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2018年11月09日 13:40

躍進するカンボジア・視察レポート(3)~未来を担う学生と悲惨な過去の遺構

日本語を学ぶ学生たち

 視察ツアー2日目の午後、最初に訪れたのは、プノンペン市内にある私立大学である「カンボジアメコン大学」だ。

 同学は2003年に設立された、今年で設立15周年のまだ若い大学ながら、教育学部や英語学部、経営学部、観光学部、ビジネス・経営学部、マーケティング学部、指導者育成学部、組織開発学部、ビジネス法律学部、法学部、建築・都市計画学部、情報工学部、会計学部、経済学部などの学部を有し、カンボジアでもトップクラスの大学の1つ。とくに特筆すべきは、日本語ビジネス学科を有することから、日本の企業や学校とも提携していること。我々視察団の訪問先も、もちろんこの日本語ビジネス学科だ。

カンボジアメコン大学
日本語ビジネス学科で学ぶ生徒たち

 同学の樋口浩章先生によると、メコン大学全体の学生数は約3,000人だが、日本語ビジネス学科で日本語を学ぶ学生数は毎年10~15人ほど。同学では日本の法政大学や帝京大学、多摩大などのいくつかの大学と連携協定を締結しており、なかでも東京福祉大学では、メコン大学の学生を研修で2カ月間受け入れてもらうなど、積極的に交流を図っているという。
 同学科では、マネジメントや会計学、マーケティング論、組織構造学などを学ばせることで、日本語を使ったビジネス世界で即戦力となり得るための人材育成に注力。これまでの15年間で、100人以上の人材を輩出してきたといい、卒業生の約8割が日本企業への就職など、日本に関連する仕事に従事しているという。
 また、学生たちは小さなビジネス実践の場として、「盆踊り大会」や「日本カンボジア絆フェスティバル」などで、毎年コロッケを自分たちでつくって販売。視察団が学校を訪問した前日の10月21日に、「イオンモールセンソックシティ」(イオンモールカンボジア2号店)で開催された「第14回カンボジア日本人会盆踊り大会」では、日本企業7~8社のスポンサー支援を受けて、コロッケ販売を行ったという。

 そうした学校紹介の後、我々視察団一行は、実際に日本語を学んでいる6人の学生と交流。3班に分かれて、各班2人の学生とディスカッションを行った。

 4年生のリアックサーさん(20)と1年生のナムロンさん(20)は、同い年ながら、先輩・後輩の関係。まだ日本語が少々つたないナムロンさんを、リアックサーさんが先輩らしくサポートするようなかたちで会話が弾んだ。
 前述の東京福祉大学での研修に参加して来日し、日本で2カ月間暮らした経験があるというリアックサーさんは、「卒業後は、日本の大学院に進学したい。可能であれば、また東京福祉大学の大学院に進みたいです。私は日本語が好きだし、日本の文化も好き。将来は日本に行って、日本のオフィスで働きたい」と夢を語ってくれた。彼女は、日本の文化――とくにアニメなどに魅力を感じているといい、日本のアニメ番組などを、YouTubeなどを使ってよく視聴するという。一方のナムロンさんも、「日本の文化には興味がありますし、ぜひ一度、日本に行ってみたい。今、大学で学んでいることを生かして、将来はマーケティングの仕事やITの仕事などで、日本人と一緒に働きたいです」と話してくれた。
 2人とも日本に対して非常に好意的であると同時に、自国であるカンボジアへの想いも強く、将来的に日本で働いた後は、カンボジアに戻って自国の発展のためにも尽くしていきたいという。
 「日本に行って、その後にカンボジアに戻ってきたら、両国の関係をもっと良くしていく“架け橋”になっていきたいと思います」(リアックサーさん)。

 メコン大学で学ぶ彼ら・彼女らのような、若い世代が切り拓いていくこれからのカンボジア――。その明るい未来に期待を寄せながら、視察団一行はメコン大学を後にした。

4年生のリアックサーさん(左)と
1年生のナムロンさん(右)
視察団一行と学生とで記念撮影
 

血塗られた歴史を今に伝える――

 次に視察団一行が訪れたのは、「トゥール・スレン虐殺犯罪博物館」。先ほどとは打って変わって、ここはカンボジアの“負の歴史”を象徴する場所の1つで、数十年前のカンボジアで起こった凄惨で悲劇的な過去を今に伝えている施設だ。

