2024年11月07日( 木 )

日本が世界に誇る『おもてなし』のレシピ(後)

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(株)ホテルオークラ福岡

人材力を支える福利厚生、出産後の復職率は94%

▲ホテルオークラ福岡 水嶋 修三 社長

 国内旅行者のみならず、近年、インバウンドで活況を呈する福岡。同地のおもてなしブランドを牽引するホテルオークラ福岡では、顧客満足度の追求に万全を期し、設備投資にも積極的だ。2015年は一部のレストランおよびショップスペースを全面改修。時間をかけたリニューアルで「食によるおもてなし」を充実させた。ホテルの代名詞ともいえる地ビール(ホテル内の醸造所で製造)も変わらず大好評。7つのレストラン・バーは宿泊以外の利用客も多い。

 営業戦略面では、オークラニッコーグループの会員プログラム「One Harmony」(入会金・年会費無料)の増員に努める。17年度から始まった中期計画の最終年度である19年には全体の売上に占める会員のシェアを33%にまでもっていくことが目標だ。そのためには、会員限定の特典をさらに充実させていく。

 こうした取り組みは業績に表れている。75%が収益の目安となる客室稼働率は85%へ推移。その他すべての部門で売上が伸びており、全体で対前年比105%以上の伸びが見込まれている。

 この成果を生み出す原動力は、何といっても人材力にある。ホテルの利用者には決して見えてこない部分だが、「お客さまと同じぐらい、従業員も大切だと考えています」という水嶋社長は、他業種にも引けをとらない待遇面の改善と福利厚生を追求してきた。中長期計画には、とくに意識する5項目のなかで「ベスト・カスタマー」とともに「ベスト・エンプロイー(雇用)」に注力している。

 国内の全産業のなかで最も給与水準が低いといわれる宿泊・飲食業界で、水嶋社長は「変えなければならない」という使命感のもと、毎年改善を図っている。休暇や労働時間の管理では明確化を徹底し、有給休暇では、年に1回の連続休暇を最低5日(本来の休日も含む)『取らねばならない』とする。それもいうだけではなく、取得していない社員がいる部署では、その管理職の評価を落とすなど徹底。水嶋社長が好きなジャズの曲になぞらえて「Take FIVE(テイクファイブ)」とされたこの休暇制度は、16年度と17年度、連続で取得率100%を達成した。

 休暇以外では、2年前から、ホテルの営業に支障のないように班を分けるかたちで社員旅行を実施。産休や育休も柔軟に取得でき、自分が希望する部署で復職が可能。社員約320名のうち、約130名が女性である同社において、出産を経た女性社員の復職率は94%という高い数値を誇っている。「休暇をとることでリフレッシュし、心身ともに健康な社員でいてほしい」と水嶋社長。休暇を気がねなく取れる職場風土もしっかりと根付いてきた。

社内外で充実の研修制度

 歴史と伝統を重んじる一方、進取の気風が感じられるのもホテルオークラ福岡の特長といえる。ホテルでは「主体的に考えて行動しよう」をスローガンに、社員一同、自分たちでアイデアを出し合い、企画を立てて実行することに取り組んでいる。今までにないアイデアが運営に取り入れられることもある。17年度からは、ほかの従業員の「Good Job」(良い仕事)を目撃した人がメモ書きで社員通用口に張り出して、月1回、そのなかから最優秀賞を決める制度が導入された。

 新入社員には、基礎研修、応用研修と段階を踏むホテルオークラ伝統の教育が実施される。さらに、日経メディアプロモーション九州本部長を招いた新聞の読み方講座や、現役アナウンサーを講師に招いた正しい日本語講座、英会話教室など、社員向けのセミナーが必要とされる度に行われる。

 社外研修にも積極的だ。毎年1~2名の中堅社員を60年の伝統あるマネジメントスクール「九州生産性大学」(9カ月間)に派遣。17年(59期)は、同社・川崎誠致さんが主任・係長コースの最優秀賞に輝いた。さらに幹部社員には、オランダのホテルオークラ・アムステルダムへの半年間の海外派遣研修がある。このようにホテルマンとしてのスキルアップを通じて、自己実現を図っていく環境は、かなり整っている。開業20周年を迎える19年には、社員が人生を充実させるための取り組みとして、スポーツ・文化のサークル活動を会社側が支援する制度を導入することを検討している。

 「人が喜ぶ顔を見ることに喜びを感じられること」と「素直であること」。水嶋社長は、ホテルマンの資質について、その2つを挙げる。ホテルの魅力とは、突き詰めればホテルマンの笑顔にたどり着く。ホテルで働く人々が家族のような気持ちでいれば、お客さまを暖かい笑顔で迎えることができるからだ。由緒ある「オークラ」の名とともに受け継がれてきた「和の心」。ホテルオークラ福岡で行われている「ベスト・カスタマー」と「ベスト・エンプロイー」を両立させていく姿勢は、日本が世界に誇る『おもてなし』のレシピといえるのではないだろうか。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:水嶋 修三
所在地:福岡市博多区下川端町3‐2博多リバレイン
設 立:1996年2月
資本金:5億円
TEL:092-262-1111
URL:https://www.fuk.hotelokura.co.jp

<プロフィール>
水嶋 修三(みずしま・しゅうぞう)

 福岡県久留米市出身。1947年生まれ。70年4月、(株)日本交通公社(現・JTB)入社。2005年6月、(株)JTB常務取締役九州営業本部長を経て、06年4月から09年3月まで(株)JTB九州の社長を務める。11年6月に(株)ホテルオークラ福岡の社長に就任。

 

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