算にどこまで貢献することになるのか。
 また来年10月1日より、消費税が10%に引き上げられる予定になっている。物価の伸びを欠くまま、緩和政策は2度修正を迫られたことになり、むしろデフレ脱却の道筋は見えにくくなったというのが現状ではないだろうか。

※クリックで拡大

【(株)データ・マックス顧問 浜崎裕治】

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