 かつて独裁者ポル・ポト率いる「クメール・ルージュ」は、食糧増産を図る目的で、プノンペンなどの大都市の住民や資本家、技術者、そして知識人などから一切の財産・身分を剥奪したうえで、農村部へと強制移住させ、農業に従事させた。また、学校や病院、さらには銀行どころか貨幣そのものを廃止し、一切の私財を没収。さらに宗教の禁止、近代科学の否定なども併せて行い、彼らのいう「階級が消滅した完全な共産主義社会」を建設した。その過程で、人と人とのつながりの基本であり根幹ともいえる“家族の絆”までをも否定。男性と女性、そして子どもを分けて暮らすことを強制し、家族制度そのものを崩壊させた。

 その一環として設けられたのが、政治犯収容所「S21」。もともとは学校として利用されていた施設を、ほとんど改修することなく、ほぼそのままのかたちで収容所および拷問場所として利用。2年9カ月の間に約1万4,000人~約2万人もの罪なき人々が収容されたとされており、収容者のほとんどが、生きてここを出ることは叶わなかった。生還したのは、たったの7人だったとされている。
 当時、この場所の存在そのものが秘密とされていたため、「S21」に公式の名称はなく、現在は地名を取って「トゥール・スレン」と呼ばれており、国立の「トゥール・スレン虐殺犯罪博物館」として展示公開されている。

トゥール・スレン虐殺犯罪博物館
 
自殺防止のための鉄条網が張りめぐらされた建物。
自ら死を選んで楽になることすら許されない――

 ここには、発見時のままに保存されている拷問室や、約1,000人分もの収容者の写真、ここから生還した画家が描いた拷問の様子の絵画などが展示。これら展示物は、2003年にユネスコの記憶遺産に登録されている。本来は忌避すべき場所を展示公開している施設という意味では、日本にも網走刑務所の旧建造物を保存公開している「博物館網走監獄」(北海道網走市)などがあるが、この「トゥール・スレン」はまた別格だ。第二次大戦中のナチス・ドイツの強制収容所「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所」と同じように、ここは非常に色濃く、リアルな“死”の気配や痕跡を感じさせる場所だ。

 施設内に一歩足を踏み入れると、辺りの空気が一変したように思えた。まるで、身の回りの空気が、重くまとわりついてくるようだ。視察団一行も自然と口数が減り、それぞれが浮かない表情で、かつてこの場所で行われた凄惨な行為に思いをめぐらせているようだった。

 施設内に掲示されている収容者らの写真は、老若男女問わず、皆、虚ろな目をした表情で写っている。それぞれが収容される際に撮られたものだというが、自らのこれからの絶望的な運命を察していたのであろうか――何十、何百と一様に並んだ、こちらをジッと見つめてくるような表情からは、「私はなぜ殺されなければならなかったのか!?」と問いかけるような、彼ら・彼女らの声なき叫びが聞こえてくるようだ。

 展示物の1つ、自らも収容されて地獄を味わいながら奇跡的に生還した7人のうちの1人である画家が描いた絵画には、多種多様な拷問の様子や乳幼児の惨殺の様子などが克明に描かれていた。思わず目をそむけたくなるような凄惨なその絵からは、人間が同じ人間に対してここまで残酷になれるのかと、思わずにはいられなかった。我々のような、現在の日本に暮らす人間には想像もできないような残酷な所業が、たった数十年前に行われていたという事実に衝撃を受けながら、一行はこの場所を後にした。

拷問部屋。壁に架けられた写真は発見当時の様子
おびただしい数の収容者らの写真

 なお、「トゥール・スレン虐殺犯罪博物館」の周りは、割とローカルな雰囲気の商店や住宅のある地域となっている。施設のすぐ隣で土産物販売を行うなど、悲惨な負の遺産をも自らの生活の糧として利用しようという、カンボジアの人々のある種のたくましさを感じざるを得なかった。

● ● ●

 この日の夕食は、プノンペン市内のイタリアンレストラン「Pizzeria Matteo Phnom Penh」でいただいた。同店は、日本企業のジローレストランシステム(株)(東京都渋谷区)が展開するレストランブランドで、東京の銀座に本店を構えている。在プノンペン歴が長い日本人であれば知らない人はいないとされ、進出している日系企業が会食などの際にこぞって利用するほどの名店だという。実際、出されるイタリアンはどれも美味しく、この日の濃密なスケジュールの疲れもあって、各人ともビールやワインが進んでいたようだ。途中、西日本鉄道(株)のプノンペン駐在事務所長も合流し、賑やかで楽しい夕食となった。

 この日の宿も、1日目と同じ「ソカ プノンペン ホテル」。視察団一行のなかには、カジノで荒稼ぎをした“ツワモノ”や、1人トゥクトゥクに乗って繁華街に繰り出す者も、いたとかいないとか――。こうして視察ツアーの2日目が無事に終了した。

イタリアンレストラン
「Pizzeria Matteo Phnom Penh」
プノンペン市内にある政府公認カジノ「ナーガワールド」
(バス内より撮影)

(つづく)
【坂田 憲治】

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