2024年05月08日( 水 )

ここまで来た、国家の私物化~被災地復旧よりも憲法改正、国民よりもトランプ大統領

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被災地対策よりも、憲法改正

 「災害続きの日本列島で必要なものは、憲法改正じゃないよね」

 7月下旬の通常国会閉幕後、自民党関係者がこう語った。言葉の主は安倍晋三首相の出身派閥、細田派の関係者で、痛烈な安倍批判と承知のうえで語ったのだ。

 言葉の意図するところは明白だろう。安倍首相は事実上の閉会日となった7月20日、記者会見の質疑において自民党総裁選で憲法改正がテーマになるのか問われて、「憲法改正は立党以来の党是」とし、「候補者が誰になるにせよ、次の総裁選においては、当然、候補者が自分の考え方を披瀝する大きな争点となると考えます」と、答えたからだ。

 9月7日告示、20日投開票の日程で調整されている自民党総裁選で、8月下旬に出馬を表明すると見られている安倍首相。3選をめざす安倍首相にとって憲法改正は、祖父・岸信介元首相の遺志を継ぐ最大のテーマ。「首相としてめざす最終的なゴール」とみる党関係者もいる。

危機管理能力欠如の象徴、「赤坂自民亭」

 しかし、来年4月までの「平成」時代30年間を振り返るだけでも、国際情勢において憲法に縛られたがゆえに危機的状況を生むということは無かった。むしろ、度重なる災害、未曾有の災害に見舞われた30年だったことは明らかだ。1995(平成7)年の阪神大震災、2011(平成23)年の東日本大震災、2016(平成28)年の熊本地震などの大地震を始め、台風などによる水害は毎年のように報じられている。

 今年に限ってみても、7月5日から広島、岡山、四国などを襲った西日本豪雨は200人を超える犠牲者をもたらした。その後に日本列島を襲ったのは、頻繁に最高気温が更新される「超」酷暑だ。さらに7月25日に発生した台風12号、従来の北上ルートとは異なり、本州を西に移動し、各地で被害が報告された。
 地球温暖化がもたらした現象だろうか、今の日本は「自然災害との闘い」の局面に突入したと言っても過言ではない。ところが、憲法改正には熱弁をふるう安倍首相も、自然災害には無頓着な一面を覗かせる。

 西日本豪雨が起きた7月5日夜、赤坂の衆院議員宿舎である酒宴が催された。名称は「赤坂自民亭」。自民党内の懇親を図る意味で、毎年開かれている会だという。自民党議員がそれぞれ地元の郷土料理や地酒をもち寄って酒盛りをするもので、例年は中堅、若手議員で行われている。そこに今回、安倍首相も出席した。現職総理の出席は初だったという。

 安倍首相だけではない。ほかにも、岸田文雄政調会長、竹下亘総務会長、小野寺五典防衛相、上川陽子法相、西村康稔官房副長官など党役員や閣僚も出席し、約50人の議員が地元名産品に舌鼓を打ち、名酒に酔いしれた。

 「弛緩しきっているとしか言いようがない。かつて、えひめ丸事故の際にゴルフをプレーしていたことで森喜朗首相(当時)は批判を浴びた。あの当時を思い起こさせる話だが、森元首相は対応の遅れがまずかったものの、事故自体を予見できるものではなかった。しかし、安倍首相の場合、豪雨が始まっているなかでの酒盛りだ。悪質極まりない話と言われても仕方ない」

 前出の細田派関係者はこう語り、うなだれる。えひめ丸事故は、2001年2月10日にハワイ沖で日本の水産高校の練習船「えひめ丸」が、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没した事故で、日本人9人が死亡した。森元首相は、事故発生時には休暇を取ってゴルフ中だった。事故の一報を受けた後も3ホールほど回ったことで、批判の集中砲火を浴びた。元清和会関係者は、この森元首相より、今回の安倍首相の赤坂自民亭参加は「悪質」だと指摘しているのだ。

災害対策で「新しい公共事業」の創出を

 地球温暖化の影響もあるのか、大規模な災害が頻発する“災害列島”日本においては、災害を想定した事前の対応策こそが一番望まれていることだろう。
 たとえば、東日本大震災以降、建物の耐震化対策に重点が置かれてきた。一方で、都市部において指摘されているものの、いまだに整備が進んでいないのが、老朽化した上下水道管の再整備だ。都市部で大震災が発生した際、脆くなった上下水道管が破断すれば瞬く間に都市機能は麻痺する。
 さらに河川の整備は進められてきたものの、今回の西日本豪雨では想定外の雨量に耐えられずに河川は氾濫し、周辺の家屋を飲み込んだ。山間部での山崩れは、無惨にも集落を破壊していった。

 都市計画の見直し、道路整備、河川整備の見直しなど、何から手を付けていいのかわからないほどやることは山積みなのだ。なにも「公共事業大復活」を目指すことはない。今夏の酷暑対策も含め、ソフト面の強化でもやるべきことは多いはずだ。内需拡大の側面も考慮すれば、公共事業の新しいあり方を考えるきっかけにもなる。新幹線や高速道路、無用の箱モノだけが公共事業ではないのだから。

被災者よりも、トランプ大統領の顔色をうかがう安倍首相

 一方で、防衛費に目を転じれば、異様な上昇率に驚くばかりだ。とりわけ、19年度予算の概算要求では過去最大の5兆3,000億円規模で調整されていると聞けば、被災地復旧に汗を流す関係者は開いた口が塞がらないだろう。
背景には、いくら世界から笑われようとも米国の追従者であり続ける、とても「独立国家」とは思えない日本の情けない実情がある。トランプ米大統領は巨額の対日貿易赤字削減を狙い、米国製装備品の購入増を日本政府に求めている。たとえば、陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」は1基1,000億円規模だという。

 「トランプの顔色をうかがって不要な装備品を購入するカネがあるのなら、その分を災害対策に回した方が国民は納得するのは間違いない。米国のご機嫌を取らないと同盟関係が維持されないというのは、そもそも同盟国とは言えないのではないか」(前出・元清和会関係者)

 2020年東京五輪について、「この暑さではスポーツどころではない」と、開催を危ぶむ声すら出ている。災害の現状を直視せずに宴会ではしゃいでいる暇があるのなら、少なくとも自らが被災地で汗を流し、問題解決にまい進する姿を見せるべきだろう。
 大盤振る舞いの防衛費増額を了承するよりもすることがあるはずだが、無論、安倍首相にそんなことができるはずはない。にもかかわらず党内は様子見だらけなのをみると、総裁選は虚しいセレモニーになるのだろう。

 いまに始まったことではないが、この国の政治家は国民を見ていないのだ。

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