2024年04月19日( 金 )

なぜ、文科省は自発的「植民地化」に邁進するのか!(3)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際教育総合文化研究所 所長 寺島 隆吉 氏
朝日大学経営学部 教授 寺島美紀子 氏

複言語主義では母語を活用し母語以外に2つの言語

▲『英語教育が亡びるとき――
 「英語で授業」のイデオロギー』
 明石書店/2009年

 寺島 世界で日本人だけが、異常とも思えるほど英語一辺倒に大きく傾斜しています。いま世界の外国語教育のトレンドは欧州評議会による「複言語主義」です。複言語主義とは、「母(国)語+2つの外国語」が基本であり、2つの外国語のうち1つは近隣国の言語を選んで習得します。「多様な価値観を共有してお互いが豊かになる」という魂は21世紀の世界に相応しいものです。このためには全員が「4技能」を習得する必要はありません。自分の必要とする能力、たとえば「読める」だけでもよいとするのが複言語主義です。

 ところが日本は世界の大きな流れとはまったく方向違いの未来を見つめています。文科省は、間違った言語施策を上塗りするかのように、「大学の授業も英語で行い、こうした『国際化』を断行する大学には年間4億2,000万円の補助金を出す」という政策を打ち出しました。これに多くの国立大学や私立大学が「改革案」を掲げて雪崩のごとく応募しました。その典型例が「100人の外国人教員を雇い、共通教育の半分を英語で行う」という案を出して巨額の補助金をもらった京都大学でした。

 このままでは科学立国の土台であるべき大学が崩壊する、さらに「今後、京都大学からノーベル賞受賞者が出なくなる」という焦燥感に駆られて私が出版したのが『英語で大学が亡びるとき』(2015年)でした。これも幸いなことにかなりの反響を呼び、北國新聞や中日新聞のような地方紙だけでなく共同通信や月刊誌『新潮45』などからも取材依頼があり、4刷まで出るようになりました。

▲『英語で大学が亡びるとき―
 「英語力=グローバル人材」という
 イデオロギー』明石書店/2015年

 しかし不幸なことに、本書で私が予言したように、日本の研究力はいま大きな落ち込みを見せています(英国科学誌『ネイチャ-』2017年3月号参照)。最近でも、日経新聞(2018年5月5日)は、「日本の科学技術『競争力低下』、若手研究者調査で8割」と題した記事を載せ、「不安定な雇用や予算の制約で、短期的成果を求められることを疑問視する声が目立った」と解説しています。国立大学の地方交付金を毎年のように削りつつ、他方で英語にうつつをぬかす大学をつくる教育政策が何をもたらすかを、この記事はよく示しています。

 さらに日経新聞(2018年6月4日)は、「日本の大学 痩せる『知』。東大、中国・清華大に後れ」「東大も京大も地盤沈下。データで見る大学の研究力」と、2つの記事を掲載し、研究力の地盤沈下や日本の大学が世界のなかで相対的地位を低下させているようすを、図表やグラフで鮮明に示してくれました。それにもかかわらず文科省は、今までは高校だけだった「日本語を使わずに英語授業を行う」政策を、新指導要領では「2021年以降は中学でも行う」としました。このような事態が続けば、日本の国力・研究力の土台が崩壊することは間違いないでしょう。まさに「亡国の教育政策」です。

(つづく)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
寺島 隆吉 (てらしま・たかよし)

国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり―富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて―9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)をはじめとして多数の翻訳書がある。

<プロフィール>
寺島 美紀子 (てらしま・みきこ)

朝日大学経営学部教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of  Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。

(2)
(4)

関連記事