2024年05月03日( 金 )

【貴乃花親方引退騒動】法匪に騙された芝田山理事の暴論

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

青沼隆郎の法律講座 第14回

 芝田山理事は、何の臆面もなく、貴乃花親方辞職事件に関し、今回の引退届出は書式不備であり受理しないが、完備した退職届出の場合には、その届出を受付けて、受理するかどうかを理事会で審議すると公表した。滅茶苦茶な暴論であり違法手続の公言である。しかし、自信満々で公表する姿から、完全に法匪たる弁護士に欺かれていることは明白である。

 まず、貴乃花親方の法的地位を確認する。
 親方は協会から年寄資格を認められている。従って、親方契約の契約当事者になれる。親方は、協会から力士の指導育成と相撲道の維持継続に関する技能ありと認められ、相撲部屋を設置経営することができる。つまり、親方は協会と弟子育成指導委託契約を結ぶ当事者の地位にある。

 次に、今回の引退届を提出するに至った経緯を確認する。
 理事会は今般、全親方は5つの一門に所属すべき旨を決議した。無所属の相撲部屋の存在を否定した。その結果、無所属の相撲部屋となっていた貴乃花部屋はいずれかの一門に所属する必要が生じた。ここで、事件後、重大な食い違い(正確には協会による事後的完全否定)となる事実が問題となった。それが、貴乃花親方の告発状の内容に関する「事実無根」の強制問題である。

「事実無根」の強制問題

 一方当事者の協会が、事件後(貴乃花親方の辞任理由説明記者会見後)、貴乃花親方の辞職の選択のやむなきに至った理由が、告発状の事実無根を認めることであったとの主張に対し、そのような事実は一切ない、と公表した。ここで議論を簡明にするため、協会の主張が正しいとしよう。

 この場合、貴乃花親方は誤解により、自らの進む道は、事実無根を認めて協会に残るか、事実無根の強制を拒否して協会を去るかの二者択一と考えた結果、辞職の道を選択したことになる。

 そこで、いよいよ引退届(ないし辞職届)の受理・不受理問題の核心である。

受理(不受理)権

 公法上の権利や処分を求める場合、法は厳格精密な申請手続きを規定する。必要な証明資料などを添付資料として要求する。申請がこのような規定に反する場合、申請を却下する。

 これは極めて当然な行政行為であり、通常、窓口拒否処分と法性決定され、最終的には訴訟手続きでその法的効力を争わなければならない行政処分である。つまり、受理・不受理権とは、行政処分を求める行為に対し、所轄行政庁に法律上認められた拒否権である。

 一方、当事者の意思の合致で成立する契約については、その成立に関し、一方当事者の拒否権たる不受理権の概念の成立する余地はない。また契約の解除は、そもそも意思の合致ではなく、解除要件が存在する場合、それを相手側に通知することによって成立する。これまた受理・不受理の概念が成立する余地はない。

貴乃花親方の2つの権利(法的地位)の消滅理由

 年寄名跡は権利として力士間で承継されることが慣習として認められている。ただ、貴乃花親方の場合、一代限りの名跡として年寄名跡が認められている。これは、最終的に協会の承認によって成立する権利であるから、その法的性質は認可権利である。従って、貴乃花親方が年寄名跡を辞退する法的意味は、権利の返上に他ならない。これは一代限り名跡ゆえの特殊な属性による。従って、協会が貴乃花親方の返上行為がたとえ誤解によるものであっても本人が誤解だから撤回したいと言わない限り、その返上を「受理しない」という意味は文字通り意味不明である。

 親方の地位つまり、親方として相撲部屋を設置経営する権利は、協会と親方契約を締結することによって得る地位であり、親方契約の本質が弟子教育指導委託契約であるから、その契約の解除は契約解除の一般原則に従う。ここでも受理・不受理権概念の成立する余地はない。解除は解除の意思の通知(の到達)で成立する。解除行為が、被解除者に不当な不利益や損害を発生させる場合には不法行為責任が発生するだけである。

 以上の説明により、芝田山理事の公言が如何に法的根拠を欠く暴論、違法行為であるかは明白である。
 違法手続である最も明解な答えは、定款および、一般社団財団法・認定法のどこにも、理事会の受理・不受理権の根拠となる規程が存在しないことである。芝田山理事もまさか弁護士が法令や定款にも規定のないことを平然と助言するなど夢にも思っていないだろう。

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

関連記事