2024年03月29日( 金 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(10)

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青沼隆郎の法律講座 第18回

評議員の権利義務と評議員会の権能

 評議員会には監事と同じく理事・理事会の不正業務執行に対する管理監督権がある。しかし、監事までグルになった場合には、評議員会も機能不全に陥る。まして、協会の評議員会にはまったく法的素養のない力士出身者が選任されるのを通例としており、法的素養のない人間を重責の地位に任命することそのものが、不適切である。定款でもわざわざ総数の過半数を外部有識者とする旨規定している(定款12条2項)が、「有識者」という形容詞はまったく無意義化され、お友だち関係による選任が実情である。

 無能無知集団であることを図らずも露呈したのが、貴乃花親方の理事解任処分である。協会の評議員全員がただの「かざり雛人形」である証拠となる条文の存在を紹介しておきたい。

検査役選任の申立

 「公益財団法人の業務の執行に関し、不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があることを疑うにたる事由があるときは、評議員は当該公益財団法人の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立をすることができる。」(法86条を法197条で準用・読み替えしたもの)

 この申し立ては1人の評議員でもできる。このような強力な不正防止の条文があっても、使わなければ画餅と同じである。協会の評議員は、この条文の存在すら知らないことは確実である。世間の人が教えてやる他ない。

 マスコミは国民の耳目を自負するなら、4人の外部有識者になぜ、これほどまでに紛糾する協会の業務執行に関し、裁判所に検査役の申立をしないのかを公開質問すればよい。本物の有識者であれば、国民が納得する応答をしてくれるであろう。

処分手続の一般原則

 営利私法人である株式会社において、その従業員に対して労働契約・就業規則に従って懲戒処分をした場合、被処分者がその処分を争う手段は裁判所に対する訴訟による。

 では、公益財団法人が、その理事に対して解任処分をした場合、株式会社と労働者との間のように労働契約や就業規則があれば、まずそれが参照されるだろうが、理事と法人の関係は労働契約ではなく、従って、就業規則はない。では、貴乃花親方にはいかなる法的手段があるのだろうか。ここで最初に問題となるのが、監督官庁による当該解任処分の評価認識である。監督官庁が当該処分は違法であると認定すれば、法的に当該処分は存在しなくなる。  

 そこで裁判所は困った問題に遭遇する。監督官庁が当該処分の法的評価をする前に、やれ適法だとか違法だとかの判決が出せるのか、という問題である。(司法権による行政権領域への介入)

 協会の解任処分が「行政処分」と性質決定されていれば、このような問題は発生しない。行政処分は行政不服審査法に従って、審査請求の後にしか司法救済は受けられないからである。それは当然、監督官庁による当該処分の正式な法的評価が出た後の裁判所への提訴となる。

 私見では、公益財団法人の公益性・公共性から、理事解任処分は行政処分に準ずるものと考える。その処分に対する不服は監督官庁の最終判断の結果を経て司法救済の手続になると考える。そうでなければ、監督官庁の管理監督義務もうやむやにされてしまうからである。

 そうであれば、処分そのものも、行政手続法の規定が準用されることになる。それが、不利益処分に関する、聴聞弁解聴取手続の保障であるから、前述の主張は極めて当然のこととなる。

 従って、貴乃花親方は評議員会の解任処分については、まず、監督官庁に審査請求をすべきことになる。もちろん、このような審査請求ができるとの明文の規定は存在しないが、それは単なる立法過誤であるから、国民には何の責任もない。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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