2024年04月20日( 土 )

西鉄天神大牟田線・連続立体交差事業 鉄道高架化でまちはどう変わるか?(前)

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 西鉄天神大牟田線の鉄道高架化工事が進められている。この事業は、福岡県が事業主体となる延長約3.3km区間(春日原~下大利)と、福岡市が事業主体となる延長約1.9km区間(雑餉隈駅付近)があり、主要工事はどちらも西日本鉄道(株)が実施。総延長5.2km、事業期間約20年間、福岡県事業約390億円、福岡市事業約340億円となっている。そのほか関連事業を含めると、総事業費800億円に上るビッグプロジェクトだ。高架化が実現すれば、現状19カ所ある踏切が撤去され、慢性的な交通渋滞の解消が期待される。また、新駅設置や駅前開発などを契機にした新たなまちづくりへの期待もかかる。2020年度の高架化切り替えに向け、工事はピークを迎えようとしている。鉄道高架化によって、沿線のまちづくりはどう変わるのか。現場を取材した。

福岡市が事業主体となる雑餉隈駅付近高架化事業

▲雑餉隈駅仮駅舎

 福岡市が事業主体となる区間は、同市博多区南八幡町から西春町を結ぶ約1.86kmの区間で、雑餉隈駅がほぼ中間地点に当たる。雑餉隈駅付近には現在、7カ所の踏切があるが、ほぼ毎朝夕、踏切による交通渋滞が発生。福岡市の調査によれば、井尻7号踏切では220m(南福岡方面)、雑餉隈5号踏切では370m(御笠川方面)におよぶ車列が続いているほか、ほかの踏切でも100mを超える渋滞が多発している。渋滞以外にも、踏切による死亡事故も発生しており、踏切の存在は、まちの発展・活性化の阻害要因となっている。

 用地取得などの後、2015年度に高架化工事に着手。20年度の高架化完了を目指し、工事の進捗率は約69%(市負担額ベース)と順調にきている。この区間では、現線路をいったん仮線に切り替えた後、高架化する仮線方式(延長620m)と、現線路のうえに高架橋を建設する直上方式(延長1.24km)の2つの方式での建設が計画されている。

清水建設JV、鹿島建設JVが1、2工区を担当

 事業区間は、1工区事業起点~雑餉隈1号踏切(延長約1,030m)、2工区雑餉隈1号踏切~事業終点(延長約820m)の2つの工区に分割されており、2工区の西鉄バス雑餉隈営業所付近には新駅建設が予定されている。施工は、1工区を清水・安藤ハザマ・松本JVが、2工区を鹿島・大林・西鉄グリーン土木JVが担当している。1工区では、仮線路での電車運行が17年3月に開始。18年1月からは仮駅舎の利用が開始されている。2工区では、線路直上部分の高架化工事が始まっており、高架橋のコンクリート柱やスラブの建設が進められているほか、新駅の基礎杭工事がほぼ完了している。

「鉄道の安全運行」を第一に

 2工区現場を担当する、後藤賢史・鹿島・大林・西鉄グリーン土木共同企業体所長は、「営業している電車の直上、近接での仕事になる。鉄道の安全運行が第一だ」と話す。
 鹿島建設には、東京の本社に工種ごとの専門チームがあり、今回の高架化のような複雑な工程を含む工事の場合、専門スタッフからアドバイスなどを受けながら、工事を進めている。

直上施工の救世主?ハーフプレキャスト工法

▲ハーフプレキャスト部材設置作業の様子
 (写真は西鉄提供)

 安全運行の確保のため、2工区では、28躯体中、17躯体(延長317m)について、「ハーフプレキャスト工法」を採用。ハーフプレキャスト工法とは、工場などであらかじめ製造されたコンクリート部材を使用し、現場で組み立て、設置を行う工法。営業線直上の施工など「時間的な制約がある場所での施工」に効果を発揮する。同JVは、5月に初弾工事に着手し、同月、設置を完了している。

 ハーフプレキャスト工法は、直上での施工に「打ってつけ」だといえる工法だが、直上方式のすべての区間に適用できるわけではない。現場の施工条件、たとえば、踏切を挟んだ区間など、構造物の荷重条件が異なる箇所には不向き。従来工法の現場でのコンクリート打ちで行っている。

 この点、「ヤードが狭い現場では有効な工法だが、全部が全部使える工法ではない。道路が鉄道と交差する部分では、スパンが長くなるため、構造物の荷重条件が変わる。こういうところにはハーフプレキャストは使えない」(藤丸正博・西鉄鉄道事業本部施設部雑餉隈連立工事事務所土木係長)と指摘する。

 施工管理上のリスクを考えれば、営業線直上での施工は、できれば避けたい工法ではあるらしい。作業ヤードさえ確保できれば、仮線方式による線路横での施工のほうが、より安全に施工できるからだ。ただ、仮線方式になると、施工ヤード用地の確保のための費用が必要になる。高架化の方式の採用は、施工上のリスクと用地確保のコストとのトレードオフにあるようだ。

 福岡市道路下水道局の若松秀樹・雑餉隈連続立体交差課長は、「事業者の立場としては、円滑な事業推進と事業費の抑制は重要な課題。仮線方式を採用した場合、市街地における全区間の用地確保は長い時間を要するし、事業費的に非常に高くついてしまうことがある。今後の高架化事業は、直上方式の採用が増えていくのではないか」と話している。

(つづく)
【大石 恭正】

(後)

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