2024年03月28日( 木 )

中学生にもわかる公益財団法人の話(後)

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青沼隆郎の法律講座 第8回

各論

 日本体操協会の事業活動に限定して、公益財団法の趣旨を当て嵌め、問題となっている2つの紛争、登録コーチの処分問題、登録選手へのパワハラ問題を説明する。特に、第三者委員会設置の法的根拠やその権能には極めて重大な疑義があることを詳細に解説する。

1.登録コーチへの資格剥奪処分の法的検討

(1)資格付与権限と被資格認定者の法的利益―公法上の法律関係
 法的紛争の本質を理解する技法が法律関係の精密な論定である。紛争当事者に如何なる権利義務が存在するかの確定こそが、事案の核心となる。

(2)「登録コーチ」制度
 この制度により、登録コーチは体操選手(登録、非登録を含む)の指導者の公的資格を取得し、様々な指導ができ、かつ、それに対する報酬の取得が合法化される。体操の指導は一面で選手の身体生命の危険を伴うものであるから、医師免許の法的規制と同等の制度的合理性がある。この資格認定の権限が公益財団法人体操協会に付与される。それは体操協会の定款に表示され、公告・告示される。

 ここで重要なことは、体操協会による資格付与は公益財団法に基づく権限であるから、その本質は公的資格付与であり、その資格付与自体が公的処分、すなわち「行政処分」と本質的同等性を有する。このことは、付与された資格の剥奪等は不利益処分に他ならず、公的処分に関する基本法である行政手続法の精神に合致したものであることが必要である。

 また、資格剥奪の不利益処分は、個別に規定された手続(当然、監督官庁の認可を受けたもの)に従う他、司法救済の一般手続によってその当否が確定される。
 本件処分が如何なる手続規定に従って裁下されたのかの詳細が不明なため、適法性判断は推測になる。裁判公開原則の趣旨に照らし、処分自体の適法性のためには、文書による記録が保存されている筈で、当事者(処分者)は先ずそれを公開すべきであろう。

 重罰処分は予め、予告されている必要がある。具体的な事例等に基づき、予測可能であることが、刑罰法規の一般的通有性であり、罪刑法定主義の基本的要請である。この予告規定が存在しないと処分についてその重罰性が議論となる。本件でも被処分者および重要利害関係者の主張の一つが「不当に処分が重い」という主張である。当然、軽い処分に相当する違反行為であっても累犯となれば、重罪化する。これは、本件違反行為が極めて重罰に値するものであるかどうかが一つの重要な論点であることを意味する。

2.登録選手にたいする不法行為(パワハラ)

 本件不法行為(の主張)は極めて特殊な構造を有する。理事の不法行為は直接本人に向けられたものと、重要利害関係者である指導者に向けられたものの2種類が複雑に関係しあっているからである。指導コーチに対する資格剥奪処分はその当否に関わらず、本人の練習計画や能力向上維持に重大な影響を与える。その意味で、仮に正当な処分理由であってもその処分の程度が選手本人の利益を侵害するものであれば、その処分の相当性には疑義があり、まして、処分の相当性に欠ければ、選手に直接の被害が生じるから、被指導選手がコーチへの処分の重罰不当性を主張することには十分の理由がある。

3.具体的な法規(内容の概要)

 理事会による登録コーチの資格剥奪処分は理事会の業務執行の適否問題であり、登録選手への不法行為は理事の違法業務執行であるから、参照法規と判断過程は別異となる。

(1)理事会の業務執行に関する法規の内容
 理事は委任規定に従い法人を代表する。この理事の法人代理権は他人に再委任することはできない。
 実際の法人業務は理事会制度に基づき、理事会の決議に基づき執行される。必要な細則規定は理事会で決定するが、当然、監督官庁へ届け出てその承認を得なければならない。
 理事会による業務執行は事業年度ごとに監督官庁に報告されなければならない。
 理事の業務執行、ひいて理事会の業務執行は監事の監査を受けなければならない。監事は不正を発見したときは評議員会に報告するとともに監督官庁に報告しなければならない。

(2)理事の違法行為に関する法規
 理事は各自が独立して法人に対する善管注意義務を負う。従って、理事の不正行為は理事による告発にもとづき理事会による処分が本則である。しかし、第三者、被害者からの訴えを理事や監事が理事会に報告したりすることを排除する意味は全く無く、違法行為が発覚する端緒に何らの制限はない。告発に基づき、理事会が処分し、理事の資格剥奪に至る場合には評議員会による資格剥奪手続となる。
 理事の不法行為は当然、法人の責任となるため、被害者には法人が相応の被害弁償や原状回復責任を負う。
 なお、一般社団財団法には理事に対する責任追及の訴訟規定が別途規程されている。

(参考文献)具体的な法規(条文) 民法、一般社団財団法、私立学校法

(了)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

(中)

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